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それから数日後のこと。
リオンたちは、村の近くにある山に来ていた。
そこで薬草の採取をしていた。
冒険者になる前や冒険者としての合間にも、何度かやってきた仕事だ。
そのため、慣れた手つきで作業をしていた。
「リオンさん、こっちの方は終わりました!」
「ありがとう。それじゃあそろそろ帰ろうか?」
「はい!」
そう言ってロゼッタの屋敷へと戻るリオンたち。
現在、ロゼッタの屋敷に下宿する形でリオン、アリス、シルヴィの三人は生活している。
古びているとはいえ、部屋数だけは多い。
掃除さえすれば十分に生活できる。
「おおリオンくん、ちょっといいかい?」
「え?」
リオンは驚いて振り返った。
そこにいたのは『ゴールドバクトの錬金術師』ことロゼッタだった。
ちなみに、以前シルヴィに言われた通り、彼女にもキョウナのことを尋ねた。
だが、さすがに知らなかった。
「どうかしたんですか?」
「その前に一つ確認しておきたいことがあるんだが、いいかな?」
「えっと、なんでしょう?」
「その腰に差している剣を見せてくれないか?」
「わかりました」
リオンは言われた通りに、鞘ごと剣を外し、彼女へと渡した。
彼女はそれを受け取ると、まじまじと見つめた。
「あまりいい剣じゃないな」
「ははは、まあ…」
この剣は以前、リリアを襲っていた盗賊が残していったものだ。
剣を残して逃げて行ったので、しばし拝借していたのだ。
「こんな物を使うより、私の作った剣を使った方がいいぞ」
そう言ってロゼッタは一本の剣を取り出した。
彼女が作った金属を使い作られた剣だ。
それをリオンに渡すロゼッタ。
ちょっと重いが、悪いものでは無い。
「これは私が打ったものだよ。銘は『リヴ・レーニア』という」
「すごいですね!それで、性能はどうなのですか!?」
「性能かい?そうだね…」
ロゼッタは少し考える素振りを見せた後で答えた。
「まず切れ味が抜群に良いな。次に頑丈さも申し分ない。そして最後に魔力伝導率が良い。これを使えば魔法を使うことも容易になるはずだよ」
「すごいです!」
「だろう?」
自慢げにするロゼッタ。
だが、すぐに表情を引き締めるとこう続けた。
「だけど欠点もある。扱いが難しいんだ」
「難しい…ですか?」
「まあ、使っているうちになれるさ」
リオンは考え込むように俯き、やがて顔を上げた。
彼の瞳には強い意志が宿っていた。
すると、ロゼッタは満足げにうなずいた。
「実はきみたちに任せたい仕事がある」
それは錬金術に使う材料の回収。
この先の山の中の遺跡に住む魔物、
ゴーレムを倒すというものだった。
ゴーレムは全身が鉱物で出来ており、通常の攻撃では傷つけることができない。
倒すためには、特別な武器が必要になるのだが、そこでロゼッタの作った剣を使うというわけだ。
ちなみにゴーレムの核や体の鉱物は錬金術の触媒として使えるため、是非とも欲しいとのこと。
現在、それらの素材が足りていないらしい。
「そういうことなら任せてください」
「ああ、頼んだよ。それとこの剣を持っていくといい」
「いいんですか?」
「もちろんだとも」
「ありがとうございます」
「いやいや礼を言うのはこちらの方さ。もし倒せないと思ったら、無理をせず戻ってこいよ」
「はい!」
こうして、三人はロゼッタの依頼を引き受けることにした。
準備をし、翌日に山に入る。
しばらく歩くと、そこは切り立った崖となっており、遥か下の方に大きな湖が見える。
どうやら、巨大な湖が下にあるようだ。
「あれが『大水蛇』と呼ばれる魔物だ」
シルヴィが指差す。
そこには大きな蛇がいた。
身体中に青いウロコを持ち、背中には大きなこぶを複数個生やしている。
とはいえ、見た目の割に大人しい魔物であり、襲いさえしなければ問題は無い。
目的はゴーレムだ。
「よし、行こうアリス、シルヴィ」
「はい!」
「ああ」
リオンとアリス、シルヴィは山の中を進む。
『大水蛇』から十分に離れた所で、リオン達はゴーレムの遺跡を探し始めた。
そしてようやくそれらしきものを発見した。
「ありました!」
アリスが嬉しそうに叫ぶ。
遠くからそれを確認する。
確かにそこにいたのはゴーレムだった。
だが、その大きさはかなりのもの。
リオン達よりも遥かに大きいサイズだった。
そんなゴーレムが岩肌を削りながら、移動していた。
「あの感じだとまだ気づいてなさそうだな」
「ですね」
二人は慎重に近づき、その背後へと回った。
そして、そのタイミングを見計らい、攻撃を仕掛ける。
リオンは炎系の汎用魔法を放った。
直後、轟音と共に凄まじい衝撃が走る。
爆炎が晴れ晴れた後、そこにあったのは粉々になったゴーレムの姿。
バラバラとなった破片は地面へと落ちていった。
「えへへ、やりましたね」
喜ぶアリスだったが、その時…
『ゴオオォオオッ!』
ゴーレムの頭部が雄叫びを上げた。
その声を聞いた途端、アリスの背筋に悪寒が走った。
「きゃあっ!!」
次の瞬間、ゴーレムの破片が浮き上がり、再び一つに集まり、元のサイズに戻った。
そして、ゴーレムは振り返ると、ギロリとした目で睨んできた。
どうやら今の一撃で完全に怒らせてしまったらしい。
『ゴオオオオッ!!』
ゴーレムは大きな拳を振り上げ、襲いかかってきた。
直接は戦えないアリスを後方に下げ、リオンとシルヴィが前に出る。
攻撃を慌てて避けるリオンとシルヴィ。
だが、そこへ更に追撃が来た。
「うおっ!?」
「くっ!?」
次々と放たれるパンチを避ける。
しかし、その度に周囲の地形が破壊されていく。
(このままじゃマズいな)
なんとかして倒さなければならない。
だが、一体どうやって?
「シルヴィ、あいつの動きを止められるか?」
「やってみる!お前はどうする?」
「魔法を使う!我が内に眠る魔力よ、光の加護となりて我を守り給え!『シャイニング・バリア』!」
詠唱を終えた後、リオンとシルヴィの前に光の壁が出現する。
それを見たゴーレムは再び拳を叩きつけてきた。
拳と光の壁がぶつかる、激しい音が響き渡る。
どうやら防ぐことはできたようだ。
ただ、ゴーレムの力が強いのか、壁が破壊されるのも時間の問題だろう。
「今だです!」
「分かった!」
リオンは剣を構えると、ゴーレムに向かって駆け出した。
「おおぉおおお!!」
そして、渾身の力を込めて振り下ろす。
刃はゴーレムの腕に命中したが、それでも切断するには至らなかった。
「ちぃっ!」
舌打ちしつつ、すぐさま飛び退く。
すると、今度はゴーレムの反撃が始まった。
ゴーレムはリオンに向けて腕を振るった。
「くそっ!」
それを転がって転がって回避したリオン。
だが、その直後、ゴーレムは向きを変えた。
どうやら避けられたことでターゲットをアリスに変更したらしい。
「まずいっ!」
焦りの声を上げるリオン。
基本的な後方支援魔法しかアリスは使えない。
彼女では、ゴーレムの攻撃を避け続けることはできない。
「…大丈夫だよ」
だが、そんなアリスに対し、リオンは笑みを浮かべていた。
彼は剣を抜くと、構えを取った。
「来い」
ゴーレムはその言葉に反応し、ターゲットを再びリオンに変更。
そして彼に殴りかかった。
「――ふんっ!」
それに対して、リオンはカウンターの要領でゴーレムの拳を弾き返した。
直後、ゴーレムの身体が大きく仰け反る。
その隙を狙い、リオンは剣を振り上げた。
だが、ゴーレムは素早く体勢を立て直すと、その攻撃を回避。
そのままリオンを蹴り飛ばした。
凄まじい衝撃が走り、リオンは吹き飛ばされた。
だが、空中で一回転し、地面に着地する。
上手く着地をすることで、衝撃を地面に逃す。
「…やるな」
感心するように呟いたリオン。
一方でゴーレムの方は、そのダメージを気にせず、再びリオンへと向かってきた。
その動きは先程よりも速くなっている。
「もう動きは見切った!」
再び迎え撃つ態勢を取るリオン。
ゴーレムの拳が迫るが、冷静に対処していく。
攻撃を捌きつつ、確実にダメージを与える。
そうして数分間ほど戦い続けた時だった。
ついにゴーレムの右腕が斬り落とされた。
それと同時に、もう片方の腕も動かなくなる。
両腕を失ったゴーレムはその場で立ち尽くしていた。
「よし…!」
チャンスだと思ったリオンは一気に畳み掛けようとした。
しかし、次の瞬間、ゴーレムの頭部が輝き始める。
「…まさか自爆するつもりか!?」
咄嵯に後ろへと飛ぶリオン。
直後、ゴーレムの頭部が爆発し、周囲に熱風が広がった。
爆風によって発生した土煙が晴れた後、そこに残っていたのはバラバラになったゴーレムの姿だけだった。
「…ふぅ」
「やりましたね」
なんとか倒すことができた。
安堵のため息をつくリオンとアリス。
「さて、それでは…」
そんな中、シルヴィだけは別のことを考えていた。
彼女はおもむろに近くに落ちている岩の破片を手に取ると、それをじっと見つめ始めた。
そして、しばらくしてから口を開いた。
どうやらこの破片の中にゴーレムの核があるらしい。
シルヴィの言葉を聞き、アリス達は驚いた。
「本当ですか?」
「うん。魔力の反応があったからね」
「さすがはシルヴィさんですね!」
アリスは嬉しそうな声を上げた。
三人は、早速それを持って帰ることにした。
ロゼッタにゴーレムの核を渡すために。