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尊いっ!
「おい…!おい!スガ!」
はっ…と気がついた瞬間、声のする方を向く。
その方向は廊下で、そこにはジャージで部活に向かう格好の大地がいた。
「え?何?ディグダの話?」
「ちげーよディグの練習だっつってんだろ」
「あー…そっか笑」
なーんか今日は話が入ってこない。
いや聞いてないわけじゃないし上の空とかなんか悩んでるとかそういうわけじゃないんだ。
聞いてるのに理解ができないってか、脳が処理してくれない感じ。
「…大丈夫か?また模試の結果悪かったのか?」
「しつれーな!またとはなんだまたとは!一個前のやつはすげー良かったんだからな!!」
「前々回と今回はだめだったのな…笑」
「うっせ!」
そんな会話をしつつ俺も部活の準備をする。
とりあえず荷物をバックに入れようと椅子から立ち上がった時、思ったより自分の頭が重くてふらついてしまった。
ガタンガタンッッ!!
「うわぉぁっ…と」
「おいおい…大丈夫か?」
「うーん…あまりにも勉強しすぎて脳が100キロぐらいになってるわ。」
「んなわけないでしょ笑授業中ねてたりしたんじゃないの?」
今日の授業中はなぜか眠くはないのにずっと机に突っ伏してた。なんかまともに授業受けようとすると頭がぁぁ…ってなる感じ
それでもういいやってなって授業聞いてなかったから実質寝てたようなもんか。
「ウッシ…準備できたし部活いこうぜ!」
「大丈夫かー?きついんでねーの?」
「受験生ともなるとこんなのは当たり前だべ」
「それもそっか笑」
いや、これ部活できるかな
立つのは大丈夫だけどフライングとかディグの練習は正直しんどい。サーブならなおさら。
でも後少しで春高全国。
あそこには黒尾たちもいるんだから練習を休む訳にはいかないんだよな。ってか休みたくない。
まぁ好きなことしてたら良くなるでしょ
あー、殴りたい。少し前の俺を殴りたい。
拝啓教室にいた俺へ。お前は部活を休むべきだった。
貴様は今相当辛い思いでフライングをしている。それも西谷と一緒にだ。
後輩の手前頭がなんかやばいとか言えないし、全国前の練習をベンチのおれ程度が止めれるわけがない。
あと何回かフライングしたらそのまま床に寝そべってKOになりそうなとこまで来てる。
大地も旭もいまは別のことをしてて言える相手が居ない。
どうしよう。サボるっていう名目で抜けるか?そんなカッコ悪いことできねぇー笑
「スガさん?大丈夫っすか?」
少し前にいる西谷に聞かれる。
「ぅえ?なんで?」
練習中は結構静かな西谷に話しかけられるとびっくりする。
「いつもより動作の間隔?が長いってゆーか、あとするたんびキツそうな顔してるんで」
「あー、ちょっと頭重いだけだべ!受験勉強ばっかだとこうなるんだよ」
「そっすか?ま、勉強のことはよくわかんねーっス!!」
そう言いながらケラケラと笑う西谷を見て、少し不安になる。
空気が読めないことがある西谷にさえ気づかれるほど俺はきつそうなんだろうか。もしかして隠せてないのか?
でも西谷が心配してくれたおかげで少し良くなった。ストレスとかなんかな?
とりあえず、最後に一回フライングをしたら休憩をしようと思って、俺は床に飛びついた。結構綺麗に着地したし、かなり遠いとこまで飛ぶことができた。
「うぉー!!流石っすスガさん!!」
先に休憩に入っていた西谷に褒められる。リベロにフライングを褒められるのは相当嬉しい。だって俺よりはるかに上手なはずだし。
「さて、と」
あれ。おかしいな。力が入らない。
膝立ちぐらいまではできている。だけど手が床を押しきれない。むしろ少しずつ力が抜けていく。
「やば、…っはぁ、」
だめだこれ、だめなやつだ。
そう思った瞬間手の力が完全に抜けて、そのまま床につっぷしてしまった。動いてないはずなのに体中から汗が出てくる。暑いのに寒い。
「スガさん!!?」
遠くから西谷が駆け寄ってくる。
西谷の声で少し周りがざわついた後、みんなもこっちにくる。そのドタドタとした足音の振動が頭に伝わって、どんどん頭が痛くなる。
「スガさん!大丈夫っすか!?」
田中がジャージをかけてくれる。こういうところイケメンなのがすごい。
「せ、先生呼んできます!!」
山口があたふたしながら月島と一緒に体育館を出て行った。その時もやっぱり振動が辛かった。
「やっぱきつかったんじゃねーか!無理すんな!」
「大地〜、、」
しゃがみ込んで小声で話しかけてくれる大地が優しすぎて泣けてくる。こういう時の友達って本当にありがたいし、すごく心強いなとまじで思う。
「スガさん水飲めますか?」
日向が冷えたペットボトルの水を持ってきてくれた。もしかして買ってきてくれたんだろうか。
少し遠くで影山がこっちをチラチラ見てくる。何をすればいいかわからないが心配だというような目だ。なんだこの後輩たちかわいいかよくそぉ。
「菅原くん!大丈夫ですか!?」
たけちゃんがこっちにトタトタ走ってくる。足音を立てないあたり気を遣ってくれてるのだろう。本当になんなんだよみんな優しすぎだべ!?と思いつつ大きい声は出せないので心の中だけで叫ぶ。
「熱…ありそうですね。おでこすごく熱いですし顔真っ赤です。」
そっか熱…熱!?そんなん小学校以来だべ!?
「とりあえず僕が車で家まで送ります。それで大丈夫ですね?」
たけちゃんがにっこりしながら聞いてくる。正直自転車どころの話じゃないのでありがたい。だけど少し心細くなってしまう。ガキかって笑
「…俺一緒行きます。いいですか?」
大地だった。しれっと俺の荷物をまとめて持ってる。いつとってきたんだよそれ。
「スガのお母さんと面識あるの俺だけですし、先生スガを運べないでしょ」
「確かにそうですけど…練習の方は大丈夫ですか?主将副主将がいないのは厳しいんじゃ」
「大丈夫ッスよ先生!!」
西谷が元気な声で言う。
「だってエースの旭さんがいますし!縁下も俺もいますから!」
「えぇ…おれ仕切れるかどうかわかんないよ?」
旭がか弱い声で答えた。こんな時ぐらいシャキッとしろ5浪ひげ男。と言いたくなる声だ。
「…そうですね。では荷物は僕が持つので澤村くん。菅原くんをお願いできますか?」
「もちろんです!」
「…スガ、お、お姫様だっこでいいか…?」
うげ、やだー!と言いたいが、それが一番楽そうだし嬉しいかも。
俺はん、とだけ答えて大地に抱えられる。
無駄に身長伸びやがって、俺より一ミリでも高いやつは全員敵だくそ。
「はぁー、その身長もう少し俺にくれたっていいだろ…」
と心の中で言ったつもりが声に出てたみたいで、大地が笑う。まるで馬鹿にされたみたいでムカつく。
…治った後の試合絶対こいつにトスやんねぇ。
と思ったが結局復帰後のABチーム練習では上げてしまう菅原だった。