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第4話 消えた星祭り
六月の終わり。
街は星祭りの準備で賑わっていた。
一年に一度だけ開かれる、夜の祭り。
短冊と星灯りで街中が輝く日。
だが、佐野 は気づいてしまう。
「……変じゃないか?」
商店街を歩きながら、佐野は立ち止まった。
誰も笑っていない。
祭りの準備をしているのに、街全体が妙に静かだった。
「願いが消えてる」
隣で暗が呟く。
「願い?」
「本来、星祭りの日は人の願いが一番強く空に集まる。でも今年は空っぽだ」
見上げた夜空には、星がほとんどなかった。
その時。
どこかで子供の泣き声が聞こえた。
振り返ると、小さな男の子がしゃがみ込んでいる。
「どうしたの?」
佐野が声をかけると、男の子は涙目で答えた。
「短冊、消えた……」
手に持っていたはずの短冊が、真っ白になっていた。
願い事だけが消えている。
暗の表情が険しくなる。
「始まったか」
「なにが」
「願い喰いだ」
その瞬間。
商店街の灯りが一斉に消えた。
人々がざわめく。
そして暗闇の中、空に巨大な“影”が浮かび上がった。
それは魚のようにも見えた。
星を食べながら泳ぐ、黒い影。
『たりない』
低い声が響く。
『もっと願いを』
人々の短冊が空へ吸い込まれていく。
「やばすぎだろ……」
佐野が後ずさる。
暗は静かに瓶を取り出した。
「佐野くん。目を閉じないでください」
「え?」
「君は“見える側”です」
影が急降下する。
佐野は反射的に叫んだ。
「返せよ!!」
その瞬間。
胸元の銀色の粒が光った。
空に無数の文字が浮かぶ。
『サッカー選手になりたい』
『お母さんが元気になりますように』
『また笑えますように』
消えたはずの願いたち。
暗が目を見開く。
「願いを引き戻した……?」
光が一斉に夜空へ放たれる。
黒い影は苦しむように歪み、そのまま砕け散った。
静寂。
そして次の瞬間、街の灯りが戻る。
人々は何事もなかったように笑っていた。
ただ、佐野だけが震えていた。
「……俺、今なにしたんだ?」
暗はしばらく黙ったあと、低く呟く。
「やっぱり君は——」
そこまで言って、言葉を止めた。
「なんだよ」
「……まだ、早い」
だがその横顔は、初めて焦っているように見えた。