机を囲むのは練馬区偵察隊隊長の遊摺部、戦闘部隊隊長の皇后崎、京都支部援護部隊隊長の屏風ヶ浦穂希の3人と四季達計12人。
「第27回!終戦お疲れ様飲み会〜!!」
ビール片手にそう叫んだ遊摺部、そんな騒いでも良いのか。と隣にいた担任に無陀野が小さく聞いた。
「あぁ…ここは鬼が経営してる個人酒場だし、今日は貸切にしてあるから大丈夫だ」
「…そうか」
「……何だ、揃いも揃って言いたいことでもあるのか?」
ちゃんと聞かれたことには返した筈なのに生徒からはじっと見つめられている。そんな変なことを言ってないよな…。とさっきまでの会話を思い出す四季。
「…その、」
「眼鏡が無いんで、落ち着かないっつーか新鮮だなってだけです」
少し言い籠った花魁坂を一瞥して、良い意味で遠慮のない紫苑がぶっ込んだ。
四季は少し目を開いて顔に触れた、普段掛けている眼鏡は鉄パイプの反動で地面に落ちて壊れた。
予備も持ってないから現状裸眼でいる。
「あぁ…そうだよな、見慣れないよなぁ」
「僕ので良ければ貸しましょうか?」
「遊摺部、ありがとうな」
「でも、大丈夫」
既に半分が消えているビールジョッキ片手に現れた遊摺部。遊摺部の言葉に四季は首を振って断る。
「遊摺部は度入ってんだろ?」
「あぁ…一ノ瀬君のはのレンズありの伊達眼鏡でしたね…」
「そ…」
マジか。驚きの表情を揃えて生徒は四季を見つめた。目が悪くないのならば何故、眼鏡を付けているのか…。
未だ謎に包まれている担任。
「…隣の座敷にいる」
考えが纏まりそうもない無陀野がソフトドリンクを片手に席を立った。それを糸切りに次々と立って隣の部屋に消えていく。
まぁ、生徒は生徒同士で募る話もあるだろう。例えば、自分の悪口とか。
自虐のような考えに陥る四季の目の前に皇后崎がビールジョッキを置いた。
「!」
「テメェの事だからどうせ、うだうだ考えてんだろ?」
「…」
「んな事よりお前の出来たことをちゃんと見ろ」
「皇后崎…」
「ありがとな」
学生時代ならば、きっと四季は皇后崎が素直なことに余計なことを言ってしまいそうだが四季はもう大人である。
「よっしゃ、飲むか!」
四季先生としてではなく一ノ瀬四季としてビールジョッキを持った。
そこからは妙にテンポが良く。
ビールが進んだところで色々とおつまみが出て来たり、箸を交えながら学生の頃の思い出話に花を咲かせた。
結果見事に四季は酔った。めちゃくちゃに。学生のようにふざけて、笑って話して呑んで。
それこそ、四季先生ではなく一ノ瀬四季に戻るかのように。
「遊摺部ぇ!」
「皇后崎ぃ〜」
「屏風ヶ浦ぁ」
「矢颪ぃ…」
「漣ぃ?」
「手術岾ぁ」
隣から聞こえる声は甘い担任の声。しかもここにはいないであろう他の人の名前も呼んでいる。
「多重人格者?」
「どーだかな…」
真澄の声が終わった直後に襖が小さくノックされた、開けられた襖の間から遊摺部が覗いた。
「あ!良かった、全員いますね…」
「もうすぐ良いものが聞こえますから、」
隣と遮るための襖を指さして遊摺部は笑った。その顔は冗談でも酔いが見えるわけでもなかった。
「…とりあえず耳寄せるか」
遊摺部がいなくなった途端に、下心しかない紫苑が早速耳を澄ませた。
「一ノ瀬さん?大丈夫ですか??」
「どうせ酔ってんだろ」
「ん〜、大丈夫だよぉ…元気元気ぃ」
呂律が回ってない声の主は会話的にきっと担任だろう。四季とは違って、皇后崎や屏風ヶ浦の声には酔いが見られない。
「ところで、一ノ瀬くん…生徒たちとはどうですか?」
遊摺部の声。そういうことか、酔った担任に尋問に近いことをしようというのか…。
まぁどうせ口から言われるのは否定や拒否の声だろうと思っていた。
「…俺のな、生徒達が良い子なんだよぉ…」
隣の座席からはここ2週間で聞きなれた担任の声が聞こえてきた。声は同じだが、口調やトーン、増しては話す内容でさえも似ても似つかないほどだった。
襖の向こう側から酔った声が聞こえる。
想像していたのとは真逆の言葉で。
「無陀野は状況の冷静な判断が出来るし、淀川はキツイ口調だけどちゃんと優しさを持ってるし、花魁坂は自己犠牲があるんだけど医療の腕は優れてるし」
「紫苑はナンパ癖とかもあるけど仲間思いで、猫咲は観察眼が鋭いし口調は丁寧だけど頭の回転も早いし、印南はポジティブだから空気が和らぐし素直で良い子、大我は優しいし何つーか漢ってかんじなんだよぉ〜、馨は能力の拡大の努力を色んなところから吸収できる知識あるし」
「あと、俺にも優しくしてくれるんだよぉ…一ノ瀬先生って呼んでくれるし、真澄はクソ教師呼びだけど、それはそれで可愛いな〜って思うんだよ」
怒涛の褒め言葉のオンパレードになんて反応するべきかわからないでいる生徒達、きっと顔は驚きと歓喜、そして照れが混ざっている状態だろう。
「ぉーぃ…」
「…遊摺部さん?」
「こっちおいで、写真集よりも刺激的なもの見れるよ」
遊摺部の誘いに欲望に忠実な紫苑がすぐさま部屋を移動した。
つられて後を追った先に見えたのは、自分らの担任。一ノ瀬四季。
されど、その顔は赤に染り瞳も溶けているように焦点がふやけて、眉も下がっている。
下ろされた髪から時々見える首のライン、開けられた第一ボタンから見える鎖骨。
緩んだ口
(((なんか、すっごいエロい!!)))
久々に声が揃った。
「おい、四季。テメェの生徒たちいんぞ」
面白いことを思いついたと言うようなトーンで皇后崎は無陀野たちを指さした。
指を辿るように四季がゆっくりと無陀野たちを見る。そして今まで一度も、絶対に見たことがない蕩けた笑みを見せた。
「…お前達は、かわいいなぁ…」
そう言って1番近くにいた真澄の腕を掴み、膝の上に乗せて頭を撫で始めた。
「なんで…そんな良い子なんだよぉ…」
真澄の肩に顔を埋めながら今度は泣き始めた。
「四季くん、なんか無陀野君たちに言いたいことあったんでしょ」
卵焼きを食べながら遊摺部が笑った。
四季は埋めてた顔を持ち上げて、未だ涙の残る瞳で無陀野達を見上げる。
「ごめんねぇ…おれが不甲斐ないからぁぁ…」
「痛かったよねぇ…」
鼻水を啜りながら四季は謝った。
「四季君〜、困ってますよ〜、ほらおいで〜」
真澄を退かして、四季の脇に手を入れて運ぶ遊摺部。ぐわんぐわんになっている四季の頭を優しく撫でている遊摺部の手を大人しく享受して嬉しそうに目を細めた。
「あ!そうだ一ノ瀬さん、一ノ瀬さんの写真生徒さん達に見せても良いですか?」
「ん〜?おれの?」
「はい、一ノ瀬さんの」
「いいよぉ」
語尾が伸びて呂律も上手く回っていない。本当にこれが担任なのかと目を見合わせる、さっきまで頭を撫でられていた真澄は呆然としている。
「…遊摺部さん、録音は」
「バッチリしてあるよ!」
四季の逃げ道を確実に潰してから、屏風ヶ浦は無陀野と連絡を交換してから計8枚の写真を送った。
1人一枚ずつと。
写真は、偵察隊の隊服のジッパーを上に上げながら遠くを睨む横顔の四季。
皇后崎が撮ったであろう、穏やかな顔で寝ている四季。
寝転んでいる猫をしゃがみながら撫でて笑う四季。
訓練後だろうか、汗をタンクトップの裾で拭くせいで薄い腹筋が見えている四季。
カメラを見ながら挑発するように、ベーと舌を出している四季。
ご飯を頬いっぱいに入れてもぐもぐしている四季。
訓練中に炎鬼になって、揺れる髪の色が紺色から赤く変化している四季。
羅刹の制服を着てカメラ目線でピースをして笑っている四季。
未だアルコールで酔っている四季は知らない、生徒達がその写真を早速共有した挙句に保存して、ホーム画面に設定しているのを。
「ゆするべぇ…さむい…」
「それは、そうでしょ…いつもの上着はどこに置いて来たんですか?」
「昨日の桃太郎の隊長を…地面に置くのヤだったから」
「上着敷いてきたぁ…おれがカッとなっちゃったから…」
そう言って殺した桃太郎のことを思い出して再度涙をこぼし始めた四季。持っていた空のビールジョッキの代わりに水の入ったコップを渡されて大人しく呑んでいる。
「僕のは隊服ですし…」
「皇后崎は替え持ってます?」
「いや、持ってねぇな」
「私のじゃ小さいですよね…うぅ、ごめんなさい、役に立たずで…」
「びょーぶがうらぁ、またあやまってる…」
「びょうぶがうらが、いてくれておれは、うれしいぜ?」
床に着けてた屏風ヶ浦の頭を撫でながら四季は笑う。
あぁ、この人の本性はー。
教師一ノ瀬四季は、ただの優しい一ノ瀬四季だったのか。
漸くわかった。
この歪な対応をする担任の本音を。
「俺のを貸そう」
「ダノッチ、ここは俺のを!」
「じゃあ間とって俺ので♡」
「「お前だけはない」」
「俺に対して酷くね?」
言い争っている間に馨が上着を渡し、印南は四季に撫でて貰い、猫咲は四季を撫でて、大我は四季が小さく開けた口にだし巻き卵を入れる。
真澄は頭を冷やすとトイレに行った。
騒々しいなぁ、と思いながらも四季の優しさを漸く生徒達が知ってくれたことに遊摺部や皇后崎は笑う。
『十薬』(じゅうやく)
ドクダミの別名
花言葉、「白い追憶」「自己犠牲」
四季先生の学生時代の記憶(写真)のこと。自分の性格を厳しく、怖く(黒く)しているのとは真逆な優しくてよく笑う(白い)記憶。
四季先生の自己犠牲のもとに自分たちが仲良くなって、遠回しに守られていたことを知ってた生徒達が思った言葉。
みたいな感じです!!
前回に比べたら随分と長くなっちゃった…
まだ飲み会もうちょっと続きますっ!!
あと…、一つだけ相談なんですけどせっかく四季先生が酔ってるんでどうせならR書きたいな…
と思ってるんですけど、書いたら見てくれますかね…?
番外編というか、ifみたいな感じになるんですけども…
コメント
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一気見したんすけどガチで最高でした!四季くんの優しさが溢れ出ててやばかったほんと四季くん酔いが覚めたらどうなるんやろ
酔った四季くん可愛すぎる🤦♀️💕続き楽しみにしてます!!
見ますよ見せてください愛してますよ好きです愛してます❤️ 酔ってる四季先生がメロすぎる好きすぎるありがとうございます 次回も見させていただきます