テラーノベル
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蒼月
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「クロード、無事なの!?」爆音と悲鳴が響き渡る中、執務室の扉を蹴破って飛び込んできたのはセリス、エレナ、シャーロットの三人だった。
「近寄るな、伏せろ!」
俺の叫びと同時に、四発目の対物装甲弾と光の矢が室内を穿つ。だが、今度は俺たちだけに直撃することはなかった。
「誰に向かって矢を放っているのよ、この愚か者がッ!」
セリスが前に躍り出ると、両手をかざして極厚の【絶対零度・絶対氷盾】を展開する。二千メートル先から放たれた高熱の対物弾が氷盾に衝突し、凄まじい水蒸気を上げて弾け飛んだ。弾道を氷の屈折でわずかに逸らしたのだ。
「クロードを狙うなんて百万年早いのよッ! 稲妻よ、彼らの目(照準)を焼き切りなさい!」
間髪入れずにエレナが窓辺へと踏み出し、天に向けて巨大な紫電を放つ。二千メートル先の山腹——敵のスナイパーとアーチャーが潜む暗影の領域へ向けて、落雷級の電磁脈衝(EMP)が空気を引き裂いて落ちた。
狙撃手の照準レンズと、アーチャーの魔導感知網が一瞬で焼き切られ、敵の連射がピタリと止まる。
「今よ、クロード! 私の爆縮で、あいつらの足場ごと吹き飛ばしてあげる!」
シャーロットがニヤリと嗜虐的な笑みを浮かべ、両手を突き出した。
あいつはエレナの雷撃が走った空間の軌跡——極限まで電離した大気のラインへ向けて、自身の『遠隔・空気連鎖爆破』を滑り込ませた。
ドォォォォォンッ!!
二千メートル先の山腹が、眩い火柱と共に爆発を起こす。
凄腕スナイパーの潜む観測拠点と、アーチャーが立つ高台が、山肌ごと崩れ去っていくのが見えた。
「な……なんだあいつら……!? 連携のラグがゼロだと!?」
遠くの通信魔導格子から、狼狽する敵スナイパーの悲鳴が微かに漏れ聞こえる。
「……ハッ。いつもは騒がしいだけの脳筋どもだが、こういう時だけは嫌になるほど頼りになるな」
俺は盛大に欠伸を噛み殺しながら、煙の中から立ち上がった。
セリスの氷による弾道逸らし。
エレナの雷撃による精密な位置特定と光学・魔導妨害。
シャーロットによる超遠距離の物理破壊。
そして、シエルの風による無音の観測補助と、ミサキが散布した偽のデコイ情報。
俺が指示を出すまでもなく、この4人は俺の「コンマ01秒の隙」を完全にカバーし、二千メートル先の凄腕狙撃手ペアを瞬く間に攻守逆転の絶体絶命へと追い詰めやがった。
「クロード! 敵の二人は山崩れを回避して後方へ撤退を開始したわ! 逃がさないわよ!」
セリスが振り返り、勝ち誇ったように胸を張る。
「逃がすわけないだろ。……追い詰めるのは、俺の仕事だ」
俺は外套の血を雑に拭うと、ハンスから納品されたばかりの【折りたたみ式・超高圧磁気加速対物ライフル】をバックパックから取り出し、ガチリと組み立てた。
「セリス、奴らの退路上に氷の壁を作れ。エレナ、逃走ルートの空気に放電させて逃げ場を狭めろ。シャーロット、背後で威嚇爆破だ。……奴らを『俺の照準線(ライン)』の上へ誘導しろ」
「「「了解!!」」」
息の合った三人の一斉攻撃が、遠くの森を切り裂く。
追いつめられ、俺の計算通りの直線ルートへ誘い出された二つの影。勇者陣営が誇る凄腕スナイパーとアーチャー。
俺は壊れた窓枠にバイポッドを固定し、スコープの十字を敵の動線へと重ねた。
二千メートル。風速、湿度、気圧、そして魔力密度の補正——完了。
「……引導を渡してやる。人間の作った物理法則と、うちの騒々しい連中のチームワークを舐めるなよ」
俺はためらいなく引き金を引いた。
ドッ……パンッ!!
消音器を通り抜けた重圧な発砲音が、夜の魔王城に静かに響き渡った。
【Side:勇者陣営】
魔王城から二千メートル離れた、断崖の森。
「……くそっ! なんだあの出鱈目な連中はッ!?」
凄腕スナイパーのキリサキは、黒煙の上がる山肌で背中の対物ライフルを抱え、荒い息を吐いていた。
観察用スコープのレンズは割れ、特製の迷彩ギルドスーツは焦げ付いている。
本来なら、一発目でハーフの新魔王の首をぶち抜き、二発目で氷結結界を打ち破って完全暗殺(ミッション・コンプリート)のはずだった。二千メートルという絶対の安全圏から、コンマ01秒の隙を突いた完璧な同時連動撃(デュアル・スナイプ)。
だが、返ってきたのは容赦のない「絶対零度の氷壁」「網膜を焼き切る紫電」「山ごと抉り取る連鎖爆発」、そして——
「キリサキ、喋るな! 姿勢を低く保て!!」
傍らで大弓を構える「弓聖」のクロトキが、血の滲む唇を噛み締めながら怒鳴った。
その自慢の精霊弓は、落雷の余波で弦が弾け飛び、彼の右腕は重度の火傷で皮が捲れ上がっている。
「誘い出されている……! 氷と雷と爆風で、我らの退路が完全に『一本の直線(ライン)』へ誘導されているぞ!」
「なんだって……!? 二千メートル先だぞ!? この暗闇と煙の中で、相手は拳銃しか持たないハーフの小僧だぞ!?」
「相手を舐めるなと言ったろう! あの男はただの魔王ではない……! 物理と化学と、周りのバケモノ共を完全に手足として支配している『ドブネズミの怪物』だッ!」
クロトキが叫んだ瞬間——
**――ドッ。**
音すらない。
空気の振動すら置き去りにした、超高圧の「物理的な死」が、二千メートル先の魔王城から届いた。
「がっ……!?」
キリサキの目の前で、クロトキの右肩から先の肉体が、骨ごと消滅した。
魔法の障壁も、弓聖としての「気の鎧」も関係ない。磁気加速された超高密度金属弾が、コンマ数秒で二千メートルの空間を滑空し、クロトキの身体を摩耗・粉砕したのだ。
遅れて届く、風を切り裂く重苦しい音波。
「あ……あぁ……ッ!?」
キリサキは膝から崩れ落ちた。
自分の銃弾よりも遥かに高速で、遥かに冷酷な、完全なる「カウンター狙撃(アンチ・スナイプ)」。
「ひ……ヒィッ……!」
血まみれで倒れ伏すクロトキの胸元に、二発目の照準(赤いレーザーの点)が静かに重なる。
二千メートル離れた暗闇の先から、冷めきった瞳で自分たちを見下ろしている「新魔王」の視線が、皮膚を通して伝わってくるようだった。
『……生かして返すとでも思ったか?』
言葉など届くはずもない距離なのに、キリサキの耳には、あの気怠げで冷徹な声が直接響いているように錯覚した。
「参った……降参だ! 撃たないでくれ! 情報を……勇者陣営の極秘データをすべて渡す! だから……ッ!!」
キリサキは手元の対物ライフルを放り投げ、血と泥に塗れた地面に額を擦り付けた。
かつて人間界で「至高の狙撃手ペア」と恐れられた二人は、今や自分たちが仕掛けた完璧な狙撃ポイントで、完全なる「獲物」として惨めに取り乱していた。
二千メートル先の魔王城の窓辺。
一発の追撃で二人の戦意を完全に挫いたクロードは、折りたたみ式対物ライフルのスライドを静かに引き、煙草の煙を夜空へ吹き上げたのだった。
コメント
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わあ、第40話、めちゃくちゃ熱かったです……! セリス、エレナ、シャーロットの連携が本当に美しくて、それぞれの能力を活かした攻防が鮮やかでした。特に、クロードが指示を出す前に彼女たちが動き出しているところに、信頼関係の深さを感じました。そして最後のカウンター狙撃、敵視点の描写も相まって痺れましたね。クロードのクールな風格が際立つ、最高の一話でした!