怒涛のランチタイムを終えて、休憩室から自分の席に戻ると、クライアントとの打ち合わせで外出していた矢代チーフが帰って来ていた。
「お疲れさまです。おかえりなさい、チーフ」
そう声をかけると、
「ああ、ただいま、川嶋さん。ちょうどよかった、君に頼みたいことがあったんだ」
チーフからデスクへ呼ばれた。
「はい、何でしょう?」
「今日打ち合わせをしてきた、この新商品のプロモーションなんだが、君にサポートをしてほしいと思ってな」
言われて、チーフの机に広げられた企画書にザッと目を通してみた私は、
「……こんなに大きな案件をですか?」
と、驚いて顔を上げた。
それは、大手メーカーが大々的に売り出そうとしている新商品で、まだあまり実績も少ない私が扱うのには、やや重大すぎる一件にも思えた。
「……だからだ。割りとヘビーな件だからこそ、新たな未知数の戦力が欲しい。僕は、君ならやれると思う。……どうだ、やってみないか?」
メガネ越しの真っ直ぐな眼差しが、揺るぎのない信頼を物語っているようにも窺えて、これは受けるべきだろうと判断をして、「はい、頑張ります」と、その場で答えた。
「よし、頼んだ。じゃあこれは商品の資料だから、よく読み込んでおくように。ああ、それと……」と、チーフは思いついたように胸ポケットから抜いたシャープペンを資料の隅に走らせると、「そこは、読んだら消しておけ」そう私に耳打ちをした。
見ると、そこには、『8時 退社 一緒に帰ろう』と書かれていて、任された大きな仕事にガチガチに強張っていた肩の力がすぅーっと抜けて、代わりにふっと口元が緩んだ。
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