テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

entraide

一覧ページ

「entraide」のメインビジュアル

entraide

42 - 第42話 心配なんかいるかよ、バーカ

♥

398

2023年05月27日

シェアするシェアする
報告する

雨が死んだときと、同じ感覚だった。

まだ死んでほしくない。俺を守って、俺を庇って、俺のせいで、誰も……死んでほしくない……

「やめろ!!」

俺が涙を流して、モニターから顔を逸らした時、女の焦る声が聞こえた。

「ちょっと……何よ、これ、どうなってんのよ!!」

その声に気が付いた時、俺は顔を上げてモニターを見た。

画面の向こうでは、ロープを解いて、拳銃を向けている男を蹴り上げている雪の様子だった。

「ねえ、うそでしょ?だから言ったのに、眠らせるのへたくそだって。つか、この女起きてんのよ。縛るときは普通、両手と両足だろうが!!ていうか、何人かで見張っとけよ普通!!」

女は、叫んだあと、耳につけていたインカムを取り外し、口に近づけてもっと大きく叫んだ。

その時、インカムの向こうから、聞きなれた声が聞こえた。

「うっせえな」

「なっ……」

「縛るのへたくそだな。眠らすのも。そうだそうだ。お前はそんな奴だったな」

「っ……」

女はインカムを潰す勢いで、力を入れているのが分かった。

「……ところで、そこに海が居るんだろ?」

「な、なんで知って……」

「海の叫び声がずっと聞こえてたぞ。馬鹿な奴」

「っ……知ってる!!でもアンタはまだここにたどり着いてな……」

ドンッ……

背後から大きな音が聞こえて、俺たちが振り向いた時、雪がドアをけ破っていた。

「今、ついたさ」

雪の方から聞こえた声が、インカムから聞こえてきた。

「おい、何してんだ?八崎美奈」

雪は女の方を見た。

「……秋原雪……」

緑の羽織を着て、腕を捲り、灰色のズボンをはいた雪が近付いてきたとき、俺は安堵と、我慢していた恐怖で涙が止まらなくなった。

元々不安で流れていた涙が渇く前に、新しい涙が頬を伝った。

「何泣いてんだよ」

「……は?何馬鹿なこと言ってんだよ!!俺は……お前を心配して……」

「心配なんているかよ、バーカ。安心しろ。あたしはお前より先に死なないからさ」

雪はしたり顔で俺の顔を見た。

彼女は右手で女の手首を握った。

「手、放せよ」

雪がそう言った時、この美奈という女は手を放した。

雪はしゃがんで、俺の方を見た。

「海。立てるか、立ったら、走ってすぐ左に曲がれ、そしたら廊下の先に尚たちがいるから」

そう言われた俺は、ゆっくりと立ち上がった。

「走れる」

キリっとした顔で、雪を見ると、雪は俺の顔を見るなり、バカにしたように笑った。

「鼻血、出てるぞ」

何の弊害も無いような満面の笑みで、自分の鼻を指さした雪を見たとき、研究の時隣でいつも笑っていた雨を思い出した。

「あっ」

俺はカッターシャツの袖で血を拭こうとした時、雪がハンカチを渡してきた。

「それ、やるよ。早く行け、バカ」

俺はハンカチを握って部屋を出て行った。


「……はああああぁぁぁぁぁぁぁ」

海が出て行ったとき、美奈が大きなため息を吐いた。

「何のため息?」

あたしが聞くと、美奈は不満そうな顔をこっちに向けてきた。

「なーんで、アンタと話さなきゃいけないわけ?」

「知るか。あたしの事眠らして、あんな目に逢わしたくせにさ」

あたしが、その不満そうな顔に対抗するように、バカにしたような顔で美奈を見たとき、美奈はあたしと同じような顔をして、あたしを見てきた。

「……ねえ、覚えてる?アンタが家に潜入捜査しに来た時。あんときのアンタの驚いた顔は見ものだったね~」

美奈は思い出を懐かしむように、腕を組んだ。

「必死で海(うみ)を守ろうとしてるのも、面白かったよ。あ、景音の事も、気にかけてたよね~」

「……」

「そうそう、カルムと初めて会った時も、驚いた顔してたね~。あのMI6の男とも、仲が良かったけど……」

「……なあ」

「それに、フロワに会った時も驚いてたなあ。雪は私とチームが一緒だったけど?ずっとバディで仕事してたよねえ~」

「なあ、おい」

「うちのマフィアのボス。アンタ狙ってたよね」

「なあ、おい!!」

あたしが叫んだ時、美奈は不思議そうな顔で、「何?」と聞いてきた。

「何が言いたい?」

「……分からない?」

「さあ?」

あたしが首を傾けたとき、美奈が面白そうに笑った。

「さっき言ったでしょ?ほんとに組織の一員として入ったんなら、私を見て驚かないでしょ?」

「……お前、いつから気づいてた?」

「……最初から」

彼女は今まで見たことないよう笑顔で私の方を見た。

「この、性悪女」

「じゃあ、問題です。最初からアンタがネズミだって気づいてたのに、放っておいたでしょう?」

「……お前に利益があったからだろ。その利益が何なのか知らないが」

「その利益の部分を当ててほしいんだけど」

美奈は、そのままあたしに近づいて言った。

「君は死ぬのが怖くないんだっけ?」

「そうだが?」

「死ぬのが怖くない人間はこの世に存在しないからね」

「はあ?」

あたしが、不満げな顔で美奈を睨んだ時、美奈は言った。

「君は死ぬのが怖くないんじゃなく、死にたがってるだけでしょ?」

「……」

図星をつかれてあたしは、後退りする。

「君とあの眼鏡の少年は正反対。正反対の人間同士はひかれあう物でしょ?それが兄弟でも、家族でも、親友でも、夫婦でも、同じこと。お互いかけているところを補い合っている」

あたしが後退りし続け、足に机の感触を感じたとき、机に置いてある、拳銃を手に取った。

「君と、あの少年は、相棒なのかな?」

美奈は、あたしに拳銃を向けてきた。

「なあ、早撃ち対決でもしようぜ」

「はい。喜んで」

この作品はいかがでしたか?

398

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚