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雨上がりの夜、東京タワーの展望台。
霧が街を覆い、光の輪郭がぼやけている。
「……なんでしょう、この静けさ……」
菊の手が御札に触れる。
王耀も刀を構え、警戒の目を光らせた。
すると、視界の片隅に人影が現れる。
ふわりと笑顔を浮かべた青年――
「やあ、遅かったね」
「……イヴァン」
菊が短く息を吐く。
その笑顔には嘘も威圧もない、ただ親しげな温もりがある。
「こんにちは、二人とも。みんな仲良くしてるかと思ったけど……どうやら僕がちょっと介入しないといけなかったみたいだね」
青年は両手を広げる。
その仕草は、歓迎でも挑発でもない――不思議と安心する、しかし背筋が凍る感覚。
「……全員、イヴァンの仕業だったアルか……?」
王耀の声は怒りを含むが、どこか戦慄していた。
「そう、アルフレッドも、アーサーも、フェリチアーノも、ルートも――みんな僕の“実験台”だよ」
微笑みながら指先を動かすと、展望台の空間が揺らぎ、過去の戦いの残像が立ち上る。
仲間たちが妖化し、悲鳴を上げ、手を伸ばす幻。
「やめてください……!」
菊が叫ぶ。
御札を何枚も投げるが、幻は消えない。
むしろ増幅し、二人の心をえぐる。
「人間が一番怖いってこと、体験してもらおうかな」
イヴァンの笑顔が微かに歪む。
瞬間、二人の視界に恐怖が直接流れ込む。
自分たちが救えなかった仲間たちの絶望、倒した妖の叫び、失った魂の痛み。
それらが一気に襲い、現実と幻の境界が曖昧になる。
「くっ……くそ……!」
王耀の握る刀が震え、菊の結界も微かに揺れる。
「ねえ、怖い?でも大丈夫。僕は笑って見てるだけだから」
笑顔のまま、イヴァンは静かに歩み寄る。
その一歩ごとに、展望台の床が氷のように光り、二人を包む。
「でも……僕のやり方でみんなを一緒にしてあげたいだけなんだよ?」
彼の声は優しい。
だがその優しさが、二人の心に最も深い恐怖を刻みつける――
“笑顔で殺す”という恐怖を。
菊と王耀は互いに視線を交わす。
「……倒さないと、逃げられないアル……」
「……ええ、これ以上誰も喰わせない」
二人は並び立ち、決意を固める。
しかし、笑顔のイヴァンはまだ動かない――
ただ、二人の恐怖を楽しむかのように見つめるだけだった。
夜風が展望台を吹き抜ける。
その先に、笑う青年の姿――
戦いは、ここから始まる。
第六話
東京タワーの展望台。霧は濃く、街の光が霧に溶けてぼんやりと揺れている。
菊と王耀は背中を預け合い、互いの呼吸を感じながら構えていた。
「……ここで終わらせるしかないアル」
王耀の刀が月光を反射する。
「ええ、誰も失いたくない……でも、あの笑顔のままでは終われない」
菊の手が御札を握り締める。冷たく光る文字が空間に浮かんだ。
霧の中から、にこやかに笑う青年の姿。
「やあ、ようやく来てくれたね。楽しみにしてたよ」
イヴァンの笑顔は変わらない。だが、次の瞬間、展望台全体が氷の檻のように光りだした。
「これが……!?」
王耀が叫ぶ。床も壁も光に包まれ、外に逃げられない。
「僕の作った世界の中で、僕とみんなを理解してくれるまで……じっくり遊ぼう」
イヴァンの声は優しい。しかし、その優しさの奥に、底知れぬ力が潜んでいる。
幻影が襲う。アルフレッドの絶望、アーサーの怒り、フェリチアーノの泣き顔……
二人の心を直撃する。
菊の結界も、王耀の刀も、その圧倒的な霊力の前では一瞬揺らぐ。
「なんなんアルカ……この力……!」
王耀が叫び、刀を振るうが、イヴァンは軽くかわし、笑顔を崩さない。
「怖い?大丈夫、すぐ慣れるよ」
にこやかな声と恐怖の共存。人間の心理を突き抜けた戦い。
菊が深呼吸し、結界を再構築する。
「耀さん……私たちの力を一点に……!」
二人は呼吸を合わせ、霊力と術力を融合させた攻撃を一点に集中させる。
閃光と轟音――氷の檻がひび割れ、展望台が揺れる。
しかし、イヴァンの姿は揺らがない。
「なるほど……二人とも、僕を倒す覚悟はできているんだね」
菊と王耀は一瞬視線を交わす。
「……最後まで守るアル!」
「ええ、誰も喰わせない……!」
二人の力が最大限に重なる。
結界が光を放ち、刀が霊気を帯び、空間が裂けるような衝撃が走る。
イヴァンの笑顔が一瞬だけ歪む。
「ふふ……そう、これが……」
その瞬間、残像として映るのは、救えなかった仲間たちの微笑み。
二人はその力を借り、イヴァンの霊力を封じ込める。爆風の中で崩れかける氷の檻。
菊と王耀の力で封じられ、イヴァンの動きが止まる。
それでも笑顔は消えない。
「ふふ……そうだね、君たちは強い」
微かに呼吸を整え、にこやかに二人を見上げる。
「でもね……僕は、ただ皆が仲良くするのを望んでいただけだったんだよ……?」
その声は優しい。だがその優しさが、最後まで恐怖を残す。
一瞬光に包まれ、にこやかな表情のまま、イヴァンは消える。
残ったのは、静かな夜と、誰も触れられないほどの余韻
これが彼と、妖怪退治の最後だった…