イルミが手にした細い針。それはあなたの記憶を「都合のいい形」に書き換える、恐ろしい道具だった。
けれど、イルミの表情は、まるでそれが“優しさ”であるかのように穏やかだった。
「こわがらなくていいよ。すぐに楽になれるから」
「……兄さん、それは優しさなんかじゃない。私は私のままでいたい……!」
「でも、君は苦しんでる。“選べない”から。だったらボクが、代わりに選んであげる」
イルミがゆっくりと針をあなたの首筋へと近づける。
逃げようとしても、身体が動かない。
まるで空気が、檻になったみたいに、あなたを締めつけていた。
(クロロ……キルア……)
頭の中に、ふたりの顔が浮かぶ。
■ 無表情に見えて、時折ふっと優しく笑うクロロ
「君がここにいる理由を、教えてくれないか?」
■ いつも強がって、でも傷つくときはとても静かなキルア
「姉ちゃんがいないと……ダメなんだよ、オレ」
(いや……忘れたくない。私は……)
震える指先が、針を押し返そうと動いた。
そのとき——。
「……名前、呼んであげようか?」
イルミの声が一瞬やさしくなった。
それは、幼い頃、暗殺者の訓練で震えていたあなたを抱きしめてくれた、あの時と同じ声だった。
「……〇〇(夢主の名前)、大好きだよ。
だから、君が誰のことも想わないように、してあげる」
──カチッ。
何かが心の奥で外れる音がした。
(……だめ……消えちゃう……思い出が……)
薄れていく記憶。
キルアの笑顔が遠のき、クロロの声が霞んでいく。
けれど、その奥で――
「ユメ……逃げろっ!!」
叫ぶ声が、夢のように響いた。
それは……キルアの声だった。
なぜここに? どうして聞こえるの?
思考がぼやけていく中で、あなたの目に涙が滲んだ。
(お願い……誰か、私を――)
一方その頃
「急げ、ここだ」
クロロがキルアを連れて、ゾルディック家の裏地下通路を進んでいた。
彼だけが知る“抜け道”。その先に、夢主がいる。
「イルミは本気で、君の姉さんを“自分だけの人形”にしようとしてる。
それが成功すれば、彼女はもう……君のことさえ、思い出さなくなる」
「そんなの……絶対にさせねぇ……!」
キルアの目に、怒りと恐怖が渦巻いていた。
「オレが……オレが姉ちゃんを守る」
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