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未来保管番号A-000001
主任「――『人類の未来』」
その言葉が告げられたあとも、しばらく誰も動かなかった。
受付室には重苦しい沈黙だけが広がっている。
こさめは黒い箱を見つめた。
見た目はただの箱だ。
大きさも両手で抱えられる程度。
けれど近づくほど胸が苦しくなる。
まるで箱の中に、果てしなく巨大な何かが押し込められているようだった。
🦈「……開けるんですか?」
思わず聞く。
主任は青い顔で首を振った。
主任「許可が下りるまで開封禁止だ」
🦈「中身も分からないのに?」
🍍「分からないからだよ」
なつが珍しく真面目な声で言った。
🍍「中身が未来なんだからな」
🦈「未来って箱に入るものなんですか……?」
📢「ここじゃ常識捨てろ」
いるまがため息をつく。
📢「去年は『昨日』が落ちてきた」
🦈「昨日!?」
📢「一昨年は『春』」
🦈「春!?」
📢「三年前は『運命の赤い糸』が大量に絡まって大騒ぎだった」
🦈「何なんですかこの職場……」
📢「今さら気づいたのか」
いるまが少しだけ笑った。
だが、その笑みも長くは続かなかった。
受付室の壁に設置された巨大モニターが突然点灯する。
警告音。
赤い文字。
【世界安定指数 99.98%】
数字が表示された次の瞬間。
99.97
99.96
99.95
ゆっくり。
だが確実に下がっていく。
ざわり、と職員たちが騒ぎ始めた。
「おい」
「もう始まってるぞ」
「早すぎないか?」
「未来喪失の影響だ」
こさめは意味が分からなかった。
未来を失う。
それがどうして世界に影響するのか。
すると主任が静かに説明する。
主任「人は未来を信じることで今日を生きている」
🦈「……」
主任「明日があると思うから眠る」
主任「来年があると思うから頑張る」
主任「いつか幸せになれると思うから苦しくても耐える」
主任は黒い箱を見る。
主任「人類全体の未来が消えたらどうなると思う?」
こさめは答えられなかった。
主任は苦しそうに続ける。
主任「世界が少しずつ止まる」
その言葉に背筋が寒くなった。
その時だった。
ドンッ!!
施設全体が揺れた。
棚が震える。
書類が舞う。
警報が鳴り響いた。
『第五保管区にて異常発生』
『第五保管区にて異常発生』
『至急職員を派遣してください』
🦈「今度は何!?」
こさめが叫ぶ。
近くの職員が端末を見る。
そして顔を引きつらせた。
「嘘だろ……」
🦈「何ですか?」
「保管されていた『夢』が消え始めてる」
空気が凍った。
🦈「え?」
「あり得ない」
「未来が消えた影響だ」
なつが舌打ちする。
🍍「夢は未来と繋がってるからな」
いるまはすぐに歩き出した。
📢「行くぞ」
🦈「どこへ?」
📢「第五保管区」
🦈「えっ、こさも!?」
📢「新人だからって免除されると思うな」
🦈「うわぁぁ……!」
こさめは慌てて後を追った。
長い廊下を走る。
職員たちが慌ただしく行き交う。
警報が鳴り続ける。
これまで見ていた穏やかな職場の姿はどこにもなかった。
やがて第五保管区へ辿り着く。
扉が開いた瞬間。
こさめは息を呑んだ。
無数の光が宙へ浮かび上がっている。
青。
金。
白。
ピンク。
様々な色の光。
それらはふわふわと漂いながら、まるで消えていく雪のように崩れていた。
🦈「これが……夢?」
こさめが呟く。
なつが頷く。
🍍「誰かが持ってる夢の欠片だ」
光の一つが消える。
また一つ。
また一つ。
消えていく。
まるで世界中から希望が抜け落ちているみたいに。
「回収急げ!」
「保管結界張れ!」
「消失率上昇中!」
職員たちが走り回る。
その中で。
こさめはふと、一つの光に目を奪われた。
他の光より少し大きい。
淡い水色。
なぜか目が離せない。
手を伸ばす。
触れた瞬間――
景色が変わった。
知らない少女がいた。
病室。
窓の外には夕焼け。
少女は小さく笑っている。
『大人になったら、お花屋さんになるんだ』
その夢が見えた。
一瞬だけ。
本当に一瞬だけ。
そして映像は消える。
こさめの手の中に、水色の光だけが残った。
🍍「……え?」
なつが振り返る。
いるまも気づいた。
二人の顔が変わる。
📢「おい」
📢「こさめ」
🦈「はい?」
いるまが珍しく驚いた顔をしていた。
📢「今、お前……夢の記録を見たか?」
🦈「え?」
📢「見たのか」
🦈「た、たぶん……」
なつといるまが顔を見合わせる。
その反応は明らかに普通ではなかった。
そして次の瞬間。
施設中に新たな警報が鳴り響いた。
今までよりもさらに大きな警報。
『特級案件発生』
『特級案件発生』
『人類の未来に所有者反応を確認』
全員が固まった。
こさめも。
なつも。
いるまも。
そして放送は続ける。
『所有者候補――検出』
『位置情報照合中』
『位置情報――』
こさめの首から下がる職員証が、突然青く光り始めた。
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コメント
1件
うわ、今回もすごかった……。「未来」が物理的に保管されてる設定、もう完全に好みです。主任の「人類全体の未来が消えたら世界が止まる」って台詞、めちゃくちゃ心に響きました。それで夢が消え始める流れ、抽象と具体の境目が曖昧になる感じがこの作品の最大の魅力ですね。 そしてこさめが夢の記録を見た瞬間の展開、鳥肌立ちました。まさか「特級案件」で「所有者候補」になるとは——これは続きが気になりすぎます。