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傷ついたアロンが目覚めてすぐ、俺たちはオーディーの森にたどり着いた。その矢先、手斧を持って構えていたコボルト族が俺たちを出迎える。
小柄ながら勇敢なコボルト族である彼らに怖さは感じられず、むしろ逆に怯えられてしまったのは予想通りの光景だった。
そして今――
「……ルカス。ウルシュラは何をしてるの?」
「あ~あれは……おもてなしだね」
「…………?」
ナビナが首を傾げるのも無理は無い。
通常なら歓迎される側がもてなされるわけだが、
「さぁさぁさぁ! 美味しいミルクと一切れのパンを召し上がれ~!」
なぜかウルシュラが彼らをもてなしている。警戒していたコボルト族から、次第に笑顔がこぼれ始めているがそれが狙いだったようだ。農芸スキルだけにとどまらず、ウルシュラの本気度が感じられる。
「ルカス、おいら元気になれた! 以前より強くなれた気がするぞ」
「人間さま、アロンを感謝、感謝」
「アロンが元気、元気に! ありがとうありがとう。コボルト族、代表してありがとう」
アロンが両親と一緒に声をかけてきた。冴眼の治癒で完全回復させたのが良かったのか、彼が元気になってくれて何より。しかし治癒前よりも強くなれたというのはどういう意味だろうか。
ナビナが何かしたのかな?
「ルカスさ~ん! どうですか~? コボルトさんたちは穏やかになりましたか?」
ウルシュラがいい仕事をしてきたといった満足気な顔で戻って来た。
一体何をやってたんだか。
「ずっと何か作ってたのはコボルト族の為に?」
「もちろんそうです! 園芸師は何も植物を愛でたり、装備を作ったりするだけじゃありませんからね! これが私の真骨頂でもありまして~! あっ、呼ばれちゃったので行って来ますね」
なるほど。確かに効率重視の冒険者パーティーだと彼女のスキルは発揮できない。
しかし獣人と友好関係になるのは確かなようだ。
「ルカス、戻る?」
「アロンも送り届けたし、そうしようか」
「……コボルト族の仲間、入れる? あの子以外の大人」
「仲間か~。コボルトが勇敢なのはいいんだけどね。大人のコボルトがどれくらい強いのかも調べようが無いし……」
クランのことを考えればコボルトたちを加えても良さそうではあるけど。
「ルカスの目で見つけること、出来る。知りたい?」
「冴眼で?」
「ルカスの宝石眼は万能。だから、何でも見える。ルカスは最強を目指せる」
そうだとすればなんでもありじゃないか。
「それって、相手の目を見るのかな?」
「……ナビナのそばにいたルカス。そろそろ一端の力、引き出せる。目を見れば次からきっと、目じゃなくても見える」
いちいち目を見なくても済むようになるなら、試す価値はある。もしや、ナビナの能力は引き出す力なのか。
「じゃあ、見るよ?」
俺はナビナの正面でしゃがみ、彼女の目を見つめた。すると呪いの宝石が光った時と同様に一瞬だけ目がくらんだ。
「……ルカス、もう大丈夫。ナビナを見て」
目を閉じていた俺に対し、ナビナが促している。
「う、ん……んんん?」
「見える?」
真正面にいるナビナの瞳が俺を見つめ、同時に輝きを見せている。
あれ? ナビナも宝石の瞳のような?
そう思っていると、彼女の能力が俺の脳裏に浮かび出す。
【追従:徐々に引き出す】【追従:効果上昇】
【追従:魔法命中率上昇】【一端の力を解放させる】
これがナビナが持つスキルなのか?
他にもあるみたいだけど見えないな。追従なんて初めて見る言葉だ。ナビナがそばにいるだけで強さが増すという意味になるのだろうか。
「こ~ら! 二人とも何を見つめ合ってるんですか!! 聞いてますか、ルカスさん!」
気付かないうちにウルシュラがそばに来ていた。
物は試しでナビナから目を離し、ついでに彼女を見つめてみるが、
「……な、何ですか?」
「あれ?」
「はっ!? もしかしてさっき口にしたのが口元に!?」
そう言いながら、ウルシュラはごしごしと口の辺りを気にしだした。
おかしいな。間近にいるのに見えないぞ。
「へ? い、いや、大丈夫。何もついてないよ」
「おぉ、それなら良かったです!」
ナビナの方を見ると特に表情を変えずに立っている。
全て見えるわけじゃないのか?
「ところでウルシュラ。足下に見える大量の枝は?」
冴眼の能力はともかく、ウルシュラの足下には木の枝が大量に置かれている。
「これはですね、オーディーの森の木材なんですよ! これを刻んで煎じると回復薬になるそうでして! お土産に頂いちゃいました」
すっかりコボルト族に気に入られたらしい。戻った先にアーテルの雑貨屋があるからもらった感じか。
「そういえば、コボルトの族長っているのかな?」
「ここの森は大きくないしいないみたいですよ。なので、クランへの誘いも遠慮しちゃいました。ルカスさんも同じこと考えてましたか?」
「……まぁ、そんなところかな」
「そうですよね。あ、枝の束をロープでまとめるので待っててください~」
本気で担いでいくつもりなんだ。
それはそうと、
「ナビナ。ウルシュラの――」
「相手に意識を向けられたり気づかれたり、間近にいると見えなくなる」
そうか、ウルシュラにはすでに意識させてたな。
「遠ければ遠い方がいい。ルカスがやる気出せば遠くの人も場所も強さも……全て見えるようになる。見たい場所、あるはず。違う?」
俺が見たい場所は、もちろん帝国と城にいる兄リュクルゴスだ。おそらくリュクルゴスも俺を監視しているし、何らかの手を打っているはず。
全てじゃなくてもその動きを垣間見ることが出来れば。
「方角、方向……気にして見ればきっと見れる」
「それならやってみるよ」
バルディン帝国がある位置はここからだと北西辺り。城は帝都の上にそびえている。皇帝の所にいなければ見えるはず。
――バルディン帝国。
宮廷魔術師たちが通路を歩く姿、魔術演習の光景があった。
リュクルゴスの気配を追うと誰かの背中が同時に見える。あの背中はまさか?
「ぬぅ……」
「どうかした? リュクル」
あの後ろ姿は姉のエルセか。戻って来てたのは驚きだ。一瞬気付かれそうになりそうだったけど、大丈夫そうだ。
「いや、何でもない。それよりエルセ。次はいつ城に戻るつもりだ?」
「さぁね。聖女は賢者と違って忙しいし、城の中に籠る暇なんてないの。リュクルこそいい加減、外に出ないの?」
「その呼び方はやめろ! ……俺は城を守護する役目がある。外は宮廷魔術師だけで問題無いからな」
また言い訳か。中にばかりいて本当に強いのか疑いたくなるな。
「アレは今どこに?」
「……南だ。すぐに会えるだろうがな! エルセもやるなら――」
「くだらない……」
突然暗転し、全く見えなくなった。どうやら力を使えるのはここまでらしい。リュクルゴスの様子を見れただけでもいいとしなければ。
「……ルカスさん~? ルカスさ~ん……無視し続けられるのは悲しくなるので、返事をしてください~」
「へ? ご、ごめん、ぼーっとしてた」
「戻り支度が出来たので、アーテルさんのお店に戻りましょう!」
「そうしようか」
なるほど。見てる時はこういうことが生じるのか。ナビナが頷いてるってことは、長く見るにもリスクが生じるということを理解しなければいけないことになる。
そうなると遠くを見る力をつけるより使う力を上げる方が良さそうだな。