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#R15
(株)姫神V
43
#四角関係
柿の木七味
83
aioue
445
第2話 『距離、近くないですか?』
転校生が来て、二日目。
朝の教室は、昨日よりも騒がしかった。
理由はもちろん――
翠「おはよ〜」
女子A「雨宮くん、おはよ!」
女子B「ねえねえ、昨日聞きそびれたんだけど!」
女子C「どこから来たの?」
女子D「彼女いる?」
女子E「好きなタイプは?」
翠「え、ちょっと待って」
教室に入った瞬間。
雨宮翠、完全包囲。
昨日転校してきたばかりとは思えないほどの人気っぷりだった。
翠「いや、順番にして?」
女子A「じゃあ私から!」
翠「いや、そういう意味じゃなくて〜」
女子B「雨宮くん、今日放課後――」
翠「放課後今日予定あるんだよね」
女子C「連絡先――」
翠「それもあとでね?」
にこにこと笑いながら返しているものの、さすがに人が多すぎる。
そして数秒後。
翠「…………」
翠「…困るな〜俺席つけないじゃん……」
女子D「なにそれ可愛い〜!」
翠「埋もれる……」
女子A「私が助けてあげるからー!!」
雨宮くんはどうにか人の波を抜けようとする。
けれど、なかなか抜け出せない。
その様子を、私は少し離れたところから眺めていた。
友達「……すごいね」
紬「うん」
友達「昨日の今日だよ?」
紬「人気者って大変そうだね〜」
友達「紬、助けてあげたら?笑」
紬「無理」
友達「即答じゃん」
紬「だって私まで囲まれたくないもん」
友達「確かに!」
紬「でしょ?」
友達と笑っていると――
ふと、視線を感じた。
見ると。
人の波をようやく抜けた雨宮くんが、こっちを見ている。
翠「…………」
目が合った。
すると、雨宮くんが少し笑う。
そして――
こっちへ歩いてきた。
友達「……あれ?」
紬「ん?」
友達「雨宮くん、こっち来てない?」
紬「まぁ席近いし、なんなら隣同士……」
振り返る。
……本当に来てる。
私は少し首を傾げた。
昨日の席決めで、雨宮くんの席は私の隣。
だから、こっちに来ること自体はおかしくない。
ただ。
さっきまであんなに人に囲まれていたのに、わざわざこっちに来る理由は分からない。
私は気にせず、友達との会話に戻った。
友達「それで昨日さ――」
紬「うんうん」
すると。
すぐ隣から声がした。
翠「……水野さん」
紬「…………」
聞こえている。
でも、なんとなく反応するのが悔しくて、そのまま友達の話を聞いていた。
翠「水野さん?」
紬「…………」
少し間が空く。
そして――
翠「朝から無視は、俺悲しいよ?」
紬「…………な、なんです───」」
思わず振り向いた。
紬「か───」
その瞬間。
雨宮くんの顔が、すぐ目の前にあった。
紬「っ!?」
近い。
近すぎる。
思わず身体を引く。
翠「やっと見てくれた」
紬「ちょ、ちょっと……近い!」
翠「だって無視するから」
紬「無視してない!」
翠「してたから俺がこうやって来てあげたんだよ〜?」
紬「無視したぐらいでこっちに来ます!??」
翠「じゃあ、もう一回」
紬「何を?」
翠「ちゃんと挨拶」
雨宮くんが少し笑う。
翠「おはよ、水野さん」
紬「……おはようございます」
翠「よろしい笑」
満足そうに笑った。
……何なの、この人。
(朝から距離感どうなってるの!?)
(というか、今の何!?)
(『朝から無視は、俺悲しいよ?』って……!)
心臓がまだうるさい。
(いやいやいや!!)
(騙されちゃダメだ、私!!)
(これは絶対、この人の作戦!!)
(自分がどういう顔して、どういうことを言えば女の子が動揺するのか、絶対分かってる!!)
私は心の中で拳を握る。
(ふん……)
(その手には引っかかりませんからね!!)
翠「……ねえ」
紬「……何?」
翠「昨日も思ったけどさ」
紬「うん?」
翠「まだ敬語なんだね」
紬「あ……」
そうだった。
昨日、敬語をやめてほしいと言われていた。
翠「俺ら同い年なんだよ?」
翠「だから、敬語やめて?」
翠「なんか距離置かれてる感じがして、ちょっとやなんだけど」
紬「…………」
(また距離詰めてくる……!)
別に、距離を置いているつもりはない。
ただ、昨日会ったばかりの男の子に、いきなりタメ口で話すのが落ち着かないだけ。
紬「……わ、分かった」
翠「ほんと?」
紬「うん」
翠「じゃあ、もう敬語なしだから」
紬「……分かった」
翠「それも敬語」
紬「……分かったってば」
翠「ならよし笑」
……何なの、この人。
私は小さくため息をついた。
翠「じゃあ改めて――」
紬「?」
翠「おはよう、紬ちゃん」
紬「…………」
…………。
(ん!?!?!?!?)
(今、なんと!?)
(下の名前で軽々と呼びましたね……!?)
(しかも『ちゃん』!?)
私はゆっくりと雨宮くんを見る。
本人は、何事もなかったかのように笑っている。
(この男……!!)
(絶対わざとでしょう!?)
私は立ち上がった。
そして――
がしっ。
雨宮くんの肩を掴む。
翠「……うおっどうしたの」
紬「ちょっと……??」
翠「??」
紬「貴方、今……」
翠「うん?」
紬「女の子の名前を、軽々しく呼びましたね?」
翠「……別によくな───」
紬「呼びました・ね?」
翠「…………はい」
さっきまで余裕たっぷりだった雨宮くんが、珍しく押されている。
私はそのまま詰め寄った。
紬「いいですか!?」
翠「はい……」
紬「女性っていう生き物はですね!」
翠「うん」
紬「同年代の異性から急に下の名前で呼ばれたりしたら、意識し始めるんですよ!?」
翠「……ん?そうゆうもんなの?やっぱこの年頃だよね〜カップルとか増えんの」
紬「わかっているのに貴方は、何の躊躇もなく軽々しく呼びましたね!?」
紬「それってつまり――」
私はさらに顔を近づける。
紬「口説きに行ってます???」
翠「…………」
雨宮くんが黙る。
そして、ふっと笑った。
翠「口説くつもりなら、もっと上手くやるけど?」
紬「…………」
言葉が止まった。
翠「今のはただ呼びたかっただけだよ笑」
紬「……」
翠「それに」
雨宮くんが、私の手がまだ肩に置かれていることに気づく。
翠「そんな必死に詰めてくる方が、俺としては気になるけど」
紬「……っ」
慌てて手を離す。
翠「紬ちゃんって、意外とわかりやすいタイプなんだ?笑」
紬「分かりやすくない!!」
翠「こんな焦っちゃってね笑」
紬「」
翠「じゃあ、もう一回呼んでみよっか」
紬「馬鹿ですか!?そうゆうのは1回でいいんですよ!!何回もするなんてたちが悪い!!」
翠「そんな事言っても俺やめないよ?紬ちゃん♡」
紬「……!」
(こ、この人……!!)
(やっぱり絶対、分かってやってる!!)
私は顔を逸らす。
すると雨宮くんが、少しだけ声を落とした。
翠「でもさ」
翠「俺、自分がどう見えるかくらい分かってる」
紬「……」
翠「顔がいいって言われるのも知ってるし」
紬「自分で言うんだ……(ナルシスト野郎だ……)」
翠「だって俺イケメンだし?」
紬「……すごい自信だし……(どこから出てるの?この人)」
翠「それに、こういうこと言ったら女の子が困るのも知ってる」
紬「分かっててやってるんですね!??」
悪びれもしない。
翠「だから、紬ちゃんが今どんな顔してるかも分かるよ」
紬「……!」
私は慌てて顔を隠す。
翠「かわいい顔してる」
紬「なっ……!貴方はまたそうやって……」
翠「俺の事は俺が1番知ってるから、それをよく考えてから発言してるよ?今の俺、すんごいイケてるのも知ってる」
紬「は、はぁ!??それってやっぱ口説きに行ってるじゃない!!」
翠「でも」
少しだけ間を置いて。
翠「紬ちゃんって呼びたかったのは、本当の事♡」
紬「…………」
今度こそ、何も言えなかった。
……ずるい。
こういう時だけ、変に真っ直ぐなのだ。
自分の武器を理解していて。
人をからかうことにも慣れていて。
なのに、たまにこうやって本音だけを真っ直ぐ投げてくる。
(……本当に、めんどいやつ…!!)
私はそう思いながら。
赤くなった顔を隠すように、そっと前を向いた。
コメント
1件
第2話お疲れ様です! 雨宮くん、距離感バグってるのに憎めない感じがズルいですね…笑 「紬ちゃん」って自然に呼んでくるあたり、絶対計算してるのに「呼びたかっただけ」って真顔で言うから余計に心臓に悪い。 でも紬ちゃんの「その手には引っかかりませんからね!!」って内心で息巻いてるのに顔が真っ赤になってるのが可愛くて、読んでてこっちまで照れました。 次も楽しみにしてます🔥