テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
今日はお屋敷に来てから初めての雨の日だ。かなり荒れているため、大人しく室内で過ごすのが良いだろう。
折角だからお屋敷の中を散歩がてら見て回ることにした。
とりあえず上から見ていこうかと3階に上がってみた。
消毒液っぽいアルコールの匂いや何かの薬品のような匂いが混ざっていて、独特な雰囲気がある階だと思った。
(3階には・・・治療室があるって言ってたっけ。保健室みたいな感じかな?)
ベリアンが簡単に説明してくれたことを思い出しながら階段すぐの廊下を右に曲がってみた。
突き当りの右手に治療室、左手に会議室と書いてあるドアが見えた。
階段の上にある部屋は練習室と書いてあり、覗いてみるとピアノとその他いろいろな楽器が置いてあり、壁の1面が鏡張りになっていた。
ダンスや楽器の練習のために使われているようだ。
反対側に行ってみると、団欒室という大きな部屋と何も書いていない小さな部屋が2つあった。
そのまま突き当りまで行くとドレスルームがあり、その横の窓から外に出られるようになっているようだった。
とりあえず団欒室が気になったので覗いてみると、ビリヤード台がどんと置かれていて、その他にも色々なゲームのための道具が置いてあった。
机の上にトランプが出しっぱなしになっていたので1人で七並べをしてみた。
(といってもちゃんとしたルール知らないんだよね・・・
とりあえず1から順に並べばいいや)
カードの模様と数字をキレイに並べて、1つの束にまとめた。
(・・・なにしてんだろ・・・)
1人でこういうところにいるとテンションがおかしくなる気がするな、と思い団欒室を出た。
(後は執事さんの部屋か・・・急に行ったら迷惑かな・・・)
とりあえずは部屋の位置だけは確認できたから2階に行こうかな、と階段に向かっていると何も書いていなかった小部屋のドアが開き、鮮やかな緑の髪でメガネを掛けている人が出てきた。
片手に書類の束を抱えて、足音もなくこちらに向かってくる。
(うわぁ二次元でしか見たこと無い色・・・)
鮮やかな髪色に見とれていると、その人は私に気付いて駆け寄ってきた。
「主様、ですよね?
お初にお目にかかります。私はナック・シュタインと申します」
『あ、はじめまして・・・主になりました◯◯です』
丁寧にお辞儀をされ、私もペコリと頭を下げた。
「ご丁寧にありがとうございます、主様。
・・・ところで、少し顔色がよろしくないようにお見受けいたしますが・・・」
『え・・・あぁ、雨のせいでちょっと頭痛が・・・』
嘘ではないが直接的な原因は避けて答えた。本当は睡眠不足とか栄養不足とかが原因だと思うが、初対面の人にそんなに詳しく話すのは抵抗がある。
「そうでしたか・・・そうです!ルカスさんに頭痛薬をいただいてはどうでしょう」
『ルカスさん・・・?』
ナックさんは初めて聞く名前を出してきた。
「おや、まだ挨拶をしていないようですね・・・
う〜ん、確かに研究で籠もりきりですから、仕方ありませんか・・・」
ナックさんは少し考えて書類を片手で抱え直した。
私に空いた手を差し出し、キザな笑みを浮かべた。
「お手をどうぞ、主様。
治療室・・・は今は散らかり放題でしょうから、私達の3階の執事の部屋にご案内いたします」
『え?・・・あ、どうも・・・?』
ナックさんの手に「お手」でもするように手を乗せると、そっと握られて飛び上がりそうになった。
男の人と手を繋ぐのなんて小学生のときの「はないちもんめ」が最後ではないか?
固まってしまった私の手を引いて、ナックさんは執事の部屋に案内してくれた。
「・・・私はルカスさんを呼んでまいりますので、少しお待ち下さいね」
ナックさんは私にお茶を出すと、ルカスさんを呼びに行ってしまった。
(わ〜・・・すごい高そうなカップだなぁ・・・)
色々とキャパオーバーになってしまった私は綺麗なティーカップを見て、現実逃避を始めた。
そうしていると、部屋のドアがバン、と開いて誰かが入ってきた。
私はちょっと飛び上がってドアの方を見ると、黒髪に紫のインナーカラーを入れた癖毛の男の子が立っていた。
「あれ?誰?アンタ・・・」
『あ、えと、新しく主になった〇〇といいます・・・』
「えっ・・・あ〜、なんか新しく来たって言ってたっけ・・・
ボクはラムリ・ベネットって言います〜」
『ど、どうも・・・』
「・・・ねえ、それ・・・誰が用意したんですか?ルカス様?それともナック?」
『あ、と、ナックさんです・・・』
「ナックか・・・」
ラムリ君はナックさんのことが苦手なのか、ナックさんがお茶を淹れてくれたと知ると顔をしかめてとっとと部屋から出ようとUターンした。
瞬間、ノックの音がしてナックさんともう1人ー多分ルカスさん?が部屋に入ってきた。
「うげ、ナック・・・」
「ラムリ!ここにいたんですね!
掃除はどうしたんですか?全然進んでいませんでしたが・・・」
ナックさんはラムリくんを叱り始め、ラムリ君は嫌そうにしている。
「あ〜もう、うるさいなぁ・・・
主様の前でそんなこと言って良いの〜?」
ラムリ君は私の後ろに回り、べーっと舌を出してナックさんを挑発した。
「・・・ラムリ君、主様を言い争いに巻き込んだらダメだよ?」
2人の言い合いを止めたのはルカスさんだった。
「はぁい・・・ルカス様」
「すみません、ルカスさん・・・」
2人はルカスさんの言うことならちゃんと聞くようで、すぐに大人しくなった。
「主様、申し訳ありません・・・」
『あ、いえ、そんな・・・』
ルカスさんが私に深々と頭を下げたので、どうしたら良いのか分からず黙り込んでしまう。
「えぇと、そうだ、自己紹介をしなくてはいけませんね。
私はルカス・トンプシーと申します。
医療係と交渉係をしています。
どうぞよろしくお願いいたしますね」
『よ、よろしくお願いします・・・
あ、主になりました〇〇です・・・』
「はい、〇〇様・・・素敵なお名前ですね♪
・・・それで、頭痛があると聞きましたが、今の痛みはどの程度でしょうか?」
『え?あ、頭痛は・・・今はちょっと頭を動かしたときに痛むくらいで・・・じっとしてたら大丈夫、です・・・』
「ふむ・・・そうですか・・・
辛いようでしたら鎮痛剤をお渡ししますが、いかがされますか?」
『あ、いえ・・・薬を飲むほどでは、ない、と、思います・・・』
「かしこまりました。
ですが、悪化しそうでしたらすぐに言ってくださいね?」
『は、はい・・・』
「あ、そうです・・・
主様のご体調についてあらかじめ確認しておきたいのですが、宜しいでしょうか?」
『あ、はい・・・』
ルカスさんは私の向かいの椅子に座り、紙にメモを取りながら話を始めた。
「では、私の質問に答えて頂く形で進めさせていただきますね」
『はい・・・』
「えっと、まずはご年齢と身長と体重を教えていただけますか?」
『あ、はい・・・年は2✕歳で、身長は・・・で、体重は・・・くらいです』
「ありがとうございます。では、持病などはございますか?」
『いえ・・・特には・・・?』
「それでは、今服用されている薬などは?」
『あ、部屋にお薬手帳があるので取ってきます・・・』
「ああ、そういった物があるのですね・・・助かります」
私はルカスさんに待ってもらって、部屋にお薬手帳を取りに行った。
お気に入りのキャラクターもののカバーを付けた手帳を手に、3階に戻る。
(・・・きつ・・・)
若干頭痛のある状態で階段を往復するのは案外体力を使ってしまった。
身体の衰えを感じながらドアを開ける。
『おまたせしました・・・』
「ありがとうございます・・・これは・・・ふむ・・・」
ルカスさんはパラパラと手帳を読んでいき、私が処方されたことのある薬の内容を確認していく。
「これは、ずっと飲んでいるお薬でしょうか?」
『あ、そうです。今も飲んでます・・・』
普段飲んでいる薬を確認され、手帳を返してもらった。
「ありがとうございました」
『いえ・・・』
丁寧に差し出された手帳を受け取り、抗うつ剤については何も言われなかったことにホッとした。
その日はもう部屋で大人しくしておくことにして、3階の探検は終わったのだった。
MAKO
コメント
1件
読み終えました〜!雨の日に屋敷の3階を探検するエピソード、なんだか静かな緊張感があって好きです。ナックさんのキザなエスコートに固まる主人公が可愛いのと、ルカスさんが自然に仲裁に入るところがほのぼのしました。特に「はないちもんめ」の例えに思わず微笑みました。それから、ルカスさんがお薬手帳を見ても抗うつ剤に触れなかった描写に、主人公のホッとした気持ちがよく伝わってきて、じんわりしました。それぞれの執事さんの個性が立っていて、これからどう絡んでいくのか楽しみです🌷