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ヒグラシの鳴く夏の真っ只中の新潟北部の小さな市周りを見ても田んぼ、田んぼ、田んぼさすが新潟米所なだけあってその中にが一面に住宅地が少しある程度だ
「おじいちゃんおばあちゃん久しぶりー」
と弟の一太(いちた)が元気にはしゃいでいる
もう中学二年の男子だというにまだ声変わりがしていない可愛らしい声だ
「おじいちゃん、おばあちゃん、畑仕事手伝うよ!」
一太、こいつはこういう感じで愛嬌を振り撒いていて皆んなから癒されている
「一太は元気でいいよなー」
一太の元気な声とは対照的な気だるげな一(はじめ)兄ちゃんの声が耳に響いた
「おれはねみぃいいよぉ」
そう言って一兄ちゃんは高一になっての勉強疲れか、カバのように大きく口を開けてあくびをしている。
(はぁ、全く二人ともお気楽そうでいいもんだ。)
僕は思わず心の中で愚痴ってしまった。
一兄ちゃんは高校受験をすでに終えてるし一太は来年受験で二人ともお気楽そうだよ
今日は8月14日今、お盆で実家に帰省できて僕は清々する。
それは、あんな場所にいなくて済むからだ。
中二の終わりの時に父の転勤で僕は栃木県に引っ越したそこでは友達ができず、毎日空虚に過ごしている。こんなくだらない自分には正直我ながら惨めに思う。
僕はもう今年で中三今は夏休み慣れない土地にいるから僕は参考書は肌に離さずどこにでも持って行ってる。
「さて、勉強やりますかな、 」
すると奥から
「一希(かずき)兄ちゃんどこ行くの?」
唐突に弟の一太があい変わらずのいつものかわいめの声で確か一太は
「一太、おばあちゃんの畑仕事手伝うんじゃなかっとの?」
「早く終わったから休憩ー」
まったく、一太、お前は仕事が微妙なところで早いんだよなぁいつもはあれやれこれやるのにも時間がメチャクチャかかるくせして
まったく、一太には長所があっていいな。
「一希兄ちゃん、勉強は?」
「ちょっとだけ休憩」
そう言って僕は縁側に腰掛けると気の感触が太ももにじっとりと広がってくる。
(懐かしいな、、、2年ぶりくらいかなぁ?)
すると一太が鼻に泥をつけた顔をこっちに向けて
「栃木、どう?」
その一言で、喉を指で突かれたみたいに息が詰まった。
「……まあまあ」
嘘だ。
まあまあなわけがない。
友達はいない。
話す相手もいない。
学校に行って、帰って、勉強して、寝るだけ。
「ふーん」
「一希兄ちゃんその小説は?」
不意に一太が僕の手に持っていた小説を指さしてきた。その小説のタイトル は、
潮田夏希(しおたなつき)先生の
「幾度生まれ変わっても君とまた出会いたい。」
舞台は太平洋戦争の終盤沖縄での戦い、主人公の佐伯義司(さえきよしじ)少尉は新潟から派遣された少尉で幼馴染の 蔵越一子(くらこしかずこ)とそこで再会する。そこでの二人の絶妙な関係が描かれているのが泣けるところだ。
「夏希先生好きだねぇー」
「恋愛は尊いだろ?一太?」
「まぁ、おりぇはよくわかんないなー」
今は終盤、敵に包囲され、米軍で拠点が占領される中、義司は一子を逃した。そして 一子が桜の木下に手紙を入れた缶を埋めた。それから70年後に調査団がその手紙を発見し、
一子の記者会見で戦争の恐ろしさを伝える心を打つような演説が始まった。
まぁ、出だしだけで中身までは書かれてなかったけど。
すると突然僕はなぜかわかんないけど反射的に目線が庭の桜の木に移った。
一瞬、僕にもなんでかはわかんなかったけど、あることが重なってきた。
桜。掘り起こす。70年、
バラバラだった記憶がこの小説でパズルみたいに一つに纏った。
あれは僕が5つの時
おじいちゃんが僕を桜の木下に呼び付けこう言った。
「一希、この桜の木下にあるものを埋めた。今はまだ見るな。お前が15になった時、中を見ていい。」
そう言われてもう、10年、中身が気になり僕はスコップを取りに物置小屋へ向かうと
スコップがない。うちの家にあるのは10本はあるけど僕が5つの時にイタズラして紛失したんだ。残っているものも、一太たちの農作業で全部で払っているみたいだ。
自分のやっとことに後悔しながら小屋の二階に向かうとあるものが目に入った。
それは、祖父のコレクションだ。
日本の歴代のお札。軍票からGHQ占領時の一ドル札まで全部揃って額縁に飾られている。
その隣にはおじいちゃんが海外で撮った写真が山ほどある。
アメリカの自由の女神像写真。イギリスのロンドン橋。中国の万里塔の写真まである。
そのあまりの壮大さに目を奪われていたが、
黒のカーテンの奥に違和感を感じた。何か、そこに何かがある。
僕がそこを捲ると机には作業机と椅子。そして押入れに入っている。布団と枕。
さらにはそこに大量に落ちている開けられた缶詰。
長い間開けられてないからか埃と古い木材が混じったような匂いが鼻を突いてくる。
そして作業机にはあるものが置いてあった。
旧日本軍の軍服。鉄兜。銃剣とその鞘。背嚢。雑嚢。飯盒。水筒。
そこはまさしく旧日本軍の展示博物館のような状態であった。
おじいちゃんには悪いけど僕は軍用シャベルをこっそり拝借して桜の木へ向かう。
ヒグラシは相変わらず吹奏楽部みたいに休みなく演奏を続けている。
その声に乗せられ空を見るともう、夕焼けも少し赤みが強くなってきている。
桜の木の下。
さっきは気づかなかったが、幹の根元が不自然に盛り上がっている。
スコップでそこを掘り返すも、なかなか見つからない。
(どうやら秘密付きの僕を見越して深く埋めたな、、、)
爪の間に土が入り、指先がひりつく。
それでも、不思議とやめようとは思わなかった。
やがて、50cmほど掘ったところで**硬い感触**が指に当たる。
「……あった」
土の中から現れたのは、
**錆びた長方形の缶**だった。
弁当箱より少し大きい。
色は元々、深緑だったのだろうが、今は赤茶けている。
蓋の留め具は固く、指ではびくともしない。
僕は缶を膝の上に置き、力を込めた。
**ギィ……**
嫌な音を立てて、留め具が外れる。
一瞬、鼻を突く匂い。
油と紙が混ざった、古い匂い。
中には、**布に包まれた何か**が入っていた。
僕はその布を震える手でぎこちなくほどく。
最初に現れたのは、
**折り畳まれた紙束**。
それは、児玉一希(こだまかずき)支那戦地記録という一冊の本が。児玉一希はおじいちゃんの名前と同時に僕の名前でもある。
端は黄ばみ、ところどころが破れている。
だが、文字はまだ読めた。
すると本は表紙の裏にこう書かれていた。
この本は私が支那で体験した実際のことを小説ふうに書いたものであります。
登場人物は全て実名でございます。一部信じがたい場面がありますがどうかご了承を。
そこに書かれた達筆ではない。
むしろ、不器用な子供の落書きみたいな文字。
だが、ひどく真面目な字だった。
表紙の一枚目に、鉛筆でこう書かれている。
昭和12年
…….
….
児玉一希
……
僕が本の表紙をめくっていくと。