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マイッキーが風呂から上がってくる。髪を拭きながら、いつもと同じ顔で。
「さっぱりしたー」
その“いつも通り”が、
今日はやけに整いすぎて見えた。
「喉乾いた」
冷蔵庫を開けて、水を飲む。
スマホはテーブルの端に置いたまま。
画面は伏せない。
でも、触らせもしない。
ぜんいちは、それを見てから口を開く。
「さっきのさ」
マイッキーが振り返る。
一瞬だけ、目が合う。
「電話」
ぜんいちは続ける。
声は低く、穏やかに。
「結構、急そうだったけど」
マイッキーは肩をすくめて笑う。
軽い、軽い笑い。
「友達だって」
「たまたま」
間を空けない。
質問が続く前に、先に塞ぐみたいに。
「……そっか」
ぜんいちはそれ以上追わない。
でも、
「よく連絡くる人?」
って、
ほんの気まぐれみたいに足す。
一拍。
ほんとに、わずか。
「最近ね」
その答えが、
なぜか胸に残る。
マイッキーは話題を切り替えるように、
ぜんいちの隣に腰を下ろす。
「そういえば」
声が弾む。
「明日ちょっと出かけるわ」
___え?
「明日?」
「うん、昼くらいから」
「夜には戻る」
未来の予定を、
あまりにも自然に差し出す。
「誰と?」
今度は、
聞いたあとに後悔する。
「友達」
また即答。
でも今度は、
笑いが少しだけ遅れた。
「……ふーん」
ぜんいちは笑う。
疑ってない顔。
信じてる側の顔。
マイッキーはそれを見て、
安心したみたいに距離を詰める。
「俺が君のこと手放すと思ってる?」
「無理だよ到底…ほら、おいで」
マイッキーの温かさ。風呂上がりだからなのかな。でもなんか落ち着く。
「配信どうする?」
「明日なしでもいい?」
“なし”って言葉が、
やけに軽い。
「いいよ」
ぜんいちはそう答える。
ちゃんと。
マイッキーは満足そうに頷いて、
ぜんいちの肩に寄りかかる。
その重さは本物で、
体温も、呼吸も、嘘じゃない。
だからこそ。
ぜんいちは、
“最近”って言葉と、
覚えてしまった名前を、
まだ胸の奥にしまったままにした。
――明日まで。