麻酔から目覚めた直後に病室を抜け出すという暴挙を行ったウーヴェを病室に連れて行ったリオンは、上体を起こせるように角度が付けられたベッドにそっと寝かせて額にキスをした後、良い子だから大人しくしてくれと囁くが、その言葉を聞いたウーヴェの顔色が更に悪くなったことに気付いて額と額を重ねて悪戯っぽく目を細める。
「いや、ベッドを抜け出したから悪い陛下だな。お願いですから大人しく治療を受けて下さいっ。その間にボスと話をしてきます!」
「……」
「ダメ、オーヴェ?」
視線をさ迷わせて沈黙するウーヴェの目を捉えて悪戯っぽく問いかけると、長く感じる時間の後、先に話をしてきてくれと小さな掠れる声が了解を与えてくれる。
「ダンケ、オーヴェ」
その許しを得てお礼にウーヴェの頬にキスを残し、代わりにレントゲンの準備や途中で引きちぎられた点滴を新しいものに変える看護師の邪魔をしないように気をつけつつ部屋を出たリオンは、少しヒンケルと話をしてくるので後は頼むとカスパルやレオポルドに伝え、頷くヒンケルと一緒に待合室へと向かう。
角を曲がって待合室に入った途端背の低いヒンケルがリオンの胸ぐらを掴んで怒気も露わに声を荒げるが、待って下さいボスとリオンが苦笑する。
「何が待って下さい、だ! あのメールは何のつもりだ!!」
ドクと一緒に逝くことに決めたなどとお前は周囲の心配を何だと思っていると親以上にリオンを気遣ってくれている事を示す様に怒鳴るヒンケルにただ眉尻を下げたリオンは、周囲の事を考えていないわけではない、だがあの時ウーヴェに告げた様にウーヴェのいない世界など滅んでも良いし無くなっても良いと思えたのだと頭に手を当てて情けないながらも真摯な声で告げると、ヒンケルがリオンの本音を読み取って盛大な溜息を吐く。
「さっきジルを見送ったばかりだ。お前やドクをまた見送るのかと思うと……!」
湿った声で怒鳴りつつ背を向けるヒンケルに限界まで目を瞠ったリオンは、本当に心配を掛けて悪いと頭を下げるが、それと同じぐらいウーヴェの事が心配なのだと告げ、どうか分かってくれとも伝えるとヒンケルが振り返ってもう一度溜息をつく。
「……興奮した」
「ありがとうございます、ボス。俺の事をそこまで考えてくれる人がマザー達以外にもいるってのは本当に嬉しいです」
最敬礼をするように頭を下げたリオンにヒンケルがこの後のことだと気分を切り替えるように告げると、上体を戻して二人ベンチに向かい合って腰を下ろす。
「事件の事情聴取が出来るのはオーヴェだけですね」
「ああ。ジルもルクレツィオも部下の二人も死んだ。ドクをナンパしていたという男もあの様子じゃ何も話せないだろう」
先程、別の薬物治療の専門病院に運ばれた男の様子がダニエラから報告されたが、芳しくないことどころか急激な過剰投与の結果、脳味噌だけではなく心臓や肝臓にも随分と負担が掛かっているようで、注意が必要だと担当医が話していたことも教えられて溜息が出てしまう。
「……マスコミはオーヴェの兄貴が抑えると言ってました」
「ああ、どうやらそのようだな。おかげで警察発表だけで済んでいるのは嬉しいことだ」
余計な詮索をされない事で捜査に集中できたことは本当に感謝すると微苦笑し、今後この事件について大々的にマスコミが取り上げることはないとヒンケルが頷き、リオンも一安心だと苦笑する。
心身を殺しかねない暴行を短期間とはいえ繰り返し受けていたウーヴェの傷は治療にかなりの日数を要するだろうし、きっと総てを乗り越えて大丈夫と笑える日など来ることは無いと腹を括っているが、そんな時にマスコミという外部のある種圧力が掛かれば、ウーヴェはいとも容易く己の中に閉じこもってしまうだろう。
それだけは何があっても避けたいリオンにとって、マスコミの影響をある程度排除できることは本当に嬉しいことだった。
「報告はどうしますか」
「……そうだな、コニーに任せておけば大丈夫だろう」
「あ、そうだった」
「何だ」
ウーヴェを地下室から救出した際に同行してくれたコニーがウーヴェをペット扱いしていた事を示す犬の尻尾を切ってくれたが、その時心の底からウーヴェの身を案じて怒ってくれていた、それに対してはっきりと礼を言っていないと思い出すと後から言えば良いだろうと呆れた様に返される。
「それもそうですねー」
暢気に笑って頭に手を宛がったリオンだったが、表情を切り替えると同時にその頭を下げてヒンケルを驚かせる。
「リオン?」
「ボス、すみません。俺の休職ですがまだもう少しそのままにしていてもらって良いですか?」
ウーヴェの救出に呼び出してくれたのはありがたいがあんな様子のウーヴェを一人に出来ない、いや、させたくないとヒンケルの前では本当に珍しく素直に本心を伝えたリオンにヒンケルが腕を組んで考え込むが、前にも言ったが毎朝どこにいるのかの報告をするのなら休職扱いを続けておく、ドクの容態が落ち着いたら出勤してこいと頷くとリオンが無言で深く頭を下げる。
「お前もだが、ドクにも早く仕事に復帰してもらわないとな」
今回の事件はあと少しでBKAの手に渡って最早自分たちの手の届く事件ではなくなるが、新たな事件は日々起こり、犯人像のヒントを求めてドクに協力を仰がなければならないのだと笑うヒンケルにリオンも同じ顔で頷く。
「そーですね。オーヴェには早く仕事に復帰してもらいたいのでリハビリ頑張ってもらいます」
そうしてリハビリを終えて日常生活に戻れるようになればあのクリニックでまたいつものように診察をし、時間がある時にはお茶菓子で出迎えてもらいたいと心からの願望を口にする。
「そうだな。……よし、俺は一度署に戻る。モーリッツも心配しているだろうしな」
「あ、ブライデマンにもよろしく伝えて下さい」
「ああ」
お前がドクと一緒に心中しそうになった事も皆に伝えておいてやろうと笑われ、それは言わなくても良い、ボスのくそったれとリオンがそっぽを向く。
「ドクや会長によろしく伝えておいてくれ」
「Ja.……本当に今日はありがとうございました、ボス」
リオンの何度目かの最敬礼に背中を向けたヒンケルだったが、肩の上に手がひらひらしているのが見えて無言でもう一度頭を下げたリオンは、待合室を出てウーヴェの病室に戻る。
さすがに今度は病室を抜け出していないだろうと思いつつ若干の不安を抱きながらドアを開けたリオンは、カスパルや看護師の視線-しかも何故か怒りが籠もっているように思えた-と、バルツァー一家の懇願するような視線に気付いて何事だと目を瞬かせる。
「ど、どうしたんだ、アニキ?」
恐ろしい目で睨んでくるカスパルに恐る恐る問いかけたリオンは、あれを見ろとベッドを顎で示されてその通りに顔を向け、思わず口をぽかんと開けてしまう。
「……なに、してんだ、オーヴェ?」
そこでリオンが目の当たりにしたのは汗とタバコの匂いの染みついたブルゾンを抱え込み、点滴もレントゲンも拒否すると言いたげに身体を丸めたウーヴェの姿で、さすがに呆気に取られたリオンが何をしてるんだと見れば分かる事を聞いてしまう。
リオンの声に肩越しに顔を振り向けたウーヴェだったが、その表情を見た瞬間、呆気に取られた事も一気に吹き飛ばしたリオンがカスパルや看護師の邪魔にならないようにベッドの反対側に回り込んで端に腰を下ろしウーヴェの頭を抱き寄せる。
「ごめんなー、オーヴェ。もう大丈夫だ。ここにいる」
「……」
リオンの言葉とキスにウーヴェの顔にようやく安堵の色が浮かびリオンがカスパルに目配せをした結果、レントゲンの撮影が出来ると踏んで待機していた技師に指示を与え、看護師には点滴の準備をしてくれと同じく目で指示をする。
「点滴をするから手を出してくれって」
看護師が戸惑いつつリオンを見ると何を求めているのかを察したリオンがウーヴェの耳元に口を寄せ、元気になるための点滴をしてもらおう、そして左足のレントゲンも一緒に撮ってもらおうとも告げて髪に口付けると、ウーヴェの手がブルゾンを手放してのろのろと伸ばされる。
まるで子ども返りしたようなその態度に、いつか見た光景だとカスパルや看護師達以外が内心ひやりとするが、そんな中でもあの時と同じようにリオンは平然とした顔でそんなウーヴェも受け入れるように抱きしめていた。
「さっきオーヴェが病室を抜け出すからまーた点滴をしたりレントゲンを撮ったりしなきゃならねぇだろ?」
「……」
「分かったらもう大人しくしてなさーい」
リオンの明るさを装った中にも真剣な色が滲んでいる言葉にウーヴェが一応は反省している事を伝えるようにターコイズ色の双眸でリオンを見上げるが、俺じゃなくてカールに言えと苦笑されて恐る恐る友人の顔を見たウーヴェは、病室を抜け出して悪かったと反省の言葉を告げる。
「……そのことについては後でたっぷりと説教をしてやる! 今は大人しくしていろ!」
いつも陽気で騒々しいカスパルの本気の怒声にウーヴェが申し訳なさそうな顔になるが、そんな顔をしてもダメだと腕を組まれてしまい、ごめんと素直に謝罪をする。
「まったく! あれだけ歩けるのだから車椅子は許可しないからな!」
カスパルの言葉にウーヴェの眉がきつく寄せられるがその眉間にキスをして大丈夫だと伝えたリオンは、車椅子はダメかアニキと問いかけ、歩けるのだからリハビリを頑張って杖で歩けと言い放たれて苦笑する。
「だってさ、オーヴェ。じゃあリハビリを頑張って杖で生活出来るようにしようなー」
病室を抜け出したウーヴェにカスパルが感情的に怒鳴っているように見えるが、実は車椅子での生活よりも杖を使って歩けるのならばその方が行動範囲も広いし出来る事も多くなる事をカスパルは熟知していて、友のその思いを感じ取っているウーヴェもそれについては特に不満を訴える事もなかった。
最悪車椅子の生活だろうがリハビリをしっかりとすれば杖を使って歩く事が出来る、己の足で歩けるのだと言外に告げるカスパルにリオンも気付いていて陽気にウーヴェを励ますように伝えると、杖という言葉の重みにウーヴェの目がきつく閉ざされる。
「リハビリについてはまた後日説明をするが、左足の機能はもう回復しない」
溜息をついて前髪を掻き上げたカスパルが意を決するように再度溜息をつくが、ウーヴェが目を開けたのを見計らって左足の現状を告げると、レントゲンの準備が出来たことを技師が伝え、カスパルが頷いて左足のレントゲンを撮らせるが、写真が出来上がり次第また持って来ると残してすぐに出ていく。
「……」
「アキレス腱の断裂が思っていた以上に重傷だった。かなり強く切られていたから、傷は治っても元には戻らないだろう。左足は……」
薬指を中心に粉砕骨折を起こしていて、何とかくっつけられそうな骨はくっつけておいたが神経もずたずたになっていることから思うように動かす事は不可能だとウーヴェの目を真っ直ぐに見つめたカスパルは、切断は免れたが余剰幻肢がある可能性を重苦しい顔で伝える。
「……う、ん」
「余剰幻肢って何だ?」
「幻の痛みの事だ。四肢を損壊した人たちが無くした部位の痛みを訴えることがある。ウーヴェは欠損ではないが神経を損傷しているからな」
専門用語などリオンに分かるはずなく素直に問いかけるとカスパルが面倒くさがらずにちゃんと答えてくれたため、そうかとだけリオンが返しウーヴェのこめかみにキスをするように身を屈める。
「神経が通らなくなったのに痛みだけ感じるなんてヒドイよな」
もしそれがリハビリや何かで痛みを抑えられるのならそうして欲しいとリオンがウーヴェを思ってカスパルを見ると、緩和処置は出来るかも知れないがウーヴェに対して効果があるかどうかは分からない、それはリハビリのドクターとも相談しようと頷き、リオンも納得したように頷く。
「背中の傷で一番深いものは縫合した。細かく縫ったからあまり目立たないと思うが、問題は腰の細かい傷だ」
傷と傷の間隔が狭すぎるために縫合が出来ずに傷口を覆って治療をするパッドで様子を見るしかないと溜息をつき、かなりの本数の傷が走っていた事を伝えると、リオンがウーヴェの頭を抱えるように腕を回しウーヴェがその腕に顔を隠すように押しつける。
「……あと、プラグも無理に抜かなくて正解だった」
「そうなのか?」
「ああ。下手をすれば人工肛門を増設しなければならなかった」
左足の手術をする前に背中の手当てをしたのだが、その時に潤滑剤を使って取りだしたとそれを見せられたリオンは、視界に入らないように片手でウーヴェの頭を己の身体に密着するように押しつけ、カスパルの掌に載っているものをおぞましいものでも見るような目で睨み付ける。
「……リオン……?」
いきなり強く頭を押さえられて戸惑うウーヴェが疑問の声を上げるがお前はもう見なくて良いと固い声で囁いたリオンがウーヴェの頭にキスをしそれを合図にカスパルが白衣のポケットにしまうが、そんなものが埋め込まれるだけではなくその先に犬の尻尾を模したものが付いていたのかとリオンがやるせない溜息を吐く。
「ああ。……警部に後で証拠品として渡しておく」
「分かった」
尻については奇跡的に酷い裂傷はないためこちらも薬の塗布で治療できる事も教えられてリオンが胸を撫で下ろし、カスパルが何度目のかの溜息を吐いたかと思うとベッドに手をついてウーヴェをじろりと睨む。
「レントゲンが出来たらまた持って来る。良いか、ウーヴェ、二度と許可なくベッドを抜け出すな!」
「……」
カスパルの剣幕に怯えた顔でウーヴェが素直に頷くが、そのカスパルが今度はリオンへと顔を向けると、腰に手を宛がってお前もだぞとリオンをついでのように睨み付ける。
「な、何だよ、アニキ?」
「ウーヴェがベッドを出たいと言っても絶対に出させるな。良いな!」
どうせお前のことだ、ウーヴェにベッドから出たいんだと言われたらナイショで出すつもりだろうが絶対に認めないからなと指を突きつけられて首を竦めたリオンは、了解しました、絶対に出しませんと背筋を伸ばす。
「良し。……ウーヴェ、後何回か左足の手術をしなければならない。分かるな?」
「……カール」
「何だ」
「……ありがとう」
カスパルがウーヴェの謝罪を受けて頷くと今までの険しい顔を掻き消し、ウーヴェの身体に覆い被さるように腰を折る。
「怪我はしたが、生きていてくれた」
お前が誘拐されたと聞かされた時のあの思いは二度としたくないと素直な思いを口にするカスパルの背中を撫でたウーヴェは、心配を掛けて悪かった、みんなにも伝えておいて欲しいと伝言し退院したら飲みに行こうとの約束をさせられて苦笑する。
「入院はどれぐらいなんだ、アニキ」
「そうだな。……三、四ヶ月はかかるな」
「結構掛かるんだな」
「ああ。手術よりもリハビリに時間が掛かる。退院してからも在宅でリハビリをする必要がある」
とにかく最低でも三ヶ月は入院することと告げられて仕方が無いとリオンが溜息をつくが後は頼むとカスパルが出ていったため、廊下でずっと待っていたレオポルドらが入って来る。
「ウーヴェ!」
レオポルドが駆け寄るも先にイングリッドが一足先にベッド傍に辿り着いたかと思うと、どんな顔をすれば良いのか分かっていない息子に手を伸ばして抱きしめ、涙が伝う頬をすり寄せる。
「おぉ、神よ、ウーヴェをお返し下さり、感謝します……!」
ウーヴェを抱きしめながら神に感謝の思いを伝えるイングリッドの肩をレオポルドが優しく撫で、本当に本当に今回はずっと心配していた、怪我はしてしまったが帰ってきてくれて良かったと浮かぶ涙を隠さないで何度も頷く父を見上げたウーヴェは、こんなにも心配させてしまって申し訳ないという気持ちと同時に、事件で何をされたのかを知られてしまったのではないかとの思いから全身が硬直してしまう。
涙を流す母の背中を抱いて大丈夫とも言えず、父の涙に泣かないでくれとも言えなかったウーヴェだったが、先程からずっと手を握っていてくれたリオンが優しく促すように頭にキスをした事に気付き困惑を伝えるように見上げると、事件中ずっと夢に出ていたロイヤルブルーの双眸が細められ、無理をしなくても良い、みんな分かってくれると頷かれて再度頭にキスをされる。
「……父さ、ん……母さん、心配、かけ、た」
喉の痛み以外の理由で掠れる声でそれでも二人に心配を掛けたと目を伏せると、イングリッドが涙を拭った後ウーヴェの頬に手を宛がう。
「いいえ、ウーヴェ。親が子どもの心配をするのは当たり前なのよ」
「そうだぞ。親に出来ることは子どもを見守って心配することだけだ」
イングリッドの言葉にレオポルドも頷き先程リオンがキスした頭に大きな掌を乗せると、くしゃくしゃとかき乱して撫で付けキスをし、長い溜息を吐いた後に気分を切り替えるように天井を見上げる。
その後ろではアリーセ・エリザベスが目を真っ赤にしてハンカチで口元を覆い隠しているが、ギュンター・ノルベルトは呆然としているように見えたため、リオンがウーヴェの頬にキスをしてみんなお前のことを心配している、だからここにいる人たちを安心させるためにも一緒に生きようと告げるとウーヴェの肩が揺れるが、かなり逡巡した後にうんと答えてくれる。
「ほら、兄貴もすげー心配してる」
その言葉に皆がギュンター・ノルベルトを見つめるがその視線の中で蹌踉けつつベッド際に近寄った兄は、何をどう言えば良いのか分からない顔の弟の頭に手を載せた後、ベッド端に座り込んでウーヴェを震える腕で抱きしめる。
「フェリクス……もう死ぬなどと言わないでくれ」
あの事件の時でさえも言わなかったその言葉を今すぐ忘れ去ってくれと弱々しい声で懇願するギュンター・ノルベルトに驚いたウーヴェだったが、己の言動がどれほど家族を心配させ不安にさせたのかに気付くと、ぎゅっと拳を握ってごめんと呟くことしか出来なかった。
ただ、心配を掛けてごめんと謝るウーヴェの双眸はどこを見ているのかはっきりせずに茫洋としていて、リオンだけが冷静にそれを見抜いていた為、目尻を拭って安堵に顔を小さく綻ばせるギュンター・ノルベルトに少しだけ話がしたいとも伝えると、ウーヴェの身体がぴくりと揺れる。
「兄貴、今日はもう遅いから無理だけど、明日にでも電話する」
「ん? ああ、携帯でも父さんの家にでもどちらでも良い」
「分かった」
アリーセ・エリザベスの頬にキスをしひとまずは安堵の表情でレオポルドに寄り添うイングリッドの細い身体を抱きしめたリオンは、当分の間休職しているのでウーヴェの傍にいること、何かあればすぐに連絡をするので今日はこのまま二人きりにして欲しいと頭を下げると、レオポルドが一つ頷いてリオンの頭を大きな掌で撫でる。
「ウーヴェを頼む。……お前が一番辛いだろうが堪えてくれ」
「大丈夫だ、親父。オーヴェが戻ってきてくれた。それだけで良い」
ベッドの上でこちらを見ているのかどうなのかも判然としないウーヴェを振り返ったリオンだがそれでも大丈夫と告げると、後は頼んだと頬にキスを残して抱きしめてくれるアリーセ・エリザベスとイングリッドに頷き、ギュンター・ノルベルトには黙って頷いて帰宅するウーヴェの家族の背中を見送るのだった。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!