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「まぁテリアのことはどーでもイイとして」
「どーでもいいのよ?」
王子が2人やってきた、地形が消し飛んだ、神が捨てられた、王女が種を生んだ。そんな事はささいな事と言いたげなのは、ピアーニャである。
その視線は熱く、本来苦手とするアリエッタにのみ向いている。
アリエッタはというと、テンションの高いメレイズに話しかけられているので頑張って会話しようとしている。
「……? アリエッタのスカートの中ばかり見てどうしたのよ?」
「みてないっ! みえてるけどそれじゃない!」
ピアーニャの視点だと、背が伸びてミニスカートになってしまったアリエッタの見てはいけない所がよく見える。しかしそれには興味がないピアーニャが気にしているのは、アリエッタが成長したという部分だった。
「おいパフィ! アリエッタはなにをしたんだ!」
「知らないのよ」
「しらないですむモンダイじゃないだろ! おおきくなったんだぞ! あのシンチョウみてみろよ!」
「……ぶふっ」
「ジックリみてハナヂだすなっ! なにかんがえたんだ!」
「服の中身……」
「オッサンかっ!!」
無駄に想像力を発揮したパフィは話にならないと、ピアーニャはミューゼの方へと駆け寄った。
「おいミューゼオ──」
「名前何がいいと思う?」
「名前まで付けるんですか……」
「当然でしょう。貴女とわたくしの子なのよ。ちゃんと育ててあげないと」
「ひぃ……」
ミューゼは後悔していた。まさか種が出来るとは思わなかったのだ。自業自得の既成事実である。
「わたくし達の子はネマーチェオン人になるのかしら?」
「さ、さぁ……」
「花が咲いていたなら、わたくしも植物の仲間入りしても問題ない筈」
「何言ってるんですか?」
「リリお姉様のマンドレイクちゃんの所に行って修行するのもアりね」
「ごめんなさいもう花生やしたりしないので戻ってきてください」
「………………」
ピアーニャはそっとその場を離れた。恐ろしさも感じたが、それ以前に人には理解できそうにない会話展開に諦めたのだ。
周囲を見たが、あとはニオが倒れているだけ。残されたのは、アリエッタに直接話を聞くという、あらゆる意味で恐ろしく難易度が高い選択肢のみ。
しかしそれでもやるしかないと、意を決して話しかける事にした。
「アリエッタ……」
「ピアーニャ! だいじょうぶ?」
「いや、うん、だいじょうぶだから、まて、だくなっ」
「わぁ、よかったですね、おししょーさま」
「よくないが?」
話しかけたら、当たり前のように抱き上げられた。これまでよりも簡単に持ち上げられて、安定感もあり、何より柔らかいクッションもあるせいで、ピアーニャは安心して身を任せ……そうになって我に返った。
「じゃなくて、アリエッタ!」
「ほえ?」
慌てて大きな声で名前を呼ぶと、いつも通りの幼い返事が返ってくる。
「どうやって、おおきくなったんだ?」
「お…なかすいた? はい」
「そうじゃない、オカシをだすな、ちがうから。もぐ」
「あ、いいなー。おししょーさまずるーい」
お姉ちゃんぶって世話しようとするアリエッタに呑まれつつ、成長した秘密を聞き出そうとするピアーニャ。だが、分かっていたが話があまり通じない。
それでもピアーニャにとっては重要な事なので根気良く聞き出しておきたいのだが……
「ピアーニャ、かわいい~」(いつもよりちっちゃく見える~やっぱ妹っていいなぁ~)
「まっ……だから、ハナシきけ……」
「わぁ、すごい、お姉ちゃんだぁ」
何故かメレイズはアリエッタの『背伸びした姉』的な雰囲気に圧倒されて、うっとりしている。何かが羨ましいのだろうか。
後ろではパフィもその雰囲気にやられたのか、何故か膝をついて口を押さえている。
「アリエッタぁ!」
「ひゃ! にゃ、にゃぁに?」
手を伸ばし、両頬を掴みながら大きい声を出して、ようやくアリエッタが止まった。
まともに話をするチャンスはここしかないと、アリエッタにもわかる言葉を必死に選び、話しかけるピアーニャ。
「アリエッタ、オオキイ、ナンデ?」
発音がおかしくなっているが、普段普通に会話出来ている者にとって、単語だけで会話するのは難しいのだ。それがわからないメレイズは首を傾げている。
アリエッタも首を傾げているが、こちらは言葉の意味を考えているだけである。
「ん~」(『なんで』……『なに』と一緒っぽいかな。ということは『おおきい』理由聞かれてるのか?)
ギリギリ通じた。今度はアリエッタが言葉を選ぶ番である。
ピアーニャを降ろし、ポーチからカードを1枚取り出した。
「これ、する。おおきい、なる」
「これ?」
見せられたカードには、赤いキノコが描かれていた。食べていいのか不安になる派手な色である。
(キノコ食べたら大きくなるのは当たり前だから簡単に再現出来たんだよねー。ゲームだけど)
なんと子供の頃から遊んでいたゲームの再現だった。リアルの常識ではないので、服の大きさまで変える程の力は含まれなかったようだが、大きくなって強くなるという所はしっかり実現してしまっていた。その結果が先ほどの竜巻である。
「なんでキノコ……」
その疑問は当然だが、アリエッタもその答えは持っていない。
「えーいいなぁ! わたしもお姉ちゃんになりたーい!」
「ん、メレイズ、おねえちゃん」
ノリでメレイズの意思を理解したのか、アリエッタはカードを持っていない方の手でメレイズの手を持ち、カードを発動した。
「おぉ、おおお~!」
メレイズが大きくなった。胸のサイズはアリエッタのように変化しなかったが、アリエッタと同じく13歳程度に見える。服のサイズは変わらないので、かなりキツそうだが、キノコのカードの効果は他人にも使えるようだ。
そのことに気が付いたピアーニャは、真剣な顔つきになった。
「うぅ、きつい。でもすごいねアリエッタちゃん!」
「だいじょうぶ?」
「大丈夫! さぁおししょーさま! 抱っこしてあげる!」
「いらん! くるなぁっ!」
哀れにも、2人の大きくなったお姉ちゃんに挟まれ、身動きがとれなくなってしまった。
少し離れた所では、パフィが地に伏してピクピク痙攣しているが、その姿はミューゼにしか気づかれていない。
なんとか抵抗し離れようとしていたピアーニャだったが、やがて諦め、足をプラプラしながら表情を無にして話しかける事にした。
「わちにも、わちにも、つかってほしいのだ……っ!」
表情は抜け落ちているが、声に感情がこもっている。心の底からの言葉であった。
「ピアーニャかわいい~」
「たのむからっ、つかってくれっ」
残念ながら、今回は通じていない。それでも成長したいピアーニャは、必死に無表情で訴え続けるしかなかった。
そんな現場に、王子達に説明していたイディアゼッターが帰ってきた。
大きな種を愛おしそうに撫で続けるネフテリア、倒れ伏したパフィを遠目に眺めるミューゼ、急に成長した女の子2人に挟まれて無表情で声を発するピアーニャを見て、イディアゼッターは固まってしまっていた。
「ど、どうしましょう……」
どこを見ても声をかけづらい程のカオス空間である。
ピシッガンガンガン!
途方に暮れるイディアゼッターの横の空間に亀裂が入り、すぐに鋭い音が連続して響き、亀裂が大きくなっていった。
「ああもう……」
ゴッ
頭を抱えるイディアゼッターの横で空間が破壊され、穴から細い腕が生えてきた。
「やっと開いた! もうイディアゼッターったら!」
「空間を物理で破壊しないでいただきたい……あと手で喋らないでください」
手をワキワキしながらイディアゼッターに語り掛けるグレッデュセント。実は先ほど空間の穴に放り込まれた時に、別の場所に追いやられたのではなく、専用の空間に隔離されただけだった。
「空間を腕力でどうにか出来るのは貴女くらいのものですよ、まったく」
「そんなことより、どうなったの? なんかあの子大きくなってない?」
手を顔のようにワキワキパクパクさせて器用にしゃべっているのが気になるが、一旦スルーして会話するイディアゼッター。
「どうやらそのようです。メレイズさんも大きくなっていますね」
「……なんで?」
「あのカードで大きくなるようですけど、よくわかりません」
「あの子はどういう力を持っているの?」
「色を使う事は判明していますが、それでどうして竜巻出したり成長したりするのかが謎なのですよ」
「謎すぎる……」
神々は各々異なる力を持っており、アリエッタの力も理解出来なくはないのだが、それにしても多種多様で全く予想がつかない事に困っているイディアゼッター。
「私も見てたけど、あの子の力に法則が見つからないというか……」
「お嬢やミューゼさんを描いて、その能力を使うという事もやってのけてます。色ではなく絵の能力なのではと思った事もありますが……」
「絵って強いの?」
「それも観察中です」
この次元では絵は特にだが、芸術自体があまり発展していない。そのせいもあって、2人ともアリエッタの能力をうまく理解できない様子。
「なにしろあの子の力は絵だけじゃありませんから……」
「もうやだあの子……」
結局うなだれるグレッデュセントの手とイディアゼッター。
どんな力も『アリエッタの髪で作った筆で色を着けたら何かが起こる』。これまでで理解出来たのは残念ながらここだけである。今のままでは行動の予測が全く出来ないので、早くまともに会話出来るようになってほしいと切に願うしかないのだった。
「お嬢、成長したければ、アリエッタさんと沢山お話して仲良くなりましょう」
「しくしくしく……」
今からアリエッタと仲良くするしかないと宣言され、無表情でぶら下がったまま涙を流すピアーニャであった。
ピアーニャは別にアリエッタを嫌っているわけではないし、ニオのようにトラウマで本能的に恐れているわけもない。年下扱いが納得いかず、訂正も出来ず、殴るわけにもいかないので、かなりの苦手意識を持っているだけである。ちゃんと説得できるまでは安寧が訪れる事はないだろう。