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『メアリー、君を、永遠に愛す
此花にそう誓うよ』
暖かい春の陽気
白い椅子の上
ゆっくりと、彼女は瞼をあける
いつの間にか、居眠りをしてしまっていたみたいだ
日差しがゆっくりと入り込む、この愛しの庭園の中で、彼女はそう思った
「とても、懐かしい夢を見ていた気がするわね…」
ふと、彼女の目の前にアゲハ蝶が飛んでくる
彼女が、好きだった蝶だ
「あら…アゲハ蝶…」
「今日も、貴方たちは綺麗ねぇ…」
そう言って、彼女は優しく手を差し出し
その指に蝶を止まらせる
「蝶というのは、亡者の魂を乗せて飛んでくる虫…」
彼女は美しく、優しく笑う
「もしかして、さっきの夢と一緒にあの人の魂も乗せてきてくれたのかしら?」
「なんて、ね…」
彼女は慈しむように蝶に向けて笑う
「…さ、もう行きなさい」
「こんなおばあちゃんのしわくちゃな手なんて、綺麗じゃないんだから」
そう言って、蝶を空へと綺麗な手で押し上げる
でも、蝶は彼女の手から離れない
「…どうしたの?はやく行きなさい」
それでも、
それでも蝶は彼女から離れようとしない
彼女はそんな蝶を見て、いたずらっぽく笑う
「そう、離れたくないのね?」
彼女は冗談のつもりで言ったのだろう
でも、蝶は
そうだとでも言わんばかりにその羽を瞬かせる
「あらまぁ…冗談のつもりだったのだけど…」
「仕方ないわね、ならもう少しだけ一緒にいてあげるわ」
彼女は杖を持って椅子から立ち上がる
それを見て蝶は彼女の手から、肩へと移動した
あのままでは、きっと彼女の迷惑になる
「花を見に行きましょう」
「せっかくの庭園なんだもの、貴方もご飯食べたいでしょう?」
ゆっくりと、彼女が歩き出す
蝶も彼女から離れず、流されるままついていく
花壇への距離は短い
でも、そこにたどり着くまでの時間は長い
いや、ゆっくりと流れていく
穏やかな瞬間だ
「さ、着いたわ」
「私の大好きな花」
「…此花はね、私の大好きな人が愛を誓ってくれた時にくれたの」
「此花に誓う…ってね」
「ふふ、今思えば、あの時の彼は案外ロマンチストだったのかもね」
そんなに、笑うことでも無いだろうに
「…なんて言ってるけど、私もかしらね」
いつの間にか、蝶は彼女の肩から降りて
花の蜜を吸っていた
「彼も、ここにいたら良かった」
彼女は、悲しそうな淋しそうな、そんな目をしている
「…ねぇ、少し話して良いかしら」
構わないよ
蝶が彼女に寄ってくる
「私にはね、夫がいたのよ…ってそれは分かるわね」
指輪しているもの、
彼女は左手の薬指にはめられている指輪を見ながら笑った
「政略結婚だったのだけれど、私達は出会った瞬間に互いに恋に落ちたのよ」
「だから、彼はあの草原で…」
『此花の花言葉はね、永遠の愛』
『だから、だからメアリー、君を、永遠に愛す』
『此花に、そう誓うよ』
「そう言って、私の頭の上に此花の花冠を乗せてくれたの」
「彼ったら、ビックリするぐらい赤くなっちゃって」
「私もつられて顔が火照って来るぐらいだったわ」
「でも、それくらい本気なんだって、分かったから」
「とっても、嬉しかったの」
「でもね」
「結婚して数年経って…」
「彼、重い病を患ってしまって…」
「医者に診せたとき、今の医学では…治らないって…」
「私、それを聞いたときに彼よりも泣いてしまって…」
「あぁ、でもそう言えば」
「彼はまるで、そう言われるのが分かっていたみたいに平気そうだったわね」
何でだったのかしら、彼女は不思議がって首を傾げる
「それから、彼はベッドに寝たきりになってしまった」
「彼が亡くなるまで、ずっと看病してたの」
「彼が、できるだけ長くこの世界にいられるように…」
その甲斐あってか知らず
医者に言われていた余命よりも半年長く生きられた
「彼の骨を埋めたとき、淋しくて、悲しくて、その場に泣き崩れてしまったの」
「でも、でもね」
「次の年から、貴方たちが、此花が」
「彼が愛したこの庭園に咲くようになったの」
「彼が亡くなる前からずっと植えていたのだけど、上手く咲かなかったのに…」
太陽の下で咲き誇るその花を、彼女が愛でる
「だから、彼が咲かせてくれたんだ…って思ったわ」
「それから、この季節になると、彼がこの場所に帰ってくる気がするのよ」
「だからもう、寂しくないわ」
あぁ、
確かに僕はここにいる
ずっと君を見ている
君が好きだったこの蝶に乗せられて
君のもとに来ることができる
でももう君には
話すことも出来ないし、
触れることも出来ないし、
君に、花冠を送ることも出来ない
それでも君を愛している
君もきっと僕を愛してくれている
それだけで良い
良いんだ
ゆっくりと流れる
穏やかな瞬間
「さ、流石にそろそろ行きなさいな」
いつか君と本当に会えるときまで
君のそばにいる
君を守り続ける
君が幸せなまま、最期を迎えられるように___。
_______________
「_ル、ファル?」
はっ、と意識がはっきりしてくる
少しボーッとしてたみたいだ
「あ、メ、メアリー」
「ごめん、ボーッとしちゃってた」
「もう、急に黙るからビックリしちゃったわ」
怒っているけど、可愛い
惚れた弱みってやつかも
「ごめん、でもできたよ」
「ほら、花冠」
「わぁ、凄く綺麗、器用なのね!」
「被せてあげるよ」
そう言うと、メアリーは素直に頭を下げてくれた
その小さい頭に冠を乗せてあげる
そうすると、凄く嬉しそうに喜んでくれた
「ありがとう、ファル!」
夢を、見ていた気がする
遠いけど、近い未来
いつかの話
「此花の花言葉はね、永遠の愛」
「だから、」
僕はきっと、君を悲しませることをする
君といない方が君は幸せになれるだろう
「だからメアリー、君を、永遠《とわ》に愛す」
それでも少しでも君といたい
ずっと君の笑顔を見ていたい
そう思うのは、強欲だろうか
『此花に、そう誓うよ』