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・d!様の二次創作です。御本人様とは関係ありません。
・捏造、軍パロです
・体調不良表現が含まれます
大丈夫な方のみお進みください!
わんくっしょん
**
朝。
窓の外では雨の匂いがしていた。
ciはゆっくりと瞬きをして、視界に滲む光の粒を追う。
体が妙に重たい。
呼吸を一つするだけで、胸の奥が鈍く軋む。
「……だる……」
かすれた声が、静かな部屋に溶ける。
頭の中が靄のようにぼやけていて、時間の感覚も薄い。
体温がいつもより高いのは分かる、だが熱を測る気力は出なかった。
(今日も、出なあかんな……)
いつもの服に腕を通す。
指が震えて、ボタンがうまくかからない。
それでも、なんとか整えた。
「バレないように、せんとな」
たったひとつの深呼吸。
それだけで肺が焼けるように痛かった。
**
基地に着くと、いつもと変わらぬ声が飛び交っていた。
tnが笑いながら資料を抱え、shoが新しい任務の話をしている。
その輪の中に、ciも当たり前のように加わる。
「ci、昨日の資料まとめてくれた? 上に出すやつ」
「出しといたで。机の端、見といて」
「おー、助かる!さすがやな!」
shoの明るい声に、ciは笑ってうなずいた。
その笑顔の下で、唇が小さく震えているのを誰も知らない。
紙を渡した瞬間、指先に走った冷たい感覚。
少し立ち眩みを覚え、ciは咄嗟に机の端を掴んだ。
「……っ」
誰にも気づかれないように呼吸を整え、
笑顔のまま、何事もなかったように立ち直る。
だが、手のひらに滲んだ汗が熱かった。
(やばい……っ)
視界がふらつく。
頭の奥で鈍い痛みが脈打つように広がっていく。
昼過ぎにはもう、言葉を発するだけでも息が上がる状態だった。
コーヒーを飲もうとしたが、カップを持つ手が震え、少し傾いた液体が机にこぼれた。
「……さいあく」
吐き捨てるように呟いて、すぐに拭き取った。
弱っているのを見られたくなかった。
インカム越しに聞こえる仲間たちの声が、かすかに心を支えていた。
遠くの喧騒と笑い声、それだけで、少しだけ息をすることができた。
だが、
夜になっても熱は下がらなかった。
体の節々が痛み、視界の端が暗く滲む。
心臓は走った直後のようにドクドクと鳴り響いていた。
自室の椅子に腰を下ろすと、そのまま背中が滑り落ちていく。
「……ちょっと、休も……」
気づけば、机に突っ伏したまま眠っていた。
呼吸は浅く、頬に触れた手は熱い。
外では焦ったような仲間たちの声がいつもよりも大きく響いていた。
それがなんの声だったのか、ciには考える余裕も無かった。
**
遠くで、低い警報音が鳴った気がした。
それは最初、夢の中の音のように聞こえていた。
けれど、次第に大きくなり、現実の空気を震わせる。
ciは薄く目を開ける。
頭の奥が重く、喉が焼けるように乾いていた。
「ケホッ……なんや、これ……」
ぼんやりと天井を見上げながら、机に突っ伏していた体を起こそうとする。
だが、腕に力が入らない。
身体の節々が鈍く痛み、頭が揺れる。
インカムが短く鳴った。
聞き慣れた声、zmの焦ったトーン。
『医療班、至急! 正面ゲートに負傷者搬入! shpや!』
「……shp?」
ciの意識が一瞬で覚醒する。
同時に、心臓がどくんと大きく鳴った。
『多分外でどっかの軍のやつに襲われたんやと思う!snは出張中やから、応急処置はこっちで回す! 誰か医療経験ある奴、手ぇ貸してくれ!』
声が飛び交い、バタバタと足音が廊下に響く。
仲間たちの焦りと、走る靴音が重なって遠ざかる。
ciはインカムを手に取ろうとして___
そのまま机に手をついた。
体が揺れ、息が詰まる。
胸の奥が締めつけられ、目の前の景色が滲む。
「……あかん……」
手に持ったインカムを見つめる。
“ 行かなければ “という思いと、” 体が動かない “という現実が頭の中でせめぎ合う。
(立て……行かな……)
立ち上がろうとするが、膝が崩れた。
床に手をつき、荒い呼吸が漏れる。
指先が冷たく、汗が背中を伝う。
(なんで、今……っ)
目の奥が痛い。
けれど、返事をすることもできない。
『ci、聞こえるか? 手ぇ貸してくれ、今すぐ!』
shoの声だった。
一瞬、心臓が痛むほどに跳ねた。
『おい、ci? 返事しろ!』
返したい。
声を出したいのに、喉が音を拒んだ。
息を吸っても、空気が肺に入らないような感覚。
「……ごめん……」
かすれた声が、誰にも届かない。
数秒後、インカムからshoの声が遠のいていった。
『……しゃあない、こっちでやる。ciは今どっか行ってるんやろ』
それが、最後に聞いた言葉だった。
ciは壁にもたれかかり、視界が滲むまま膝を抱えた。
自分の体が異常なほど熱い。
目の前がぐるぐると回って、頭の奥で
かすかな機械音と人の叫び声が遠く響いている。
(……shp……)
そのまま、意識が薄れていく。
**
夜。
廊下に静けさが戻る。
応急処置を終えたzm、tn、em、shoたちは、ようやく緊張を解いた顔で医療室の前に立っていた。
「……助かったな、ほんま」
「血は止まったけど、まだ安静や」
shoが額の汗を拭い、深く息をつく。
「……ci、結局来ぇへんかったな」
zmの呟きに、誰も何も返せなかった。
「放っとこ。どうせ寝落ちでもしとんのやろ、あいつ」
「せやな……」
それで、話は終わった。
**
夜更け。
ciは目を覚ました。
喉が焼けるように乾いて、どうしても水が欲しくなる。
ゆっくりと立ち上がり、ふらつく足取りで廊下に出る。
視界の端がまだ滲むが、少しずつ歩ける。
静かな基地。
冷えた空気が肌を刺すように心地よい。
食堂の灯りが一つだけ点いていた。
「……ん?」
扉を開けると、そこにはzmがいた。
一人でカップを手にして、深く息をついている。
目が合った瞬間、空気が張り詰めた。
「……ci」
「……あ、zm。まだ起きとったんや」
ciはいつもの調子を装って笑おうとしたが、その声は掠れて、震えていた。
「……shp、大丈夫やった?」
その言葉を聞いた瞬間、
zmの手が止まり、カップの中の音が小さく揺れた。
「……今さら、それ聞くんか?」
低い声だった。
「……お前、呼んでも来ぇへんかったやろ」
「……ごめん…」
「ごめんで済む話ちゃうやろ!」
zmの声が一気に上ずる。
テーブルを叩く音が響いた。
「shp、死にかけとったんやぞ! お前が行けたら、もっと早く安全に処置できたかもしれんやろ!」
ciはびくりと肩を震わせた。
目を見開いたまま、唇を噛む。
「……わかってる……ほんまに、わかってるけど……、」
「ならなんでやねんッ!!」
その声の勢いに、ciの目からぽろりと涙が落ちた。
「……っご、めん……」
小さな声だった。
泣くように、苦しむように絞り出していた。
しくったと思った。
こいつはこんなことで泣くようなやつじゃない。
zmが思わず背中を支えると、信じられないほど熱かった。
「……お前、これ……熱……!」
驚愕に声を失う。
「なんで言わんねん……なんで黙って……」
ciは顔を覆って泣いた。
声にならない嗚咽が、静かな食堂に落ちる。
zmは拳を握りしめ、
次の瞬間、ため息とともにその肩を引き寄せた。
「……アホやん、ほんま……」
震える体を抱きしめながら、
心の底から滲むように呟いた。
**
「あー…sho、起きとるかな」
インカムを繋ぐ機械的な音がまわりに響く。
『あー、zm?どしたん?』
『あ、sho!悪いんやけどciの部屋来て
もらってもええか?』
『?…別にええけど…』
**
「…え、どういう状況…?」
ciの部屋を訪れたshoの視線の先には、
ベットの上で泣いているciと近くで困惑しているzmが居た。
「あッ、sho!助けてくれ!」
「ciが食堂来とったから…、思わずなんで来んかったんや言うたら泣いてしもて…」
shoは一瞬、言葉を失った。
「…ci?」
寝具の上で泣いているciの肩が、小さく震えている。
額は汗に濡れ、顔色は悪い。
明らかに“体調不良”という言葉で片づけられるレベルじゃない。
「……これ、どうしたんや?」
shoが問うと、zmは少し言いにくそうに視線を逸らした。
「喉乾いた言うて来てて…そんとき触ったら熱めっちゃあった」
shoは唇を結び、ciの側にしゃがみ込む。
「……ci、起きてるか?」
かすかに反応がある。
涙の跡を残したまま、ciがうっすら目を開けた。
「sho……ごめん、」
「なんで謝んねん」
shoの声はいつになく優しかった。
怒るよりも、ただ心配で仕方なかった。
「……昨日からやろ。具合悪いの」
ciは何も言わず、視線を逸らす。
それが答えだった。
「なんで言わんかったんや……」
その言葉には、怒りでも呆れでもなく、
深い悲しみのような響きがあった。
ciは枕を握りしめながら、か細く息を漏らした。
「……迷惑、かけたくなかった。
皆、shpのことで大変やったやん。
俺まで倒れたら、邪魔になる思て……」
shoは静かに目を閉じた。
(ほんま、こいつは……)
自分よりも他人のことばかり考えて、
結局いちばん無理をする。
昔からそうだった。
「邪魔やなんて、誰が言うたよ」
shoは毛布をそっと整え、ciの髪を撫でた。
「倒れるまで我慢して、そっちの方が迷惑や。
言ってくれたら、誰でも動くんに」
ciの目が潤む。
「……だ、だって…!!」
「あ”ー!まてまて、泣いたらもっと熱上がるから!!」
zmは苦笑して、額に手を当てる。
「ほんま熱いな。これは寝らんと治らんで」
「……shpは?」
「応急処置は終わった。今は落ち着いとる。
お前のせいちゃう、気にすんな」
その言葉に、ciは少しだけ表情を和らげた。
shoは一度立ち上がり、zmに目を向ける。
「悪い、冷たいタオルと水持ってきてくれへん?」
「おう、すぐ持ってくる」
zmが出ていき、部屋が静かになる。
雨音だけが窓を叩いていた。
shoはciのそばに腰を下ろし、
その手をそっと包むように握る。
「……ci、頼むから次からは言ってくれ」
「……、うん」
かすかな返事。
shoはその手を離さず、
熱のこもった手のひらを静かに撫でた。
「俺らは仲間やろ。
お前がしんどい時ぐらい、支えさせてや」
涙で滲んだ瞳に、やっと小さな笑みが戻る。
「……ありがと、sho」
shoは微笑み返す。
「礼はええ。
今は寝ろ、な?」
その声が合図のように、
ciは力を抜いて目を閉じた。
shoはその横顔を見つめながら、
小さく呟く。
「……ほんま、無理するんやな、こいつは」
**
zmが戻ってきて、濡れタオルを渡す。
shoが受け取ってciの額に置くと、
少しだけ息が落ち着いたようだった。
「…ほんまに、片方は血だらけで運ばれてくるし、もう片方は体調崩して隠しとるし、もうなんやねんこいつらは…」
「ほんまにな…」
雨はまだ、静かに降りつづいていた。
その音に紛れて、小さな寝息が聞こえていた。