暑くもなく、寒くもなく。
気を抜くと睡魔が手を伸ばしてくるような、肌の表面からじわりと感じる心地よい空気。
そんな長閑な空気にもかかわらず、テーブルに肘をつき窓から外を見ていた人形のような美しい少女(いや、少女というには少し雰囲気が大人びている)は、顔を顰め空を睨んでいる。
宝石のような桜色の瞳に真っ白な髪。彼女の名をフレリアと言った。
窓の外に視線をやり、眉間に皺を寄せていると、ふと目の前に影が落ちる。
「まったくもう。せっかく可愛らしい顔をしているのだからにこにこ笑っていらして?」
頭の上から心地よい声が響く。
見ずともわかる。きっと彼女は困ったように眉を下げ、けれど口元は微笑みながら綺麗な手を頬に添えて此方を見ている。
パッと視線を上げると居たのはやはり彼女で、想像していたそのままの姿で此方を見下ろしていた。美しい深緑色の瞳。そして白い髪。ベルでお姉様だ。
フレリアは不服そうに顔を上げ、こう続ける。
「お姉様ったら!分かってないわね!私が好きなのは雨よ!それも次々に負傷者が出るくらいの!」
頬をふくらませながら抗議する姿は誰が視界に入れても可愛らしいことだろう。彼女はさらに続ける。口にしている言葉に反して、その口調は軽くて甘い綿菓子のようだ。
「ここ最近は平和な天候ばかりで嫌になっちゃう……。あ、そうだわお姉様。私たちの魔術でうんと大きな雨雲を呼んでしまえばよいのよ!6人で呼べばそれこそ嵐を呼べるんではなくて?名案だわ!」
座っていた椅子を飛ばす勢いで立ち、目の前の「お姉様」に駆け寄る。息も荒く目を爛々と輝かせている様も含め、存外可愛らしい。
「お姉様」が云う。
「そんなことに魔術を使っては駄目よ。クライネに怒られてしまうでしょう?」
艶やかな唇を押し上げ、控えめに微笑んでいる。
「そうね……あの子は怒らせると何をされるか分からないもの……。」
彼女は一瞬不服そうな顔をしたものの、何かを思い出したのか身震いをしている。
「でも不満だわ。あの子って本当に頑固。」
胸元のリボンを弄りながら口から不満をこぼす。
「あら、じゃああの子の作るパンケーキは嫌い?」
「お姉様」はふっと息を吐いて微笑む。
「……だぁいすき。」
もちもちで、それでいてふわふわしていて、蜂蜜をかけると黄金色に輝きだすそれ。口にいれたらじゅわっと広がる甘さ。それを思い出してしまえばもう駄目だった。
「ほら、そろそろ焼ける頃ではなくて?」
「お姉様」はフレリアの手をやわりと取り、ゆっくりと歩き出す。キッチンの方から良い匂いが漂ってくる。
「……私も今度材料集め、手伝おうかしら。」
眉を上げ、かすかに笑いながらこちらを見てくる「お姉様」。
それにフレリアは花がはにかむような笑みで応える。
「仕様がないから、私も着いていってあげるわ!」
人里から遠く、遠く離れた森の中。
ヒイラギの木に話しかけ、野いちごを摘み、ことりたちに挨拶をした頃に見えてくる家。
そこは「奇病」を患った白い髪の、美しい魔女たちが住まう場所。
コメント
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小学生の時に書いた、6人の魔女のお話です。 これから徐々に色んな魔女が出てくるので楽しみにしていただけるとうれしいです*´`