テラーノベル
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夕闇にどっぷりと沈んだ共同寮の一室、俺はあのときの情景を未だに忘れることができずにいた。今でも鮮明に思い出せる。俺が命を賭けてでも償うべき贖罪を。
◇
――戦場に突如として、濃厚な花の匂いを纏った雨がぽつりぽつりと降りだした。雨を無抵抗に受けていたあの人は、まるで猛毒に侵されたようにその場に崩れ落ちてうなだれた。あの人の顔を見ることは、できなかった。助けようと動き出すことすら、できなかった。やがて、あの人の半身は蝋燭のロウのようにぐにゃりと溶け、そこから鮮血が静かに流れていき、雨と混ざり合った。段々と雨が冷たくなってきた頃、あの人は痛みに歪む身体を無理やり動かし、虚ろな目を俺達に向け――
吐き気がするほどに眩しい笑顔を浮かべた。
◇
「…俺は、あの人を救えないのか?」
劣等生だった俺を、見捨てずに指導してくれていた神様を助けることすらできずにあの場から生き長らえてしまった。どうすればあの神様を救って幸福にできたのか、どうすれば…
「…運命に抗わなければ、よかったんですか。あなたが悪となるシナリオが、本当に運命なんですか?」
どれだけ泣き叫ぼうと、あの人がやってくることはない。やってくるはずがないのだと、頭では理解している気になっているのだが、きっと優しいあの人ならば、来てくれるはずだと期待していた。あの人は神様だ。聡明で、献身的なあの人は、誰がなんと言おうと最期まで素晴らしい人だったんだ。それなのに、最後にあの人の生き様を否定したのは、殺したのは――他でもない俺だった。
「ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
あの人がいなくなった寮では、まるでそんな神様は最初から存在しなかったかのように喧騒が満ちていた。
【作者コメント】
君は所詮モブキャラで、あの人は主要キャラ。でもそんな君も好き。
コメント
1件
読了しました…🌙 「神様」と呼ばれるあの人が、最後に見せた眩しい笑顔が、どうしても頭から離れないです。贖罪に生きる語り手の苦しみが、静かな語り口でじわじわと心に沁みてきました。モブだからこそ見える神様の在り方、という視点がとても好きです。続き、静かに待ってます。