コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
雨が死んだときと、同じ感覚だった。
まだ死んでほしくない。俺を守って、俺を庇って、俺のせいで、誰も……死んでほしくない……
「やめろ!!」
俺が涙を流して、モニターから顔を逸らした時、女の焦る声が聞こえた。
「ちょっと……何よ、これ、どうなってんのよ!!」
その声に気が付いた時、俺は顔を上げてモニターを見た。
画面の向こうでは、ロープを解いて、拳銃を向けている男を蹴り上げている雪の様子だった。
「ねえ、うそでしょ?だから言ったのに、眠らせるのへたくそだって。つか、この女起きてんのよ。縛るときは普通、両手と両足だろうが!!ていうか、何人かで見張っとけよ普通!!」
女は、叫んだあと、耳につけていたインカムを取り外し、口に近づけてもっと大きく叫んだ。
その時、インカムの向こうから、聞きなれた声が聞こえた。
「うっせえな」
「なっ……」
「縛るのへたくそだな。眠らすのも。そうだそうだ。お前はそんな奴だったな」
「っ……」
女はインカムを潰す勢いで、力を入れているのが分かった。
「……ところで、そこに海が居るんだろ?」
「な、なんで知って……」
「海の叫び声がずっと聞こえてたぞ。馬鹿な奴」
「っ……知ってる!!でもアンタはまだここにたどり着いてな……」
ドンッ……
背後から大きな音が聞こえて、俺たちが振り向いた時、雪がドアをけ破っていた。
「今、ついたさ」
雪の方から聞こえた声が、インカムから聞こえてきた。
「おい、何してんだ?八崎美奈」
雪は女の方を見た。
「……秋原雪……」
緑の羽織を着て、腕を捲り、灰色のズボンをはいた雪が近付いてきたとき、俺は安堵と、我慢していた恐怖で涙が止まらなくなった。
元々不安で流れていた涙が渇く前に、新しい涙が頬を伝った。
「何泣いてんだよ」
「……は?何馬鹿なこと言ってんだよ!!俺は……お前を心配して……」
「心配なんているかよ、バーカ。安心しろ。あたしはお前より先に死なないからさ」
雪はしたり顔で俺の顔を見た。
彼女は右手で女の手首を握った。
「手、放せよ」
雪がそう言った時、この美奈という女は手を放した。
雪はしゃがんで、俺の方を見た。
「海。立てるか、立ったら、走ってすぐ左に曲がれ、そしたら廊下の先に尚たちがいるから」
そう言われた俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「走れる」
キリっとした顔で、雪を見ると、雪は俺の顔を見るなり、バカにしたように笑った。
「鼻血、出てるぞ」
何の弊害も無いような満面の笑みで、自分の鼻を指さした雪を見たとき、研究の時隣でいつも笑っていた雨を思い出した。
「あっ」
俺はカッターシャツの袖で血を拭こうとした時、雪がハンカチを渡してきた。
「それ、やるよ。早く行け、バカ」
俺はハンカチを握って部屋を出て行った。
「……はああああぁぁぁぁぁぁぁ」
海が出て行ったとき、美奈が大きなため息を吐いた。
「何のため息?」
あたしが聞くと、美奈は不満そうな顔をこっちに向けてきた。
「なーんで、アンタと話さなきゃいけないわけ?」
「知るか。あたしの事眠らして、あんな目に逢わしたくせにさ」
あたしが、その不満そうな顔に対抗するように、バカにしたような顔で美奈を見たとき、美奈はあたしと同じような顔をして、あたしを見てきた。
「……ねえ、覚えてる?アンタが家に潜入捜査しに来た時。あんときのアンタの驚いた顔は見ものだったね~」
美奈は思い出を懐かしむように、腕を組んだ。
「必死で海(うみ)を守ろうとしてるのも、面白かったよ。あ、景音の事も、気にかけてたよね~」
「……」
「そうそう、カルムと初めて会った時も、驚いた顔してたね~。あのMI6の男とも、仲が良かったけど……」
「……なあ」
「それに、フロワに会った時も驚いてたなあ。雪は私とチームが一緒だったけど?ずっとバディで仕事してたよねえ~」
「なあ、おい」
「うちのマフィアのボス。アンタ狙ってたよね」
「なあ、おい!!」
あたしが叫んだ時、美奈は不思議そうな顔で、「何?」と聞いてきた。
「何が言いたい?」
「……分からない?」
「さあ?」
あたしが首を傾けたとき、美奈が面白そうに笑った。
「さっき言ったでしょ?ほんとに組織の一員として入ったんなら、私を見て驚かないでしょ?」
「……お前、いつから気づいてた?」
「……最初から」
彼女は今まで見たことないよう笑顔で私の方を見た。
「この、性悪女」
「じゃあ、問題です。最初からアンタがネズミだって気づいてたのに、放っておいたでしょう?」
「……お前に利益があったからだろ。その利益が何なのか知らないが」
「その利益の部分を当ててほしいんだけど」
美奈は、そのままあたしに近づいて言った。
「君は死ぬのが怖くないんだっけ?」
「そうだが?」
「死ぬのが怖くない人間はこの世に存在しないからね」
「はあ?」
あたしが、不満げな顔で美奈を睨んだ時、美奈は言った。
「君は死ぬのが怖くないんじゃなく、死にたがってるだけでしょ?」
「……」
図星をつかれてあたしは、後退りする。
「君とあの眼鏡の少年は正反対。正反対の人間同士はひかれあう物でしょ?それが兄弟でも、家族でも、親友でも、夫婦でも、同じこと。お互いかけているところを補い合っている」
あたしが後退りし続け、足に机の感触を感じたとき、机に置いてある、拳銃を手に取った。
「君と、あの少年は、相棒なのかな?」
美奈は、あたしに拳銃を向けてきた。
「なあ、早撃ち対決でもしようぜ」
「はい。喜んで」