小柳と天文台で話をした次の日。ぺいんはいつものように警察署へと移動販売に来た。販売はもちろん情報収集も兼ねているが、一番の理由は小柳の様子が少し気になったからだ。
ここ数日は大量購入が多いため、出前用バイクではなくランポで本署まで来たぺいんはいつもの正面ガレージに車を停めると署員の集まる駐車場へと歩き出した。
緊急車両用の駐車場はいつものようにパトカーが数台出されたまま、何人かの署員が談笑をしていた。
ぺいんが駐車場側の敷地に入った瞬間、聞き慣れたピンを抜く音がかすかに聞こえた。
「まずいっ!」
ぺいんは音が聞こえた瞬間そう叫び、すぐさま反転しスライディングを駆使して駐車場から遠ざかると背後で大きな爆発音が聞こえた。振り返るとそこには黒焦げになったパトカー数台と爆発に巻き込まれたであろう警官数人が倒れていた。
「襲撃!襲撃!」
「グレだ!紫の所のボマーだ!」
「橋上を東に逃走」
「追え!」
爆発に巻き込まれなかった署員は次々とパトカーを出して追跡、入れ違いで救急隊がやってきてダウン者を運んでいった。
「びっくりしたぁ。何事?」
遠目からその様子を眺めたいたぺいんに対応に向かっていない警官数名が声をかけてきた。
「通称ボマーってやつなんですけど、数日前から1日1回グレ投げ込んでくるんですよ」
「単独犯ではあるんですけど、逃げ足速いし捕まえても懲りないでまたやるしで困ってるんですよね」
「なるほどねぇ」
少し考えながらぺいんは警官に向けて話を続ける。
「そんなに頻繁にくるんだったら、駐車場での雑談とかパトカー出しっぱなしはやめた方が良いんじゃない?」
「気をつけてはいるんですけどねぇ。みんな慣れちゃって」
「んー。修理代とか治療代も馬鹿にならないでしょ?手間が取られる分、他の事件対応も出来なくなるし。小さいことから気にかけた方が良いよ」
「耳が痛いっすね。気をつけます」
「上から言われるよりも、気付いたら自分たちで声がけするのも大事だよ」
「そうっすね」
しばらく様子を見ていたがまだ落ち着かない様子の本署を見てぺいんは暇を告げた。
「なんかバタバタしていて、移動販売どころじゃないと思うから帰るわ」
「はい。また来ていただけると助かります」
「慣れて平和ボケしちゃうのも分からんでも無いんだけどな。毎日ではなぁ」
ぺいんは車中でそうこぼしながらミンミンボウへと帰宅した。
夕方、ミンミンボウの少し客足が退いた頃合いにまるんが来店した。
買い物がてらの雑談の中で今日の本署襲撃の話となった。
「そういえばぺいんさん。今日の本署襲撃の時に現場にいたと聞いたんですけど」
「うん。いたけど巻き込まれはしなかったよ。すぐ帰ったし」
そんな話聞いてないんだけど?──さぶ郎とミンドリーは無言でそういう視線を送って来たが、気にせずぺいんは話を続けた。
「まるん、ちょっと時間ある?聞きたいことあって」
「えぇ。かまいませんよ」
「ここじゃなんだから、上の事務所使おうか。ミンドリー、上借りるね?」
「俺も行ったほうがいい?」
「昨日の件だから僕だけで大丈夫だよ」
「じゃあ店にいるから何かあったら呼んでね」
ぺいんはまるんを2階の事務所に案内し、ソファーに座らせると早速話を始めた。
「昨日、小柳君と二人で話したんだけど、彼のこと聞きたくて」
「俺もそこまで話し込んではいないんですけど、それでよければ」
「そもそも俺が招聘された理由が警察業務全般の指導なんですよ。戦闘狂とまでは言いませんが、現場対応が好きな人が多くて事後処理や市民対応が苦手な人が多いんです。外部組織にそこを任せるってことは内部に適切な指導者がいないと推測しています」
「警官は多そうに見えたけど」
「俺たちのいる街だったら、ドリーさんたちの世代がランク3や4なった時期ですね。元々、上官が少なく、出勤しても新人や若手が多かった時期です。加えてハクナツメと千代田の闇堕ちや警察署襲撃もありました。事件対応に追われてそれ以外のことになかなか対応できなかった時期です」
「僕、その時は寝ていたけど、らだおがものすごく苦労したって話は聞いている」
なるほどね───まるんは直接的な言い方はしないが、聞く限り小柳は若くして上のランクにいるが、経験が偏っているかそれこそ相談したり指導してくれる頼れる先輩や上官がいなかったのだろう。
「大体のことは分かった。今の僕の立場では難しいけど、会う機会があればいろいろ話してみるよ」
「お願いします。プライド高いらしくで俺にもあまり相談してこないので」
話が終わり、まるんの帰りぎわに今日の本署襲撃の話になった。
「今日の本署襲撃な。駐車場でパトカー出しっぱなしでの雑談は控えた方がいいって話をその場にいた警官にしておいた」
「ありがとうございます。お手数をおかけしました」
「まあ『仕事』だしな。今日はありがとうな」
「いえ、こちらこそ。それでは失礼します」
ぺいんはパトカーで去るまるんを見送りながら、小柳を含めLSPDの現状を少し考えたが、そうしながらも思い浮かぶのは元の街に残っている後輩たちのことだった。
ぱちおはもちろん、自分が復帰した直後に入ってきたえびす、レッサン、霊明ももう先輩がいなくても自分たちだけで十分対応できている。よわき・つよき、乱歩も成長している。
「えびすたち、元気にしてっかなぁ」
空を見上げ、遠い街にいる後輩を思う。
しばらく空を見上げた後、ぺいんは裏口から店へと戻った。
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