テラーノベル
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暁月という男は、特別目立つ存在ではなかった。
背が高いわけでもない。
声が大きいわけでもない。
誰よりも前に出て目立つ性格でもない。
ただ一つだけ、他と違っていた。
――刃を迷わせない。
鬼狩りの任務において、
それは才能と呼ばれるものではない。
経験でもない。
ましてや感情の欠如でもない。
ただ、必要な瞬間に“ためらわない”という性質。
それが彼の評価のすべてだった。
村の者たちは彼をこう評した。
「暁月が行けば終わる」
「失敗しない鬼狩りだ」
それは信頼であり、同時に依存でもあった。
誰かがやらなければならない仕事を、
確実に片付ける存在。
それ以上でも、それ以下でもない。
だが暁月の内側は、
外から見えるほど単純ではなかった。
朝は早い。
まだ空が青に変わりきる前に起き、
刀の手入れをする。
刃の曇りを指で確かめるように見つめ、
必要以上に長くは見ない。
それは儀式ではない。確認だ。
今日も“間違えないための準備”。
任務がない日は、訓練場にいることが多い。
木刀を振る。
型を繰り返す。
同じ動作を何度も、何度も。
周囲から見れば無意味な反復に見える。
だが彼にとっては違う。
迷いを削る作業だった。
鬼狩りになる前の彼を知る者は少ない。
彼はある日突然この職に就いたわけではない。
家族がいた。普通の暮らしがあった。
それでも彼はこの道を選んだ。
理由を尋ねられたことはある。
その時、暁月は少しだけ間を置いてこう答えた。
「誰かがやらないといけないからだ」
それ以上は言わなかった。
それ以上を言う必要もなかった。
ただ一つだけ、
周囲が気づいていないことがある。
暁月は“*優しい人間*”ではない。
そして“*冷たい人間*”でもない。
そのどちらにも寄り切れないまま、
刃の上に立っている。
ある日の任務帰り。
同行した鬼狩りの一人が言った。
「お前、怖くないのか?」
暁月はすぐには答えなかった。
刀を拭く手を止めずに、しばらくしてから言った。
「怖いさ」
短い答えだった。
その返答に相手は驚いたように黙る。
暁月は続けた。
「でも、止まる方が怖い」
それだけだった。
止まること。
それはこの世界では死と同義に近い。
鬼化は待ってくれない。
判断は遅れれば遅れるほど被害を広げる。
だからこそ、止まらない者が必要だった。
暁月はその役割を理解していた。
理解してしまった、と言う方が正しいかもしれない。
夜。
任務を終えた後、
彼は一人で川辺に立つことがあった。
水面に映る自分の顔を見る。
そこに何かを探しているわけではない。
ただ確認している。
まだ“人間”であることを。
その確認は、誰にも見せない癖だった。
やがて遠くで鐘が鳴る日が来る。
その音が鳴ったとき、暁月はまだ知らない。
自分の刃が、初めて“切れないもの”に向くことになるということを。
#未熟者が作った物語
未熟者が作った物語
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コメント
1件
うわ、暁月めっちゃ刺さるわ…。「怖いさ。でも、止まる方が怖い」って台詞、一瞬で心掴まれた。強さの根っこにちゃんと覚悟があって、単なる最強キャラじゃないのが良いよね。川辺で自分の顔見て「まだ人間か」確認するシーン、あれ好き。めっちゃわかる。で、最後の“切れないもの”って伏線、どう転ぶんだろ。次話楽しみで仕方ない🔥