死ネタ 有
💛Ω化⚠️
風呂から上がり、髪も乾かして歯磨きもして寝室の扉をガチャっと開ける。
寝室は真っ暗で、間接照明だけが点っていた。
ベッドには大きなお腹をさすり、オルゴールを聴きながらゆらゆらと揺れている妻が居た。
お腹、大丈夫?痛くない?と尋ねると
「ふふ、心配しすぎだよ。大丈夫。」
予定日を3日程過ぎているので妻は明日こそこの子が無事に生まれるためにお散歩して陣痛を促すんだ〜!と意気込んでいた。
顔色は陣痛の予兆を感じさせないにこやかな笑顔だが、お腹はパンパンに腫れていて今にも生まれそうな雰囲気を漂わせていた。
「出産後に2人で名前考えるはずだったけど待ちきれないね。」
もう僕の考えてる名前元貴に言いたい〜!と体をうずうずさせている嫁。
俺も早く妻の考えた名前が聞きたいので聞かせてよ と尋ねると、嫁はここぞとばかりに
「マナトくん!えっとね、愛情のアイに科斗のカ!」
自信満々にお腹を撫でながら嬉しそうに答える。
なんでその漢字?と尋ねてみると
「僕たちの愛情を沢山知って、他の人にもその知った愛を与えて欲しいの。皆からも愛されて、自分も愛して幸せになって欲しい。」
いつもおちゃらけた妻が珍しいと感心していると、それにね?と言葉を続ける。
「愛ってさ、よく女の子に使われる漢字じゃん。」
まぁ、たしかに珍しい。
男の友達に愛ってつく名前の人は1人も居ない。
「なにかの偏見や差別に囚われない人になって欲しいなぁって思ったからこの名前にした。」
ネーミングセンス大丈夫かな、大きくなった時に変えたい!とか言われたら僕泣いちゃうかも…とめそめそする妻に俺は大丈夫、素敵な名前だね と声をかけた。
そうするとぱぁっと表情が明るくなり、言葉を続けた。
「ほら、 僕もよく名前とか髪型で性別どちらかわからないって言われるし。」
妻は男だが妊娠できるからだ。
そういう意味でも外見的にも沢山性別で悩んできた。
涼架っぽくていいね そう声をかけるとにこっと笑い、俺の手を掴みお腹を撫でさせる。
「この子が大人になる頃位には、そういう偏見とか差別が無くなってたらいいな。」
妻の気分が落ち込んで言ってることを悟った俺は、嫁の腹を両手で撫でながらパパですよ〜、愛斗くん早く生まれてこないとパパ楽しみすぎて眠れないよ〜と冗談交じりにお腹の赤子に呼びかける。
「愛斗、お母さんに何があっても絶対に健康に産んであげるからね。」
そんな縁起でもないことをボソッと言う妻にこら、とデコピンをおでこに当てる。
「えへへ、ごめんって〜」
へらへらと笑いながらデコピンされた額を抑える。
でも、いきなり真剣な面持ちに変わり
「僕に何かあったらお願いね。」
と、目を向き合って言われて言葉に詰まった。
翌朝、陣痛促進するために散歩に行く!と意気込んだ妻に頑張れと声をかけて一緒に手をつなぎながら少し離れた広い公園をゆっくり歩いていた。
中々来ないな〜と頭を悩ませていた妻にゆっくりでいいよ、大丈夫 と声をかけながら幸せのひと時を過ごしていた。
息子が産まれてきたらまずぱぱって呼ばせたいな〜とか、涼架はパパになるのかな?ママになるのかな?と一緒に考えたり。
すごく幸せな時間を歩んでいた。
あまりにも幸福で将来への希望と期待に満ちていた。
「ん…?」
お腹を擦りながら眉に力を入れる妻にどうした?と声をかけると
「..なんか、陣痛っぽい。お腹張ってきたかも。」
いよいよか!と気合を入れ、妻を車に乗せて急発進させる。
事故らないようにと急がなきゃが入り交じってこれまでにない緊張感で車を走らせる。
助手席ではうぅ〜とお腹を抱えながら唸っている妻が。
大丈夫だよ〜もう着くよ〜!と必死になりながら声掛けをする。
かかりつけ産婦人科の駐車場に車を停め、降りれるか?と助手席のドアを開ける。
「はぁ〜…はぁ〜….」
冷や汗でびっしょりで、意識が虚ろ虚ろになりながら顔面蒼白で必死に呼吸をする妻。
陣痛の時、痛みで泣き叫びながら顔に赤みが残る姿を想像していたので少し違和感を覚えながらも、妻を横抱きにして病院に入り、必死に事情を伝えた。
事前に病院には電話してあったため、
「大森さんですね!もう準備は整っておりますので移動お願いします!!」
さぁ涼架さんこちらへと妻の顔を見た途端、看護師さんは神妙な顔をする。
直ぐに看護師さんは近くの医者を呼び、妻を引き取っていった。
え?え?と1人で戸惑っていると看護師さんが話しかけてきた。
「涼架さんの旦那さんですよね。 」
はい、妻はどうしたのですか?と訴えると
「今、とても危険な状態です。普通に分娩する予定でしたが、帝王切開いたします。」
頭が真っ白になった。
え?危険?妻が??さっきまで健気に散歩してたんですよ?と詰め寄ると
「落ち着いてください。詳しいことは後で話します。とりあえず状況を把握してください。」
と、淡々と言われてしまった。
状況は飲み込めないが、看護師さんの話をとりあえず聞かなければと必死に自分を落ち着かせる。
「この説明を読んだらどちらかに丸してこちらに自分のお名前をサインしてください。できるだけはやくサインしてくださいね、一刻を争う事態なので。」
強めにん!と渡され自然に受け取る。
内容を見てみると
最悪の事態の場合、貴方はどちらを優先致しますか?
奥様 or 子供様
※状況によっては意思に反する場合がございます。
頭が真っ白になった。
え?どちらか??
どういうこと??
でも、迷わず俺は左側に丸をして近くの看護師さんに渡した。
子供ももちろん大事、貴方が大事に守ってきたものだから。
でも、ダメなんだ。
俺は貴方が居ないとなにも出来ない愚か者なのだ。
『もしもし?!りょ…』
若井、助けてくれ。涼架が…涼架が!!と嗚咽を混じえながらスマホに向かって叫ぶ。
若井は出産した報告かと思ってウキウキで電話を取ったっぽいが、俺の必死な形相に何かがおかしいと思ったのか、
「落ち着いて、どうした?なにがあった?」
俺を落ち着かせようと電話越しになだめてくる。
混乱しながらも涼架が何故か危険な状態なこと、子供か涼架か選ばなければいけなくなった事を言葉がぐちゃぐちゃになりながらもなんとか伝える。
「は…?!今行く!!」
そう言って電話を切られ孤独になる。
どうしよう、もしもの事があったら…涼架になにかあったらどうしよう。
もしもの事のイメージが頭でぐるぐる回る。
ああああああ、どうしよう…
出産が死と隣り合わせということを忘れていた。
浮かれていたのだ、涼架との子供ができると。
お願いします..お願いします….
あれから10時間、午前2時。
若井とも合流して2人で泣きながら涼架の無事を祈っていた。
突然、カチンと手術中のランプが消えた。
出てきたお医者さんに涼架はどうなったかと詰め寄った。
大丈夫、きっと大丈夫。
涼架はそんなやわな人間じゃない。
「..自分の目で、確認してください…」
そういって手術終わりの涼架がいる白い、殺風景な部屋に通される。
扉を開けるとおぎゃあ、おぎゃあ!!と元気な赤ちゃんの泣き声が聞こえる。
よかった、赤ん坊が生きているということは生きているって事だよね?
なんで涼架の顔には白い布が被せてあるの?
なんで?違うよね?
話が違う、違うよ。
「涼..ちゃん…ですか…、?」
若井が恐る恐る問いかけると、医者はゆっくりコクっと頷く。
血がゆっくり引いていくのを感じた。
視界がゆっくりフェードアウトしていくのを感じて、目眩がした。
ばたっと倒れそうな俺を若井が支えてくれる。
そんな絶望の中でも赤子はうるさく泣き続ける。
本当は天使のような声に聞こえるはずだったが、今は雑音にしか聞こえなくて吐きそうになる。
妻と引き換えならば赤子なんて要らなかった。
最愛の妻の命を奪って授かった命なんて。
触りたくもなかったのに、顔を見た瞬間俺は泣き崩れてしまった。
目元が涼架そっくりで、唇が俺そっくりだったのだ。
思わず抱き上げると、瞳の色、形が涼架そっくり。
それに俺が抱き上げた途端、涼架そっくりの笑い顔できゃっきゃとはしゃいだ。
悔しい、こいつが憎い。
でも凄い可愛い、愛おしい。
ぐちゃぐちゃの感情で若井と涼架を見ながらわんわん泣いた。
そんな中でも、赤子……愛斗は俺の顔をぺたぺた触りながら笑っていた。
コメント
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なんで、こんなにすごい物語が書けるのよぉ…!もう小説家目指していいと思う!
いやああああ、、複雑すぎるって、、、辛い
やばい目から海水が止まらない