テラーノベル
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蒼月
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「参った……降参だ! 撃たないでくれ!」二千メートル先、スコープの十字線の中心で、地面に這いつくばり惨めにお手上げポーズをとるスナイパー(キリサキ)の姿を確認した。右肩を吹き飛ばされた弓聖(クロトキ)も、血の海で虫の息のまま動かない。
「……ハッ。勇者陣営の『至高の狙撃手ペア』だか何だか知らんが、一度目論みが外れた途端にこれか。往生際の悪さだけは一丁前だな」
俺は折りたたみ式磁気加速対物ライフルのスライドを引き、熱を持った空薬莢を排出させた。カン、と静かな音を立てて床に転がる金属片。
「クロード、トドメは刺さないの……?」
崩れた窓枠の横、風の結界を収めながらシエルが静かに寄り添ってきた。手には、いつの間にか三杯目の苦いコーヒーが握られている。
「わざわざ遠距離から二発も撃ち込む弾薬がもったいない。ミサキにハンスの回収部隊を回させて、生かしたまま捕獲させる。あの二人なら、勇者陣営の『特務機関の裏予算』と『最新暗号コード』の山を吐き出してくれるはずだ」
俺は差し出された温かいコーヒーを受け取り、一口すすって息を吐いた。
「……それにしても、気味が悪いわね」
壊れた壁の破片を払いながら、セリスが険しい顔で歩み寄ってくる。
「あの狙撃のタイミング……あたしたちが東西の軍勢を退けて、一番気が緩むコンマ01秒の隙を完璧に狙ってきた。ただの脳筋勇者パーティの仕業じゃないわ」
「そうね……あたしの雷撃感知でも、撃たれる直前まで気配が一切読めなかった。あいつら単体の技術というより、後ろで指揮をとってる『頭脳』が相当イカれてる」
エレナも腕を組みながら真剣な表情を見せる。
「……ねえ、クロード」
シエルが俺の袖をちょんと引っ張り、澄んだ風のような瞳で俺を見上げてきた。
「……なんだ、シエル」
「……もしかして、今の『勇者』は……クロードと似た『暗殺者タイプ』の勇者かもしれない」
部屋にいた全員の視線がシエルに集まる。
「……勇者といえば、光の聖剣を振り回して正面から突撃してくる脳筋……っていうのが相場だけど。今回の狙撃の手際、情報戦の仕掛け方、そして何より……敵(あたしたち)の隙をコンマ単位で計算して、他人を捨て駒や『撒き餌』にする冷徹なやり方……」
シエルは俺の顔をじっと見つめ、静かに言葉を続けた。
「……完璧な合理主義で、ドブネズミみたいに泥を啜りながら、確実に仕留める戦術。……クロードが人間界(むこう)の陣営にいたら、まったく同じ作戦を立てていたと思う」
「……チッ」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、苦いコーヒーを喉に流し込んだ。
シエルの分析は、悔しいが図星だった。
正義や誇りを振りかざす光の勇者——そんなものはただの表看板(お飾り)で、実際に裏で采配を振っている現「勇者」の本性は、俺と同類の**『冷徹な暗殺者・合理主義者』**。だからこそ、こちらの思考パターンや隙を正確に読んで「二千メートルからの同時狙撃」なんて攻め手を迷いなく打ってこられたのだ。
「……鏡の裏返し、か」
「クロードと同じタイプの勇者……? そんなの、最高に可愛げがなくて嫌な奴じゃない!」
シャーロットが顔をひきつらせる。
「嫌な奴どころか、一番厄介な相手よ。正面突破のバカなら氷漬けにすれば終わるけど、クロードと同類の暗殺者なら……こちらの裏の裏をかく泥沼の情報戦(心理戦)になる」
セリスの表情が厳しさを増した。
「……フッ、面白くなってきたじゃないか」
俺は消音拳銃をホルスターに収め、冷徹な笑みを深めた。
光の聖剣を振りかざす勇者ごっこなら吐き気がするが、裏社会の暗殺術と合理性で攻めてくる同類なら話は別だ。どちらの『ドブネズミ帝王学』が上か、白黒つけてやるのに不足はない。
「ミサキ、聞こえるか」
俺は通信端末をタップした。
『ええ、バッチリよ魔王サマ。狙撃手二人(キリサキとクロトキ)は拘束完了。……で、シエルの予想通りだったわ。あいつらに指令を出していたのは、勇者パーティの参謀——【影の勇者】と呼ばれる暗殺者上がりの男よ』
「……上等だ」
俺は不敵に口角を上げ、夜風が吹き抜ける壊れた執務室で、静かに次の盤面を描き始めた。
「……【影の勇者】ねぇ」
捕縛したスナイパー・キリサキとクロトキから吐かせたデータと、ミサキが持ち帰った暗号コードを端末上で照合しながら、俺は冷え切った缶コーヒーを煽った。
敵の参謀たる『影の勇者』。光の聖剣を誇示する表の勇者を隠れみのにし、裏で徹底した合理主義と冷酷な計算で暗殺・諜報を指揮する男。
俺と同類の、泥を啜るドブネズミ思考。
「クロード、相手はあたしたちの隙や思考パターンを完璧に計算して攻めてくるタイプなんでしょ? 普通の情報戦じゃ裏をかかれるんじゃないの?」
セリスが氷の結晶を指先で弄びながら、懸念を口にする。
「普通の情報戦ならな。……だがな、セリス」
俺は不敵に口角を釣り上げ、ハンスとの極秘通信端末を操作した。
「相手が『俺と同類で徹底的に計算高い』なら……一番引っかかりやすい罠は、【計算通りに見える完璧な餌(スキ)】だ」
シエルが俺の意図を察し、風を纏わせながら静かに追従する。
「……クロード。敵の参謀は『自分と同じ合理主義者ならこう動く』という予測(計算)を立てて行動する。……だから、その予測のさらに一段上に『本物のスキに見える偽のスキ』を置く」
「その通りだ」
俺はミサキ、セリス、エレナ、シャーロットの四人を手元に呼び寄せ、作戦の全貌を告げた。
「敵の影の勇者は、捕まったキリサキたちを救出する、あるいは口封じするために、必ずこの魔王城の地下牢獄へ裏の隠密部隊を送り込んでくる。……そして、俺たちが『厳重な防衛網を敷いて待ち伏せしている』と計算するはずだ」
「だから、その防衛網を突破するための超高度な裏ルートを計算して攻めてくる……ってことね?」
エレナが紫電をバチバチと跳ねさせながら、鋭い目で頷く。
「そうだ。だから俺たちは、地下牢獄の防衛網に『ハンス経由で漏洩させた、意図的なシステムのコンマ05秒の作動ラグ』を仕込む。敵の影の勇者なら、そのラグを『クロードの計算の限界(微小な欠陥)』だと喜々として誤認し、全戦力を注ぎ込んで突入してくる」
「ふふ……相手の『賢さ』と『プライド』をそのまま逆手に取るわけね。最高に嫌らしくて卑劣な罠だわ、魔王サマ」
ミサキが忍装束の胸元で腕を組み、嗜虐的な笑みを浮かべた。
「で、敵がその『偽りの抜け道』にまんまと全員なだれ込んできたところを……あたしたちで一網打尽にするってわけね!?」
シャーロットが目を輝かせ、両手に爆縮の火花を散らす。
「ああ。……役割分担だ、よく聞け」
俺は地図を広げ、五人にテキパキと指示を出した。
「敵の突入部隊が『完璧な抜け道』だと思って突っ込んでくる地下三階の狭隘通路。ここが死地(キルゾーン)だ」
まず、ミサキの光学迷彩デコイとシエルの無音減圧結界で、敵の退路を背後から完全に遮断する。
次に、突入してきた敵の過激派暗殺部隊に対し――
「セリス。お前が通路の前方に【絶対零度の超極圧・絶対氷壁】を瞬間展開し、前進を完全に阻む」
「任せなさい! アタシの氷壁は、物理も魔法も一切通さないわ!」
「エレナ。上下左右の壁と床に仕込んだ高導電パウダーへ、最大出力の【超高圧・広域パルス雷撃】を叩き込め。敵の装備している最新の暗殺用魔導器具を内部から全全焼き切る」
「任せてクロード! 逃げ場のない狭い通路で、こんがり黒こげにしてあげるわ!」
「そしてシャーロット。エレナの放電で一気に過熱した通路内の空気に、お前の【分子連鎖・真空爆縮】を滑り込ませろ。衝撃波と急激な減圧で、敵の意識を力ずくで刈り取る」
「アタシの爆縮で、影の勇者の気取った計算ごと吹き飛ばしてあげるーっ!」
物理法則、エレメントの相乗効果、そして敵の「高度な計算」を逆利用した、逃げ場ゼロの完全なる致死領域。
「……で、クロード。あんた自身はどうするのよ?」
セリスが尋ねてくる。
俺は消音拳銃のスライドを静かに引き、薬室に特注の『精神麻痺・対人弾』を装填した。
「俺は、その惨状を遠隔モニターで絶望しながら見つめているであろう『影の勇者』本人の居場所を……ハンスの通信逆探知とシエルの風で割り出し、背後から直接『チェックメイト』を突きつけに行く」
相手は計算高い暗殺者だ。現場に自ら足を運ばず、安全な後方で高みの見物を決め込んでいるはず。
なら、現場の部隊を三人娘とシエル・ミサキで完膚なきまでに叩き潰し、その絶望の通信が届いている本拠地の背後へ、俺が消音拳銃を持って直接お邪魔してやるのが一番効く。
「……ふふ。どこまでも冷酷で、一切の情がない素晴らしい作戦ね」
セリスが呆れ半分、誇らしげ半分に笑う。
「よし、作戦開始だ。……影の勇者さんよ、お前が自慢する『完璧な計算』が、ただの自爆スイッチに変わる瞬間を楽しみにしてろ」
俺は盛大に本日何度目かわからない欠伸を噛み殺すと、夜の静寂へと滑り出した。
コメント
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第41話読み終わりました!敵の参謀がクロードと同じ「合理主義者・暗殺者タイプ」っていうのがすごく面白いですね。「鏡の裏返し」って表現、ゾクッときました。クロードが相手の計算高さを逆手に取った作戦を立てるところ、めっちゃ好きです。キャラの掛け合いもテンポ良くて引き込まれました。次どうなるのか楽しみすぎます…!