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結局、アイツの元を訪ねようと決めた、その日の前日に、彼女は死んだ。
原因は県警の捜査によると、単純なガス爆発、事件性は無いという事で片付けられてしまったよ。
でも、俺はそうは思わなかったんだ……
俺が、アイツがいなければ良いと、二人の息子と俺だけであれば、あの楽しくて、一日の疲れを癒してくれる、素晴らしい日々を取り戻せるから!
そんな、歪(いびつ)な事を願ってしまったから、アイツが、俺の唯一の奥さんが死ぬ事になってしまったのだと感じていた、そう、世界の仕組みは、俺の、酷く独善的で、一人よがりな、自分勝手な思いに答えて、彼女の命を断ってしまったのだと気付いて尚、俺は僅か(わずか)な喜びを、いや、悦びを感じていたのであった。
可愛い可愛い、最愛の、誰の子かも知れぬ、ただ可愛い、二つの『生命』、イノチが俺の元に戻ってきてくれたんだ。
俺は狂喜乱舞した、そう、した筈だ!
アイツが不慮の事故で死んだ事だけでなく、二人の息子は命こそ取り留めはしたものの、その身に一生消えないであろう傷を負い、見た目的にも残されたアイツの家族たちには、この事故を思い出させられて辛かったんだろう、結構簡単に『親権』を俺に移してくれたんだ。
俺は、酷く自分勝手ではあったが、そう…… そうだな……
喜んでしまったのかも、 知れない……
兎に角、あの日、欲しかったものの半分以上を手に入れた俺は、バイトだろうが、日雇いだろうが、家に帰っての家事も、早起きしての慣れない弁当作りだろうが、全部喜びの中で日々を過ごしたんだよなぁ~。
でも、でもだよ…… 幸せを感じる一方、俺の中で、アイツがガス爆発で吹っ飛んだ日から、変わる事がない疑問も、いや、自己否定が確かにそこにあったんだな、それは……
「罪を背負う俺が、いや、許されざる咎人(とがびと)が…… こんなに幸せで良いはずは無いだろ?」
これだったんだな、まあ、いつも思い出すんだから、それなりにキツイ状態だったんじゃねーかなぁ?
上の子が中三、下の子が中学に上がった、その年に俺は、子供を捨てた。
まあ、それなりに評判の良かった施設のセンセイ達と、しっかり話した上で、子供達それぞれに話した後でだったな。
何を話したかって? いや、そのまんまだが?
「俺はお前達の本当の父親ではないんだ…… DNA鑑定で、遺伝上の親子関係を示す因果関係は皆無なんだってさ…… 但し、俺が人生の中で唯一愛した女性は、お前達の母親だし、彼女と同じ位、たぶんそうだが、俺は、遺伝的に違ったとしても、今後も変わらずお前達二人を、息子として愛しているんだ、これから、お前達は、自分達だけの裁量で生きていかなければならない、辛い時には互いに支え合え、苦しい時には、道半ばで死を迎えたお母さんを思い出せ、理不尽に叩きのめられそうになって、折れそうな時には、この愚父(ぐふ)、お父ちゃんの馬鹿さを思い出して耐え忍んでくれ、な、頼む、この通りだ、お前達二人は…… 私とアイツ、お母さんが生きていた、たった二つきりの証しなんだからな」
確か、いいや、一語一句違いなく、あの子達に言って、件(くだん)の施設に預けたんだったな……
今、この懐かしさが詰まった文化住宅には、アイツもいない、子供達の楽しそうな声も無い、もう、何も…… 無いな……
「どうだい? 聖女さんよ? 見たかい? 俺の話をよぉ!」
突然、イメージの流入が止まるや否や、大きめの声で聞いてきた『憤怒のイラ』の問い掛けにコユキは、多少ビクッとしながらも普通に感想を口にする。
「……うん、見させて貰ったわ…… でも、ここまで、アンタは誰に対しても怒っていなかったよ? 悲しんだり、喪失感に襲われたり、淋しがったり、自分を奮い立たせたり…… ってことは、一旦止めた、この後に、アンタの『憤怒』、『怒り』が有るって事だよね? 大罪に選ばれるほどの…… 特大の怒りが……」
「聖女よ、恐ろしいか?」
酷く落ち着いた、最早最初の怒鳴り声など思い出せないほどの深く沈んだ、それでいてどこか悲しい声音で『憤怒のイラ』はコユキに問う。
「恐ろしい気もするけどネ! 見せて頂戴、優しくて、不器用で、一途で、子煩悩な、アンタの失敗の果ての『怒り』ってやつをっ!!」
「! そ、そうか! 死ぬなよ、飲まれんじゃねぇぞ…… ありがとうな、俺に、俺みたいなもんに向きあってくれて……」
「え?」
コユキの中に再びイメージが流れ込んできた。
相変わらず男の思い、その気持ち、呟きの形式であった。