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9
研究所の最深部。
白い部屋。
音がしない。
静かすぎるほど静かだった。
涼架は拘束椅子に座らされていた。
手首。
足首。
胸元。
すべて固定されている。
目の前には大きなガラス。
その向こうで研究員達が忙しなく動いていた。
誰も目を合わせない。
誰も話しかけない。
昔と同じだ。
あの頃と。
違うのは。
今度は自分が実験される側だということ。
「……最悪だなぁ」
掠れた声で呟く。
すると、
スピーカーから榊の声が響いた。
「そんな顔しないでくれ」
涼架は睨みつける。
ガラスの向こう。
榊は穏やかに笑っていた。
「君は歴史を変えるんだ」
「興味ない」
「そうかな」
榊はモニターを操作する。
映し出されたのはレイのデータ。
零号体。
適合率。
遺伝子構造。
全て。
「君ならこの数値を見るだけで私が言いたいことがわかるだろ?」
「この力を正しく使えば、人類は次の段階へ進める」
「だからって人を壊していい理由にはならない」
涼架が強く言う。
榊は少しだけ残念そうな顔をした。
「やっぱり君は優しいな」
その言葉に。
涼架は本気で嫌そうな顔をした。
⸻
一方。
研究所から数十キロ離れた山道。
モトキ達は走っていた。
夜通し移動。
休憩もほとんどない。
それでも誰も弱音を吐かなかった。
涼架を助ける。
そのためだけに動いている。
ヒロトが地図を確認する。
「あと半日くらい」
「遠いね」
モトキが呟く。
だが足は止まらない。
レイは少し前を歩いていた。
珍しく静かだった。
考えている。
ずっと。
涼架のことを。
『……りょうか』
名前を呟く。
すると。
胸の奥が少し痛くなる。
ヒロトが横を歩きながら聞いた。
「どうした?」
レイは少し考えてから答える。
『わからない』
「何が?」
『いないと』
言葉を探す。
うまく出てこない。
『……さみしい』
ヒロトが目を丸くする。
レイ自身も驚いていた。
初めて覚えた感情だった。
⸻
この部屋に来てから数時間が経とうとしていた。
涼架は異変に気づき始めていた。
耳がいい。
異常なほど。
遠くの音まで聞こえる。
研究員の会話。
機械の駆動音。
廊下の足音。
全部。
聞こえる。
「……もう始まってるのか」
涼架が呟く。
視界も変わっていた。
暗い場所が見える。
匂いも普段の数倍強く感じる。
たぶん身体能力も上がっているだろう。
まだ初期段階なのに。
榊がガラス越しに満足そうに頷く。
「順調だ」
涼架は黙る。
だが心の奥では焦っていた。
レイ以上の適合率。
その意味を理解していたから。
このまま進めば。
もう戻れなくなる。
その時、 研究員が駆け込んでくる。
「榊先生!」
「どうした」
「被験体の数値が予測を超えています!」
榊の目が細まる。
モニターを見る。
そして。
笑った。
本当に嬉しそうに。
「なるほど」
涼架の背筋が寒くなる。
榊は静かに言った。
「君は特別だ」
「……何をした」
「まだ何も」
榊はモニターを見たまま答える。
「ただ一つ分かった」
その目が狂気に染まる。
「君はレイの後継じゃない」
涼架の心臓が跳ねる。
「レイを超える存在になれる」
その言葉が。
異様に重く響いた。
同じ頃。
研究所の地下。
誰もいないはずの保管区画で。
一つのモニターが点灯した。
画面には。
《進化率 41%》
という表示。
そして。
その下に記された名前。
《被験体 F-01》
誰も見ていない。
誰も気づいていない。
だが。
研究所にはまだ。
榊が隠している秘密が残っていた。
コメント
1件
うわぁ…第15話、めっちゃ引き込まれたよ😭✨ 涼架が実験されてるシーン、静けさが逆に怖くてゾクゾクした…「最悪だなぁ」って掠れた声が脳内に響いた。レイが「さみしい」って初めての感情に気づくところ、胸がギュッてなったよ…!💔 そして榊先生の「レイを超える存在」発言、ヤバすぎる。F-01って誰…?続きが気になりすぎて今夜眠れないかも!!🌸🔥