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僕は今、あるところにいる。
それは、風が吹くところ。地に草が芽吹くところ。雷が落ちるところだ。
もし、今言ったことが弾丸の風ではなかったら、
死体が地面に生える草のようにはなかったら、
大砲の雷が集中して落ちなかったら。どれほど綺麗な場所なんだろうか。
僕はそう考えています。
1941年12月24日 児玉一希(こだまかずき)
僕は記録帳にそう書くとノートをパタリと閉じた。
「一希兄ちゃーん!」
と元気な声が僕の右耳から入ってきた。声の正体は戦場という場所には似つかわしくない存在のムードメーカーの一太(いちた)だ。
「何書いてんのー?」
「あー記録みたいなもん、」
すると一太が眉毛を「ハ」の字にして
「なーんだ。日記じゃん。」
と、大好きなものがなくなったんじゃないかってほど興味をなくした。
「なんだとはなんだよ?一太?」
「なんだとはなんだとはなんだ?」
「は?なんだとはなんだとはなんだとはなんだ?」
と、いつの間にか対決になっている。
すると奥から
「おーい!お前ら!いくぞ!」
と、抑揚がそんなにない声が風が吹くように僕たちの耳を吹き抜けた。
「えー!一(はじめ)兄ちゃーん、もう少し休憩したいよぉ〜」
「うるさい、花部(はなべ)!いいから行くぞ!! 」
「今の名字で呼ばないでよー兄弟じゃーん?」
すると一太が何か思いついたかのような不敵な笑みを浮かべて
「僕が一番早く結婚したから嫉妬してんのー?」
すると一兄ちゃんの顔がみるみる林檎みたいに赤くなっていくのが目にとれた。
「うるさい!、、、まぁ、後10分だけな。」
すると一の兄ちゃんが岩の影に隠れてポケットからタバコを一本取り出す。
そして火をつけようとした瞬間
一太が僕の頭の上に乗っかってきた。
「一兄ちゃーんタバコは吸ってもいいけど潜入とかの時絶対に咳しないでねー」
と一太がいたずらっ子のような元気な口調で言ってきた。
すると一兄ちゃんは「チッ」と一発舌打ちをかましてタバコを弾帯の下のポケットにしまった。
すると横にいた田村が突然僕の頭を一発叩きつけてきた。
こいつ、一応平手なんだけど叩く力は強くて鉄兜越しでも伝わってくる。
「なぁ、一希ィ、なんで俺らが年の終わりにこんなところ行かなきゃいけねえんだよ?」
「知らないよ!」
僕も何故か田村を一発平手で叩きつけた。
「大晦日と正月だけは勘弁してほしいんだけどなぁー。」
年は変わろうとしていた。
僕たちの何かも、同時に終わろうとしていた。
とズレたメガネを右手で直して僕に向かっ て愚痴ってきた。
「、、、僕」
そう言いかけた時、後ろから
「おし!もう行くぞ!」
一兄ちゃんがトンプソンを肩に担いで出発準備完了と言わんばかりにこちらを向いてくる。
「はーい、」
と、一太が元気よく返事をして準備を始める。
僕も背嚢を担いで三八を肩に担ぐ。
僕らが行軍を再開すると先ほどの草がたくさん生えている田舎風景とは打って変わって
飲食店や洒落た街中、、、だったであろう場所に来た。
所々穴が空いて樹皮が剥がれてもう読める状態ではなくなった状態の飲食店の看板。
元々結構な高さであっただろうが、鉄骨が露出した半壊のマンション。
全てがめちゃくちゃだった。
「一希兄ちゃん、、ここ、、さっきまで普通の街だったんだよね、、?」
一太の方を見ると、顔が雪のように白くなっており、何も言いたくなさげな状態になっていた。
僕は返す言葉がなかった。というか、何を返せば正解かもわからない。
すると、
「うわ!」
「うお、、、」
僕らは思わず息が漏れた。それは、
先ほどまで戦闘が行われたであろう場所に横たわる日本軍兵士と支那軍兵士が
目を丸にひん剥いて死んだ者。
戦闘中に両者とも亡くなった者。
手や足がもげた者。
そこはまさに、“この世の地獄”と呼ぶために作られた場所へと変貌していた。
「一希兄ちゃん、、、ちょっと、これ、、、何か悪い夢だよね、、?みんな寝たふりしてるだけだよね?」
すると一兄ちゃんが
「オラっ!」
突然、支那兵の死体に足で一つ一つ、足で踏み始めた。
しかも、それは軽くではなく頭、腹、明らかに命を奪うための場所だ。
「お前ら!気をつけろ!もしかしたら生きているやつがいるかもしれねぇ!!!!」
すると一太も銃床で兵士の頭を少し突っついていく、
「え、、、」
何故か僕は横を向いた。自分でもなんでかわからない。突然首が操り人形みたいに右を向かされた。
そこには、
ドイツのM35ヘルメットの横に中華民国の国章がついた鉄兜を被り、階級が中尉の人物がM1911拳銃をこちらに構えていたんだ。
日本軍と支那軍(国民革命軍)の階級章は非常に似た造りで僕の階級一等兵であれば赤の生地に黄色の星章が二つ付く、支那軍は赤の生地に三角形が二つ付く。
一兄ちゃん達に嫌と言うほど教えられたからわかる。
するとやつがなんとこっちに目線を向けて僕を狙いにしてきた。
普通この場合、すぐに肩にかかっている銃で撃たないといけないんだけど、体を鎖でがんじがらめに縛られたんじゃないかってくらい動けない、
やばい、、やられる、、、
そんな考えが頭をよぎった、けど、
バン! という、乾いた音が二回聞こえた。
1回目でやつは拳銃を腕から落とし、2回目でやつは下からいとで引っ張られたかのように地面へと崩れ落ちた。
横を見るとそこには煙が上がったトンプソンM1の銃口を奴に向けてていたであろう。一兄ちゃんの姿が。
「一希、迷わず、やれ。」
僕は顎を引いて頷いた。けど、何故か引き金は引くことができなかった。
「おい、児玉ァ、」
と横にいた柏木(かしわぎ)が僕の肩に手を置いてきた。
「お前、いつも射撃訓練では一番なのになんで怒られてんだよぉ?おかしいだろぉー」
「へへっ、わりぃ、わりぃ、」
「部隊の中でも一ばん、、、」
柏木がそう言いかけた時、何故かやつは頭から桜吹雪のような鮮血を出して笑顔のまま伏せていた。
「まずい!お前ら!伏せろ!」
直後、ビルの2階の上から28式重機関銃を乱射する支那兵が二名いた。
「ぐぁ!」
「ぎゃあ!」
と、横にいた西銘(にしめ)と小田(おだ)が機関銃の餌食になりやがった。
「お前ら!射撃は高所からが圧倒的に有利だ!無理に反撃すんな!」
と一兄ちゃんが奴らのいるビルの角を指差す。
「あそこだ!行くぞ!」
と一兄ちゃんが走り出す。途中、遮蔽物になりそうなものは何もない。
「急げ!当たるかもしれないとか考えず走れ!」
「ギャア!」
「グフォ、、、」
直後横にいた増田(ました)と岸本(きしもと)が滑ったかのように地面に伏せた。
「質が高えみてぇだなぁ、曹長。」
と鮎川軍曹が笑いながら38式の排莢をする。
「随分と余裕がありますねぇ。鮎川殿。」
と一兄ちゃんも笑いながらトンプソンの撃鉄を起こしている。
「笑っている場合じゃないでしょ!」
と一太が泣きながら三八を排莢しようとするが
「あれー?」
何故かできない。
「詰まっちゃたみたい。」
「バカが!手入れぐらいちゃんとしろ!」
思わず僕は怒鳴っちまった。
「俺と一希で鎮圧!その間の指揮は鮎川軍曹に頼む!一希!来い!」
直後一兄ちゃんががぐるりと後ろを振り向く、僕の腕を掴んでビルの入り口に入る。
「一兄ちゃん、、なんで僕を、、、?」
一兄ちゃんが一瞬足を止め、目線を上に上げて、
「あん?あー、、、そのー、、戦場の勉強とでも言っておこうかな。」
「嘿!日本兵來了!」(おい!日本軍の奴ら入ってきたぞ!)
と中国語が上から響いてきた。
「あー見つかっちゃたかー」
「我一個人就能抑制那個小島國的那些小人民!」
とまぁ、中国語は全くわかんないけど言っていることはだいたいわかってしまう。
「あんな小さい島国の小さい連中!俺一人で鎮圧できるわ!」
そんなところだろう。
するとやつが階段を降りてくる音がした直後
「グフォ、、」
一兄ちゃんのトンプソンが一足早く火を吹いた。
「行くぞ!一希!」手を引かれて僕らが2階に上がるとそこには、
「小日本被征服了嗎?」
こちらには気にも止めず、一太達の方に向かって機関銃を乱射する支那兵が二名。
「お前ら!手ェ挙げろ!」
「撃つぞコラ!」
僕と一兄ちゃんが口々に奴らに脅し文句をかける。
「脳みそ吹き飛ばしてやろうかぁ!?」
「撃つぞ!本当に撃つぞ!」
その瞬間奴らが手を挙げた。
「おし、そこのホルスターにある、、」
一兄ちゃんがそう言いかけた時。
「ちょっと革脚半脱げそうだ、、」
と一兄ちゃんがしゃがんだ、次の瞬間。
と一発乾いた音が室内に鳴り響いた。
「テメェ!何しやがんだ!!」
と一兄ちゃんがそいつを壁に叩きつけてモーゼルc96ををはたき落とした。
するとそこから取っ組み合いに発展した。
お互い馬乗りになったり殴ったりを繰り返しているが、僕は参戦できない。
こいつを始末して後、こいつらが安心したタイミングを狙って打ってくるかもしれないからだ。
「お前ら!撃つぞ!ぶちころすぞ?!」
僕はとりあえず脅し文句を羅列して、二人を制す。生まれてこの方脅迫もしたことないしこんな悪い言葉も誓ったことないから。どうも威圧感がないのが自分でもわかる。
僕がふと後ろに目をやると
「、、、!」
一兄ちゃんが敵が馬乗りになって首を絞めている。
「離せ、オイ、、」
一兄ちゃんの顔が梅干しみたいに赤くなってこれは今にも死ぬかもしれない。
すると一兄ちゃんがその兵士の横の腰に手を伸ばす。
そこから取り出したものは。
銃剣。
そのつかで敵の脇腹を殴る。
すると奴は苦悶の表情を浮かべる。
それを見逃さず一兄ちゃんは敵兵に馬乗りになり、首にトンプソンを突きつける。l
「支那兵のにいちゃん、手ェ挙げな。」
するとやつも観念したかのように両手を挙げた。
「ふぅ、、。」
一兄ちゃんから安堵の息が漏れた。ついでに僕も。
「一希、これが戦場だ。連携は勉強できたか?俺がやられている時、参戦しなかったのはまぁ、正解だ。」
僕らが捕虜三名を連れてみんなのところに戻ると。
「カーペッェ!」
その瞬間。その場が凍りついた。
なんでかというと、一太が捕虜の一人に唾を吐きかけたからだ。
「ふざけんなよ、、 」
僕は咄嗟に一太を宥めようと背中をさする。
「一太、もう、あの人たちは戦闘員じゃないから撃たなくても、、」
僕は思わず後ろに一歩下がってしまった。
そして一太はなんとさらに信じられない行動に出た。
なんと、奴は三八の撃鉄を起こそうとしていた。
「やめろ!」
僕は気がついたら一太に向かって走り出していた。
「一太、やめなさい。」
僕は優しく声をかける。相手を刺激しない。これが一番だ。
「一太、わかる、さっきまで一緒にいた人が急に死んでしまったもんな?」
「けど、あの人たちはもう危害を加えない、だから、戦わない。それだけ、 」
すると
“ゴツっ”
と鈍い音とともに僕は尻餅をついていた。
「一希兄ちゃんは黙ってて。」
すると一太が完全に撃鉄を起こし、照準を捕虜の一人に合わせる。すると、、
と空気が揺れるほどの叫び声が僕の後ろから聞こえた。
「一兄ちゃん、、、」
すると一兄ちゃんが一太の三八の銃口をあさっての方向に向ける。
「非戦闘員にまで攻撃するなって言っただろ!それになんだァ!?今の!?一希を殴ってんじゃねえぞ!バカが!」
すると一太が涙を浮かべているのが目にとれた。
「、、、わかってるよ、」
「こんなことをしても、僕が失敗しても助けてくれた西銘も。よく飲みに行った柏木さんも、こんなことしても帰ってこない。けど、やらないよりはやったほうが二人も浮かばれるじゃん?」
ドスッ!
と鈍い音があたりに響いた。
「ふざけんじゃねえぞ!お前が今してんのは使者に唾を吐いてるのと同じなんじゃ!!いいか!?これだけは覚えとけ!次同じことをしたら今度は容赦しねえ!俺がお前を撃つ!」
すると一兄ちゃんは、さっき駆けつけた時に落としたであろうトンプソンを再び肩に担いで
「お前ら、行くぞ。捕虜は連帯に渡して処理してもらう。」
するとみんなが再び行軍を始めた。
「一太、、」
僕がそう声をかけると一太がこちらを向いてきた。
それは、怒りでも、悲しみでもなく、自分より他人を優先するほど心優しかった青年の壊れかけた目だった。
こんなの非日常、、いや、これが本当は今日からなる日常だったのかもな。
僕は雑嚢の記録帳に手を伸ばす。
日の昇る国から遥か離れた土地、長沙。
人々が笑い合った場所は乾いた音とともに崩れ落ち、平和とともに瓦礫へと消え去る。
我が弟。その現実から目を背けたくなるがあまり敵兵を殴り罵倒する。
これがある意味の日常かもしれない。
12月24日 児玉一希