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「週刊誌に出ていた通り、私はマネージャーである彼女と交際しております。それは紛れもない事実です」
「それでは渋谷さんはあの記事を認めるんですね?」
「今現在もお付き合いされているのですか?」
私との交際を認めると報道陣が更に質問をしてくる。
社長の話だと、別れた事にして今はもう何の関係も無いと宣言するはずだったのに雪蛍くんは、
「――はい、交際は続いています」
はっきり交際が続いていると断言した。
これには社長は勿論、私も驚いてしまう。
「雪蛍くん、何で……」
勿論、雪蛍くんがはっきりと交際宣言してくれた事は嬉しいけど、このままでは今以上に事態は悪化の一途を辿ってしまう。
だからと言って私が今から会見場へ向かう訳にもいかず、どうすればいいのか悩んでいると、
「芸能人という立場である私は、周りからも、彼女からも、別れる事を説得されました。全ては私のこれからを心配しての事だと理解はしています。ですが、私は彼女の事を心から愛しています。人生で初めて出来た、大切で守りたい人です。そんな彼女と別れる未来は見えていません。彼女が居たから、ここまで来られたし、辛い事も頑張れた。私は、彼女と別れてまで、この仕事を続けるつもりも、ありません」
雪蛍くんは淡々と自分の想いを口にしていき、報道陣たちも口を挟む事をせずに見守っていた。
そして、テレビの画面越しに、雪蛍くんと目が合った。
まるで今ここに彼が居るみたいな感覚に陥る、そんな中、
「すみません、この場を借りて、少しだけ、言わせてください。――莉世、俺にはお前が必要なんだ、別れるなんて、絶対に嫌だ。お前が居てくれたから、俺はここまで来れた。お前の支え無しじゃ、途中で投げ出してたかもしれない。だから、これからもずっと傍にいて欲しい。これから先もずっと傍に居て、俺を……支えていて欲しいんだ」
私の名前を口にした彼は、私への想いを語りかけていた。
「雪蛍くん……こんな事して……駄目じゃない……っ」
喜んではいけない、そんな場合では無い。それは分かっているけど、やっぱり嬉しかった。
だって、雪蛍くんはこんな状況になっても私と一緒に居たいと思ってくれているのだから。
「――この場で言う事では無いと分かっていますが、皆さんにも私が本気である事を分かってもらいたかったので、言わせていただきました。そして、可能であれば私はこれからも仕事を続けていきたい。演じる事も、歌う事も大好きだから。だけど、世間に彼女との事を受け入れてもらえないのであれば、潔く引退をする覚悟でいます。今後については後日、正式に発表させていただきますので、宜しくお願い致します。長々と失礼致しました。ありがとうございました」
話したい事を話終えた雪蛍くんは深々と頭を下げていた。
そして、会見の中継はここで終わりのようで画面は切り替わってしまった。
私はすぐに彼と連絡を取りたくて、ひとまず彼のマネージャーをしている小柴くんに電話を掛けようとスマホを手に取ると、開きっぱなしだったSNSのタイムラインが動き出す。
《渋谷雪蛍の会見、びっくりした》
《あれは無いわw》
《もう引退しろよ》
《散々調子乗りすぎた結果だろ》
《公開プロポーズ? メディアを私物化し過ぎ》
《彼女の名前言っちゃうとか、無いな》
《余程魅力的な彼女なのかw》
なんて否定的な内容が流れていく中で、
《ってかさ、別に良くない?》
《芸能人だからって恋愛禁止じゃないし、マネージャーが相手でも別にねぇ》
《好き合ってるなら他人がとやかく言う事ではないな》
《雪蛍、カッコ良かった》
《あんなに想われてる彼女羨ましい》
《引退は嫌》
《彼女いてもいいから頑張って欲しい》
《浮気とか不倫じゃないんだし、全然いいよね、好きな人が居て仕事も頑張れたらそれが1番》
《公開プロポーズ、かっこいい!》
《彼女、別れる説得してたとか、可哀想》
《芸能人だって一人の人間よな。恋愛は自由じゃね?》
《あんなに一途に想ってるとか、普通にカッコイイよね》
徐々に肯定的な意見も沢山上がってくる。
そんな中、スマホ画面に着信を知らせる通知が来る。
それは他でも無い雪蛍くんからで、私は慌てて電話に出た。
「もしもし、雪蛍くん?」
『莉世、会見観てくれた?』
「観たよ……観たけど、どうしてあんな……社長から聞かされてた内容と違うし、社長も驚いてたでしょ?」
『まあね。けど俺は初めからああするって決めてたから。例え怒られても、莉世と別れるつもりは無い。別れるくらいなら、仕事を辞める。それくらい、お前の事が好きなんだよ』
雪蛍くんは、ずるい。
そんな風に言われたら、もう、何も言えないよ。