テラーノベル
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「ふむ、驚いているようだな……勝手に驚愕するのは構わないが、君が持っているその物体は私達の所有物だ。出来れば早く返して欲しい」
〈……は?〉
不気味な存在は、やっとの気持ちで幻想体を討伐した瞬間に突如として颯爽に現れた。 自分の所有物だと戯言を放ち、幻想体の卵を要求してくる男の 正体はなんとカイザーの人間だった。
「な、何よあいつ……」
「……黙っててください」
「ん?何だよ、急に態度を改まって」
“……あんなに偉そうな者がこんな辺境の戦闘があったばかりの場所に、わざわざ一人で来る理由がない”
「……考えられるのは、ここの施設の管理者でしょうか」
後方で仲間達が推測を交わす場面を横目にしたカイザーPMCの理事を名乗る男が突然、不気味に笑い出した。
「くっはっは……やっと分かったか、侵入者共め。まさかここに来るとは思ってもなかったが……まあ良い」
「……こいつ!」
本性を見せた男の悪辣な発言にシロコが腹を立て、即座に銃を構える。しかしその銃口は仲隣にいたホシノの手によって静かに止められてしまう。
「ダメだよシロコちゃん……」
「ホシノ先輩……!?でもーー」
「ここで撃ったら包囲してる兵が攻撃してくる」
「……」
ホシノが視線を向けた先には、いつから包囲していたか分からない……いや、どうやって静かに、素早く包囲できたか分からない兵士達が揃って銃を向けていた。ホシノに遅れて今の現状を理解したシロコは、勝てないと予測したのか悔しそうに、静かに銃を下ろした。
「さて……君達のおかげでスムーズに本題に入れる。では、アビドスが抱える借金の話でもしよう」
「ちょっと待ってください!さっきから話が飛躍していると言いますか……どの立場から物事を言っているんですか!」
「ふむ、君たちならよく知っている相手だ。私はカイザーコーポレーションの理事を務める者。そして君達アビドス高等学校の借金相手だ」
「なっ!?」
次々と明かされる事実に口をあんぐりたいほど私は驚いてしまったが、男は隙を与えず立て続けに高圧的な言葉を言い放つ。
「勝手に人の所有地の侵入した挙句、器物を次々に破損させる……これらの被害料を君たちの借金に加えてもいい。だが、大して額は変わらないだろうな」
「……あんた、あの時の」
“……ホシノ?”
「おや、あの時の……そうかそうか。面白いアイディアが浮かんだヘルメット団や便利屋を雇うよりも良さそうだ」
「ヘルメット団に便利屋……?まさか、彼女らをけしかけたのはあなただったんですね」
「その通り。彼女らの雇い主は私だ」
今までの悪事を開き直って、堂々とした態度で答えるカイザー理事。男の第一印象は最悪だ。ここにいる誰しが良くないと答えんばかりの強張った顔を作っている。
「それはどうでもいいけど、要はあなたがアビドス高校を騙して搾取した張本人ってことでいい?」
「そうよ!ヘルメット団と便利屋を仕向けて、ここまで私たちをずっと苦しませてきた犯人があんたって事なんでしょ!?あんたのせいで私たち……アビドスは……!!」
「やれやれ……最初に出てくる言葉がそれか。勝手に私有地へと侵入し、善良なる我がPMC職員達を攻撃し、施設を散々破壊しておいて……くくっ、面白い」
男は生徒達の必死に絞った叫びをただ鼻で笑った。
「だが、口の利き方には気をつけたほうがいい。ここはカイザーPMCが合法的に事業を営んでいる場所だ。まず君たちは今、企業の私有地に対し不法侵入しているのだということを理解するべきだ。ましてや……真っ当な意見を述べてる大人達を連れているのにだ」
「……っ!ろ、ロージャもなんか言い放ったら……!?」
「……あはは、これは流石に弁論の余地も無いかな……」
「そ、そんな!?」
確かに今回の任務において、相手は特にこれと言った不法な事案を引き起こした訳ではない。むしろ、こっちが問題を起こしているとか捉えることができない状況下であった。
「そうだ、そちら側からの弁論は意味を為さない。アビドスの土地を買収したのも全て合法的な取引の上で行われた。記録も存在している。まるで私達が不法な行為をしているかのような言い方はやめてもらおうか。わざわざ挑発しにきたわけではないだろう?ここに来たのは、私達がここで何をしているか気になったからか?どうしてアビドスの土地を買ったのか、その理由が知りたいのか? それならば教えてやろう。私達はアビドスのどこかに埋められているという、宝物を探しているのだ」
「……そんなでまかせ、信じるわけないでしょ!!」
「それはそう。もしそうだとしても、このPMCの兵力について説明がつかない。この兵力は、私達の自治区で武力を占拠するため。違う?」
「……わざわざ君達5人の為に用意した兵力ではない。この兵力はどこかの集団に宝探しを妨げられる事を考慮して持ってきたものだ。君達程度、いつでも、どうとでもできるのだよ……例えばそう、こういう風にな」
そう断言したカイザー理事は懐から携帯を取り出し、どこかへ電話を繋げた。そしてそれが終わったかと思うと、今度はインカムに情報が入り込んできた。
「た、大変です!カイザーローンから利子の金額を上昇させるという一方的なお知らせが……!?毎月9130万円ですよ!?」
「9000万!?」
「これで分かったかな。君達の首にかけられた紐が今、誰の手にあるのか」
「ちょっ!?嘘でしょ!?本気で言ってんの!?」
「ああ、本気だとも。しかしこれだけでは面白みに欠けるか……そうだな、9億円の借金に対する保証金でも貰っておくとしよう。一週間以内に、我がカイザーローンに3億円を預託してもらおうか。この利率でも借金返済ができるということを、証明させてもらわねばな」
「そんな……!そんなお金、用意できるはずが……今利子だけでも精一杯なのに……」
「ならば、自主退学して転校でもすれば良い。それで全て解決するだろう、そもそも君達個人の借金ではない」
「……っ!?」
生徒達が絶望と怒りに打ちのめされ言葉も出ない、そんな最中。一回り大きな足が力強く一歩前へ踏み出した。
「テメェ……さっきから好き勝手に言いやがってよ……!」
地面を這う低い声。ヒースクリフだ。
「……部外者が何故出しゃばる?」
「部外者じゃねぇ!こいつらがどんな思いで学校を守ってるか、テメェみたいな鉄クズ野郎に分かってたまるか!!」
その言葉は粗暴で論理的ではないかもしれない。 だが彼の背中にはアビドスの生徒たちを守る強い意志が宿っていた。 その不器用で真っ直ぐな怒りに、生徒たちはただ息を呑んでその背中を見つめるしかなかった。
「ヒースクリフ、ここで引き上げよう。ただ掌で踊らされるだけだよ」
「そう言ってるお前の顔、まだ物足りないって顔してるぜ?」
「……」
図星だったか、ホシノは黙ってしまう。しかし確かに彼女の目には希望と諦念の色が眩く光っていた。
「まあ確かにお前の言い分も間違っちゃいない。いくらでも洗い出せば見つかるだろうな」
「分かっているなら、その素朴な武器を下ろせ」
「お前に一発ぶん殴りたい理由は3つ。1つは罰がヒデェこと。もう1つはこいつらに分かっちゃいない物言いでバカにしたこと。そして……」
ヒースクリフは獰猛な獣のようにニカッと笑う。
「単純にムカついたからだ」
「……文字通り単純で軽率で馬鹿のような思考回路だな。大人だというのに引き時というものが分からないのか?」
「はっ!いくらでも嘲笑いな。こっちはこっちで己の流儀ってもんがあるんだ」
男は指先まで筋肉縮ませたヒースクリフを見て嘲笑する。一見すると向こう見ずな馬鹿で批判的かもしれない。だが私はそんな彼の思考回路に賛同できる。私がこういう複雑な問題は苦手だから、それがある種『都市』の生き方の一つだったからだ。
「お前らもそうだろ?自分の居場所を失いたくないだろ!?」
「ん、勿論」
「あったりまえよ!自分の学校を捨てる事なんてしないわ!」
後方で見守っていた生徒の数人もヒースクリフの意見と同じようで彼の言葉に頷き、闘気を宿している。
「……正直言ってあんまり気乗りはしないけど……私もこの子達と同意見かな!」
「時には……野蛮な方法で無理やり解決するのも手ですね」
都市で生き抜いた者たちは根っこから相応の思考を持ち合わせている。他の囚人達も得物を構え、いつでも攻撃できるように済ませた。
一触即発と言えるほど張り詰めた空気。こちら側は相手の男を睨み、今すぐ引き金を引けるような状況。対して……。
「……ふむ」
眉一つ動かさない。それどころかこれから始まる余興を楽しむかのように、余裕綽々な態度を見せていた。その不気味な佇まいに私は妙な寒気を覚える。
パンッ!
刹那、乾いた音が現場に響いた。それと同時に舞い散ったのは……火花ではなく 囚人の鮮血だった。
「ヒースクリフさん!?」
“カイザー……殺した……!?”
〈な、なにっ!?〉
不慮の事故でも起こらない限り、囚人の致命的な損傷は到底起こらないと確信してしまっただろうか。現に意識外からの狙撃によりヒースクリフの脳天は貫かれてしまった。
「ま、また……」
「無闇に生身で向かってくるとは……失望したよ」
「な、なんでよ……?ひ、ヒースクリフを殺す必要はあったの……!?」
次々と悲鳴を出すセリカに対し、カイザーの理事は依然としてヒースクリフの亡骸をゴミでも見るかにような視線を送る。広がる血糊、鋭い視線を送る囚人、嘆き悲しむ生徒達。次第に状況は悪い方向へ進んでいく。何か状況を変える手段はないか。時計の針をより一層刻む最中、囚人達より前に素早く、小さい影が躍り出る。
「……もうやめろ、人の命を弄んで楽しいの?」
「とんでもない誤解だな。そこまで私は落ちぶれていないさ」
「だったらそっちの兵を下げろ……!」
「飲み込めない要求だ。この行為は至って普遍的な方法だというのに……しかし君の意見には同意見だ」
「……ちっ」
男の隠された意図を汲み取ったホシノは、構え出しかけた銃を下げ一歩引く。その動作を凝視したカイザー理事は、ほうほうと頷き口を開く。
「……さて、ここまでしておいて烏滸がましいと思うが、これ以上の争いは望んでいない。私にも君達にも不利益だからだ。という事だから、君達はさっさとその死体引き摺ってでも早急に立ち去れ」
〈……ダメか〉
これ以上の抵抗は吉ではないと互いに分かっていた。意見が合致し、緩やかに私達は敗北を喫する……というわけにもいかなかった。
「だ、ダンテ?あの幻想体の卵……」
〈あいつから……私たちの所有物だと一方的に押し付けられた〉
「はぁ!?このまま大人しく厄ネタ預ける気!?」
〈分かってるだろ、ロージャ。これ以上の抵抗はできない。それとこちら側から主張する事ができない〉
幻想体の卵は回収できなかった。そもそも幻想体はL社固有の産物であるが故、お互いに己の物だと主張する事自体おかしい事だが……カイザーは今この『施設』の、そしてこの『土地』の合法的な所有者だ。 ならばそこから『発掘』されたこの幻想体もまた法の下においてはカイザーの所有物である、と主張されてしまえばこちらには、もはや返す言葉も権利もないのだ。 私たちは自らの手で倒した獲物すらも奪われるという、完全な屈辱を味わうしかなかった。
「……そうだ思い出した」
撤退する間もなく、カイザー理事が突如呟き出す。そんな男の視線は疲弊し切ったホシノに向けられていた。
「そういえば、あの時賢そうな君の隣にいた馬鹿な生徒会長はお元気かな?」
「っ!?」
『生徒会長』と共に放たれる男の侮蔑は、ホシノの心へ深く深く突き刺さったか、今までに見ないような戦慄した表情を見せた。それは『先輩』と慕っていた生徒を馬鹿にされたのかどうか、真偽は分からなかった。
「……最近、音信不通でさ……分からないや」
「そうかそうか……では、保証金と来月以降の返済については宜しく頼むよ。お客様」
不意に始まった会話は続く事なく、切り上げられてしまう。私たちの去り際に聞こえた不気味な笑い声を残して。
「はぁ……最悪な状況だな……」
蘇ったヒースクリフが呟いた言葉は、悔しみが一層込められていた。
道中でヒースクリフを蘇らせ、これといった妨害はなくアビドス高校へ無事に戻れた日の暮れの時間。
今回の任務は、完全な失敗に終わった。 これといった成果は何一つ得られず、むしろ返済不可能な額の借金というさらに重い荷物を背負わされる結果となった。
残酷な現実に打ちのめされた仲間たちは、帰還するや否やカイザーが土地を占拠した原因や、新たな借金の件を巡って一悶着あった。シロコが単独で潜入しようとするのを、数人で止めるなど一波乱もあった。
だが、それももう終わった。 生徒たちがそれぞれ解散静かな会議室の中。 私たち大人組だけの重苦しい会議は、まだ続いていた。
「それで……今回分かった事って何だっけ?」
“今回の一連の事件、借金や土地買収、ヘルメット団襲撃等を引き起こしたのはカイザーPMC理事ってこと”
「相当目上な者に手綱を掴まれましたね……しかし『宝探し』っていう理由だげじゃ納得いかなんですよね」
〈さあね。最初は『アビドス自治区L社支部』の事だと思ったんだけど……既に幻想体を盗用していたし……〉
まずは情報整理からだ。今回分かった事は、カイザーがアビドスを手中に収めようと企んでいる事。L社支部は既に探索された事である。この事実は私達にとって重大な事だ。これだけでどれだけ不利であるか分かってしまう。
「んな事なら、オレらが探してる黄金の枝はもうあの鉄クズ野郎に奪われてるって事じゃ」
〈それはないと断言できる。黄金の枝らしき反応が無かったから〉
「まだ取られていないか、別の場所に仕舞われているか……」
〈そこは、取られてないほうに信じるしかない、かな……〉
次に私達が探す黄金の枝について。これの詳細は不明だ。黄金の枝を感知できない今、ただ推論を述べることしか出来なかった。
「うーん……なんか上手く、いい感じなことできないのー?」
“他にあるのは……そうだ。どうしてヒースクリフを殺したかだ”
「オレの話?んなもん、邪魔だったからの理由じゃないのか?」
「単純な頭してますねほんと……つまり、カイザーの理事さんは『殺す事ができた』のかってことですよね?」
“うん。この世界の倫理観がそれを許さないから、誰であれ殺人までには及ばないはずだけど……”
次に現れた疑問は殺人の件だ。どうして死という概念がこれほどまでに重く捉えられている世界で平然と殺人を犯したのか。
〈最も有力な説は、私達をリンバス・カンパニーを知っていたという事。これならストッパーが外れる可能性が十分にある〉
「でもでもダンテ〜?それならどうやって私達を知ったのかな?」
〈それは……黒服の件だと思うな……〉
「あー、そこで鉄クズ野郎と気味悪い黒服が裏でつるんでるっていう話が繋がる訳だ」
倫理観のストッパーの件については、私達を観測したという黒服の存在が橋渡しとなると結論づけた。
「でしたらL社支部を見つける原因になったのも黒服が関与していると?」
〈分からない、候補がもう一つあるから〉
「もう一つ?」
そう言って私はとある書類をテーブルに置く。書類というのは、N社とカイザーが関係していると予測できる、あの集金回収確認書類だ。
「おっ、これってあん時のヤツじゃねぇか」
「へー、銀行強盗ついでにこんなのもくすねてきたんだ〜」
〈いや、そっちが本命なんだ……〉
「……N社、ですか。まさかここでもこんな名前が出るとは思いもしませんでした……」
“N社?まさかそっちの世界の?”
「簡単言えば、競合相手かな?」
ここで今まで温めておいたN社の存在もみんなに知らせることにした。N社がこの一連の事件にどう干渉しし、どれぐらい深く漬け込んでいるか分からないが、これだけでも有力だろう。
「大体出てきた情報をまとめられたようですね……ここから導き出されるやらなければならない事は……」
“利率上昇と保証金の引き下げ、それとL社支部の所有権をリンバス・カンパニーに引き渡す事だね”
「と言ってもね、解決法が思い浮かばないんじゃ元も子もないよね……」
とりあえず課題を汲み上げることができた。しかし問題はその解決法だ。どう足掻いてもこちら側から打てる手は限定、残っていない可能性まである。
“相手がボロを出す他無いのか……”
「そうですね、こちら側で打てる手は全て返り討ちに遭う可能性があります」
「はぁ……なんか腑に落ちねぇな」
結局、相手の出方を待つしか無いという受身的な考えに辿り着いた。だがそんな結果で満足する囚人ではない。都市でいつも通りに、野蛮で無謀に自分達で行動したから。
これと言って進展のない会議は、空が完全に暗くなった頃まで暫し続いた。
勿論進展はなく、行き当たりばったりだ。これ以上の進展の見込みは無いと断言され、ここで会議は中断されてしまう。囚人の何人かが悪態を吐いたりと疲弊している状況の中、不意に扉が開かれた。
「よっすよっす〜。まだ教室に電気が灯ってたから来てみたんだけど、まだお取り込み中かな?」
“いや、丁度終わった所だよ”
「そう?ならお邪魔しようかな」
ドアが開かれた先には解散したはずの対策委員会が立っていた。
「夜遅くまでお疲れ様です。一応ですが、こちら。飲み物を買ってきました」
「どうもありがとう〜」
何も躊躇いなくノノミが差し出したペットボトルをひったくるように掴み、流れ良く蓋を開け口につけるロージャは相変わらずの食いしん坊に近しいものを感じさせる。
「それで……進展はありましたか?」
“これといった手段は思い浮かばなかったよ。もうちょっと時間が欲しいかな”
「そうですか……後一週間で」
再び顔を曇らせるアヤネ。理由は一週間以内に納めなければならない3億円の保証金だと目に見てわかる。
「ほら、そんな悲しい顔しないの。大丈夫、一週間以内に何とかできるよう努力するから」
「ありがとうございます、ロージャさん……」
アヤネだけでは無い。他の生徒達も彼女同様に将来への不安を感じられる表情を見せている。その中でも一際目立っているのはホシノだ。不安の感情があるのは確かだが……それ以外に自責か、責任に押しつぶされるような感情が混ざっている。
「先輩、ちょっといい?」
「なぁにシロコちゃん?おじさんと話したいことでもあるの?」
「ん、なんていうか。さっきからずっとソワソワしてるのが気になって」
「んえっ!?そ、そんなに一目で分かるほどソワソワしてたかな?」
核心を突かれてしまい、一層焦るホシノ。何とか言い繕っているが、その心に秘められた感情は未もはや隠しきれていない。
「おい、なんでさっきからソワソワしてんだ?言いたいことでもあんのか?」
「あ、あるにはあるんだけど……ほら!今日は色々あってみんな疲れてるじゃん?だからね……ほら、そういうこと!」
「う、うーん……そういう事なら良いけど……」
本当は告げたい事が幾つかあったらしいが、ホシノなりの優しさが安全装置として止めてしまっているようだ。
“まあそんなに無理せず話さなくてもいいよ。ほら明日があるんだし”
「えぇーっ、時間は金なりって言うじゃない!何でこんな大事な時間を無駄にしちゃうの!?」
“だってセリカまで疲れてるでしょ。みんなが疲れを癒してる間は大人に任せて欲しいな”
「そう言う事?まあ、それなら……」
先生のその言葉に、セリカもしぶしぶといった様子で引き下がる。 私も色々聞き出したいことはあったが……今は口を挟むべき時ではないだろう。
こうして生徒たちは今度こそ、本当に解散することになった。 私たちもここで切り上げてシャーレへと戻るらしい。
「それじゃあまた明ーー」
ジジッーーージジジジッーーー
「ホシノちゃん見てみてー!アビドス砂祭りの昔のポスター!やっと手に入れたよー!」
「もっとしっかりしてください!あなたはアビドス生徒会長なんですよ!?もう少し、その肩に乗った責任を自覚してたらどうなんですか!」
「あ……ああ……ごめんなさい####先輩……まさかこんなことになるなんて……」
「私は……私は……」
「####先輩を……殺したんだ……」
突然脳内に響き出した2人の声。この現象は……囚人の過去を垣間見る事ができるものだろうか。しかしどの囚人に近い声ではなかった。黄金の枝付近でしか起きるはずがなかったこの現象……。つまりこの声は……この記憶は……。
〈小鳥遊ホシノ……?〉
ホシノの名を呟いた瞬間。
「うぐっ……ぉえっ……!?」
「ほ、ホシノ先輩!?」
「ホシノ先輩!?どうして急に吐いて……!?」
その場を立ち去ろうとしてホシノが立ち崩れ、激しく嗚咽を漏らしたのだ。
“ホシノ、大丈夫か!?”
「ぉえっ……ぐぅうっ………うぅぇっ……」
彼女の周りに集まる仲間たちの隙間から見えた顔は。
涙でぐしゃぐしゃになった、ひどく歪んだ顔。
「な、なんで今頃……どうして……?ご、ごめんなさいっ……先輩……」
翌日の午前。昨日はあんな事があったけど、予定通り今回の事件についての会話が始まる。
と、思っていた。
しかし、そこにはホシノはおらず……代わりに残されていたのは退部・退会届だけだった。
コメント
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これヒースが撃たれた時の写真を取れば殺人犯としてカイザー理事を失脚させられたのでは?ボブいぶ 撃たれた瞬間を撮れたらベストだけどヒースの死体だけでも写真に写してヴァルキューレ警察学校にタレ込めばワンチャンいけそう()
ヒースクリフさん等がいても変えられんのかねぇ