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世界には、誰も知らない遺失物センターがある。
財布や鍵を預かる場所ではない。
もっと曖昧で、
もっと大切で、
そして、ときどき世界そのものを左右してしまうものを預かる場所。
例えば。
誰かが七歳のときに抱いた「宇宙飛行士になりたい」という願い。
例えば。
天才ピアニストになるはずだった少女の才能の欠片。
例えば。
失恋した青年が置き忘れた恋心。
そんなものが、ふとした拍子に世界からこぼれ落ちることがある。
そして、それらは決まって一つの場所へ流れ着く。
『神様の遺失物センター』
空の上でも地の下でもない。
夢と現実の境目に建つ巨大な施設。
無数の棚が並び、
無数の引き出しが並び、
無数の落とし物が眠っている。
職員たちは神ではない。
神様が落とした物を管理するために雇われた、ただの従業員だ。
ただし普通の人間と同じではない。
今日も彼らは働いている。
消えた記憶を整理し、
落とされた奇跡を仕分けし、
持ち主へ返却するために走り回る。
そんな職員の一人。
新人職員、こさめ。
🦈「えっと……『夕焼けを綺麗だと思う気持ち』は感情課の第三倉庫……」
高すぎる棚を見上げながら、こさめは端末と格闘していた。
制服はまだ新品同然。
首から下げた職員証もぴかぴかだ。
入社してまだ二週間。
当然ながら仕事には慣れていない。
📢「こさめ、それ違う」
背後から声が飛ぶ。
振り返ると、長い脚を机に投げ出している先輩職員がいた。
いるま。
神様の遺失物センター管理課所属。
面倒見は悪くはない。むしろ良い。
📢「それ感情課じゃなくて感性課」
🦈「えっ」
📢「夕焼けを綺麗だと思う気持ちは感情じゃなくて感性」
🦈「難しくない!?」
📢「ここで働くなら覚えろ」
いるまは呆れたように笑った。
その隣では、もう一人の先輩が書類を片付けている。
なつ。
仕事は早い。
頭も切れる。
🍍「こさめー」
🦈「はい?」
🍍「暇だったら第四倉庫行ってきて」
🦈「何の用ですか?」
🍍「神様が落とした雷拾ってきて」
🦈「絶対嫌です」
🍍「わかる」
なつはけらけら笑った。
いるまが軽く書類を投げつける。
📢「仕事しろ」
🍍「してるしてる」
平和だった。
少なくとも、その時までは。
館内放送が鳴り響く。
『緊急搬入。緊急搬入。第一受付へ至急職員を派遣してください』
職員たちが顔を上げる。
緊急搬入は珍しい。
しかも第一受付。
普通の落とし物ではない。
なつが立ち上がった。
🍍「行くぞ」
いるまも端末を閉じる。
📢「こさめも来い。勉強になる」
🦈「は、はい!」
三人は廊下を走った。
長い廊下。
果ての見えない棚。
無数の扉。
やがて第一受付へ辿り着く。
そこには既に何人もの職員が集まっていた。
空気が妙に重い。
誰も喋らない。
受付台の上に、一つの箱が置かれていた。
黒い箱。
ただそれだけ。
だが、見るだけで胸がざわつく。
なぜか目を離せない。
新人のこさめでさえ分かった。
これは危険だ。
とてつもなく危険な落とし物だ。
受付主任が震える声で読み上げる。
主任「本日午前零時三分、世界境界線付近にて発見」
周囲が静まり返る。
主任は書類を見つめたまま続けた。
主任「所有者不明」
あり得ない。
この施設では、ほとんどの落とし物に持ち主が存在する。
分からなくても追跡できる。
だが今回は違った。
主任の額に汗が浮かぶ。
主任「返却期限、一年」
いるまの表情が変わる。
なつの笑みも消える。
そして主任は最後の一文を読み上げた。
主任「遺失物名――」
箱が、微かに震えた。
世界のどこかで、何かが軋む音がした。
主任「――『人類の未来』」
その瞬間。
受付の照明が一斉に明滅した。
誰も言葉を発しない。
こさめだけが小さく呟く。
🦈「……未来?」
だが、その問いに答えられる者はいなかった。
なぜなら。
人類の未来が落とし物になるなど、
神様の遺失物センターが創設されて以来、
一度も起きたことがなかったのだから。
新連載「神様の遺失物センター」
主人公 🦈様
今回もしかしたら出てこない方 👑様
(前も言った通り全員出すの苦手なんですよ)
コメント
2件
新連載…!!めちゃめちゃ嬉しいです😭😭♡ ストーリーすごく良すぎます…赤さんと紫さんが先輩なの解釈一致ですとってもだいすきです 早速怪しめな展開でどきどきしてます…💭 毎度素敵な結末を迎えてくださるので今回も勝手にうきうきしときます…!!
ああ、この世界観、すごく好きです…!「宇宙飛行士になりたい」とか「天才ピアニストの才能の欠片」みたいな、目に見えないものを預かる設定がもう胸に刺さりました。こさめちゃんの新人らしい戸惑いといるま先輩・なつ先輩との軽妙なやりとりも可愛くて、でも最後の「人類の未来」という箱が運ばれてきた瞬間、空気が一気に変わった。照明が明滅する演出、ゾクゾクしました。続きが気になりすぎます…!