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「・・・・・そう、そうやって濃い塩水を作る仕組みね、OKかな?」
「はい、後はこれを纏めて報告しておきます、分らない部分が有ったらまたお聞きするという事でよろしいですか?」
「うん、その時はソコを詳しく調べて詰めていったらいんじゃないかな?」
「分かりました、有難うございます。」
ローレルは深々と頭を下げお礼を言う。
「えーっと・・・・みんなどうしたの?」
千春とローレルを見つめる4人がそこに居た。
「いや、聞いていたが凄い事を説明しているんだなと言うのは解ったが、内容がさっぱりだった。」
エンハルトは不思議そうに千春を見つめていた。
「そりゃーコレ聞いて一発で理解出来たら逆にビックリでしょ、説明してる私もよく理解してないからね?」
「専門家じゃ無ければすぐに理解は難しいでしょうね、ハース領の者に伝えればかなり理解してもらえるのではと思いますが、一度作業している者も連れてきてもらいましょう、その時分からなければまた聞かせてもらいますね。」
「うい~、んじゃオヤツも食べたし・・・ローレルさんは今からそれ纏めるの?」
「はい、今纏めた方が覚えてる事も多いですし、そうします。」
「んじゃ魔法のお勉強はまた明日かな。」
「チハル!それでは今からパンの仕込みを教えてくれないか?宮廷の厨房に行きたいんだが。」
「パンねーちょっとレシピ詳しく調べてメモっとくね。」
そう言いながら検索しカシャカシャとスクリーンショットを取る千春。
「では先に私は厨房へ行って連絡してきます、チハル様何か用意しておいた方が良いものはありますか?」
「あーそだ、こんくらいの瓶を何個かとリンゴを1つの瓶に1個づつ、あとお湯を沸かして準備しといてもらっていいかな?」
「分かりました、それでは失礼いたします。」
セバスはそう言うと部屋を出て行った。
「王宮の晩御飯って何時頃なの?」
「そうだな、7時半~8時くらいだな。」
「えーっと7時半・・・うん、ドライイースト使えば焼きたて食べれるね、ちょっと取ってくるよ。」
千春はそう言いながらまたもや扉を通り台所の引き出しから小さな箱を持ち出した。
「おっけー!んじゃ厨房にれっつごー!」
そしてローレルを置いてエンハルトと千春、サフィーナも一緒に3人で王宮の厨房へ向かった。
侍女のモリアンはアフタヌーンティの片づけをするらしくお留守番だった。
王宮に入り幾らか広い廊下を通りながら厨房に向かう、前通った時よりも兵士が多い、兵士の食堂も有るようだ、厨房に着くとセバスが指示をしていた。
「殿下お話を聞かせて頂きました、新しいパンが作れるという事でパン担当の者と私が話を聞かせて頂きたいと思っております。」
そう話をしてきたのは王宮料理長のルノアーである、パン担当の二人も一緒にお辞儀をしている。
「あぁ、よろしく頼む、このお嬢さんが詳しく教える。」
「千春です、よろしくお願いします、では夕食に間に合う様にパン作りと酵母作りは同時進行で行きます、パン担当の方はパンを作る方、ルノアーさんは酵母の作り方を覚えてください。」
「「「はい、分りました。」」」
3人は恐縮したように返事をした、それはそうだよね、王子殿下が居るんだからねぇと千春は苦笑いしていた。
「ではー、酵母の方ですが、今ある瓶・・・いっぱいありますね、取り敢えず失敗したら作れないので多めに5個作りましょう、瓶を5個煮沸消毒してください。」
「煮沸消毒とは?」
聞いた事が無かったのであろう、ルノアーが聞いてきた。
「沸いたお湯にその瓶の内側だけでもいいので入れて悪い菌を殺します、それを消毒といいます、これをしないと良い菌が増える前に腐っちゃうので大事な作業です。」
「分かりました。」
そう言いすぐにお湯を沸かしていた数人に指示を始めた。
「あ、ココの水って井戸水かな・・・煮沸しておいた方がいいのかな・・・冷やすの時間かかるなー。」
「チハル?あの瓶くらいなら私が魔法で出しましょうか?」
サフィーナが水を出すと申し出た。
「わー!助かる!今から沸騰して冷やしてたら時間掛かるからどうしようかと思っちゃったよ!お願い!」
「はい分かりました。」
そう言いながら微笑むと煮沸している方へ向かった。
「あとはリンゴを良く洗って縦に皮ごと8等分に切っちゃってください、1瓶に・・・あ、リンゴちっちゃいですね、1瓶に2個分づつ入れてもらっていいですか?」
ルノアーさんがすぐに返事をし指示を始めた。
「今日の王様の夕食パンを作ります!パンチームがんばるぞー!」
「「はい!」」
物凄く緊張しているが構わず続ける千春はまず必要な材料を準備させる。
「はい!では・・・王子様ー夕食って何人で食べるの?」
「5人だ、父上と母上、俺と弟が二人だ。」
「はーい、じゃぁ10個くらいの計算で、試食用も兼ねてその倍!20個分の材料を揃えますねー、まず強力粉を1㎏持って来て下さーい、ルノアーさーん!ちょっとお風呂くらいの温度でお湯500㏄貰えますかー?、あと塩を大さじ1杯くらいと砂糖が50gも有れば大丈夫かな。」
ささっと計算をし材料を揃えていく、そして厨房にある大き目のボウルを出してもらいパンチームに指示をする。
「はい!ではこのボウルに材料全部入れてください、そしてお湯を入れて行くので、このヘラでまぜてくださいねー、塊になったら取り出して艶が出るまで捏ねまくってください。」
そう言うとドライイーストを大さじ一杯そこに入れ捏ねさせる。
「チハルー水はどれくらい入れるのー?」
サフィーナが水の量を聞いてきた。
「はーいはいはい!すぐいくー・・・うん、蓋の上が少し空くくらいまで入れちゃってー、いい具合に詰め込めたね、それじゃ入れたら蓋を閉めて終わり~、冷蔵庫ってあります?」
「これで終わりなのか?ああ、冷蔵庫はそこの部屋がそうだ。」
ルノアーさんは壁際の別の部屋を指さし教えてくれた。
「それじゃその瓶をその部屋に入れて2~3日放置しといてください、瓶の中身に泡が出てきたら冷蔵庫から出して一度蓋を開けて空気を入れ替えます、そして瓶を数回振る、この作業を1日2回それを2日くらいやって出来上がりです、ルノアーさんOKですか?」
「ああ、工程は簡単だから大丈夫だ。」
「では、パン作りの方に行きましょう、今はまだ捏ねただけなので一緒に見て下さいね。」
そして二人はパンを捏ねてる方へ向かう。
「ルノアーさんオーブンってあります?」
「ああ、そこの箱のやつがそうだ、火の魔石で温度を設定出来る。」
「んじゃ40度くらいで30分設定出来ますか?」
「そんなに低い温度なのか?」
「はい、一次発酵です、その間は他の作業してても大丈夫ですよ、ではその捏ねたのをココに、そんでこの絞った布を掛けてオーブンにいれまーす。」
そして千春はエンハルトとテーブルに向かい30分休憩、厨房では夕食の準備をしていた、兵士達の夕食を準備している為結構な作業量のようだ。
「そろそろいっかな?」
オーブンを開けると膨らんだパン生地があった。
「よーしいい感じ、それじゃこれを一度ガス抜きしまーす。」
「こんなに大きくなるのか。」
「うん、中に酵母がガスを出してるから一度潰して抜きます、キメ細かいパンを作るなら絶対にやってね、そしてーこれをこんくらいのサイズに分割してちょっと生地を休ませます、10分くらいでいいかな?」
説明しているとルノアーの横にいる人がメモを取っていた。
(そりゃ一回で覚えろ言われても忘れるよねー。)
「よし!それじゃ型作りなんだけど初めてなので丸にします、色んな形作るのは基本覚えてからにしましょうー、それじゃさっきの40度のオーブンにもっかい入れて10分放置!」
「また休ませるのか?」
「そそ、2次発酵させるからちょっと温めて、外に出してもうちょっと発酵させるの、パンを焼くのはあそこにある石窯?」
「あぁそうだ、もう火が入ってるからいつでも焼けるぞ。」
「ほい、んじゃ今言ったように出して発酵終わったら焼いちゃって下さい。」
「分かった。」
そう言いパンチームに指示を出すルノアーさん。
「パンの方はこれでオッケーかな、王様の晩御飯に間に合いそうで良かったね。」
そう言いながらエンハルトに笑いかける。
「あれはさっき食べたパンと同じものが出来るのか?」
「違うよ?でも柔らかいパンだから美味しいよー、晩御飯はココで作ってるの?」
「ああ、王族用のキッチンがその奥に有る、もう仕込みは終わって調理するだけだろう、あと1時間もせずに夕食だ、そうだ、チハルも一緒にどうだ?パンを食べる所を見たいと思わないか?ビックリするぞ皆。」
「初の柔らかパンを食べる所かー・・・見てみたいな!」
「もし良かったら向こうの食事を1品くらい料理長に教えて作れたら良かったんだが。」
「んー、それなら1品私が作ろうか?玉子料理で良いなら。」
「いいのか?・・・ルノアー!ちょっと来てくれ!」
そう言い料理長を呼ぶ、そして・・・。
「はい、大丈夫です、概ね準備は終わってますし1品料理の変更は大丈夫です、ではこちらにどうぞ。」
そして王族用の厨房へ向かう。
「所で王子様はまだ一緒に居ていいの?」
「ああ、問題無い。食事に誘ったんだ、チハルと一緒に料理を持って行くのも一興だろう。」
笑いながら言う、どうもサプライズ的な感じで料理を見せたいらしい、異世界の料理を先に食べビックリした為か家族にもビックリさせたいようだ。
「あ!ケチャップ!サフィー!ちょっと部屋までケチャップ取りに行くから道案内して!」
「はーい。」
そして二人は急いでケチャップを取りに行った。
「チハル王族に料理とかよく作れますね、私だったら料理に自信有っても無理ですよ。」
「王様に料理だもんねー、緊張するよねーwでも大丈夫だよ、私の一番の得意料理・・・だから。」
ちょっと含んだ物言いでサフィーナは「?」となったが得意料理と言うから失敗する事も無いのだろうと急いで厨房へ戻った。
「んじゃココお借りしますねー。」
そう言いながら玉子を割り、貴重だと言われていた塩と胡椒、バターを持参での料理を始めた、そして王族5人と自分の分、6人分の料理を作る。
出来上がった料理をエンハルトと一緒に料理人が運ぶ料理の前を歩き王族が待つ食卓へ向かう。
「国王陛下こんばんわ、異世界の料理をと王子殿下から承りましたので作らせて頂きました。」
敬語が言えてるかよくわからない説明をしつつ、食事を作った事を伝えると。
「ああ、セバスからも聞いておる、とても美味い料理だったそうだな楽しみにしてるぞ!」
ガハハとマッチョな国王陛下は笑いながらそう言ってくれた、緊張をほぐしてくれてるみたいで千春も思わず笑みが出る、そして席に付き自己紹介が始まった。
「コレが私の妻、マルグリット、そして次男のライリー、三男のフィンレーだ。」
3人は微笑みながら貴族っぽい挨拶をする。
「チハル・フジイです、よろしくお願いします。」
自己紹介をしながら3人を見る、マルグリット、王妃様はちょっと釣り目気味の目付きは鋭い感じで3人の母とは思えない美貌、そしてナイスヴぁでい!お・・おっぱいが!と思わず同性の千春ですら目がそっちに行きそうなプロポーション、簡単に言うとナイスバディな悪役令嬢!と言う感じであった。
次男は14~5?いや、こちらの世界の人は大人に見えるから12とか3かも知れない知的な感じだった、三男はまだ7~8歳かな?可愛い、とにかく可愛いかった。
「では頂こうか。」
そして夕食は始まった、そして皆パンを触り目を見開く、柔らかさに驚きパンを割るとふっくらした生地、そして香りに驚き食べてまたビックリであった。
「コレは!凄いな!これが異世界のパンか!」
「いえ、膨らませる酵母だけは今回向こうからお持ちしましたけど、こちらでも作れます、他の材料も厨房に有る物でしたので、あと5日もすれば毎日このパンが食べれますよ。」
その言葉に王妃も弟殿下達もビックリ、そして喜んでいた。
「この黄色いのは玉子か、そして赤いソースが掛かっておるが、コレも異世界の料理か?」
そう、千春が得意と言った料理、プレーンオムレツである、小学校入る前に病気で亡くなった母の思い出の料理、大好きな料理であった。
母に幼い頃から作ってもらい自分も作る!と教えてもらいながら作った、そして母が亡くなっても何度も作り続けていた、母の味を忘れないよう、母を忘れないように・・・。
「んむ!コレは美味いな・・・こんな美味い玉子料理は初めてだな、特にこの赤いソースの酸味がたまらんな。」
「ええ、本当に。」
陛下と王妃に好評の様で弟殿下を見ると、無心と言わんばかりに食べていた、美味しそうで何よりだった。
千春は思い出していた、このプレーンオムレツを人に作ったのは何年振りだろうか、自分では良く食べていた、それこそホテルのコックよりも上手に出来る自信が有るくらいに。
ただそれは自分と言うよりも母に食べて欲しかった、こんなに上手に出来たよと言いたかったからだ、そして命日には仏壇へ毎年プレーンオムレツを出している。
母の顔は仏壇の写真で変わらぬ若い母を見ているから良い、しかし母の匂い、そして声がだんだん思い出せなくなっていた、夢にでも出て来てくれたらといつも思う、だから思い出したい時はプレーンオムレツを作っていたのだった・・・そして。
「チハル、とても美味しかったわ。」
『千春、とても美味しかったわ。』
王妃様が千春にお礼を言った・・・その瞬間千春にいくら失敗しても『千春、とても美味しかったわ』と言ってくれた母の声が聞こえた気がした、いや、思い出した。
久しぶりに聞けた母の声・・・思い出せた・・・そして千春は王妃を見つめたまま涙を流した。
カタッ
王妃がすくと立ち上がりゆっくり千春に向かって歩きそして横に来ると千春をそっと抱きしめた。
陛下やエンハルト、弟殿下達は何があったのか、何故泣いてるのかそして何故王妃が千春を抱きしめているのか分からなかった。
「おかぁさん・・・。」
千春はまだ頭の中の母の面影を見ていた、そして母に呼びかけたが返事はないそして。
「あ・・・。」
王妃に抱きしめられてる事に気づいた。
「うわぁぁぁ!すみません!王妃様汚れますからすみません!」
千春は自分が泣いて王妃の服が濡れている事に気づき必死に謝った。
「何を言ってるのです、そんな綺麗な涙で汚れるわけがないでしょう。」
そう言いながら微笑みまた抱きしめてくれた、千春は最後に抱きしめられたのはいつだっけ・・・と思い出そうとしたが思い出せなかった、恥ずかしい、でも凄く暖かい、また涙が溢れだしたが王妃は優しく抱きしめてくれたままだった。