「美都、チーフから何か仕事を受けたの?」
手にした資料の束を、アミが隣の席から覗き込む。
「うん、けっこう大きめな案件で、私にやり切れるかなって……」
矢代チーフには即答で請け負ったけれど、いざ取り組むとなるとちょっぴり不安感が口をついた。
「だいじょぶだって。美都なら、やれるからって、チーフにもそう言われたんでしょ?」
「それは、そうなんだけど。せめてチーフの足手まといにならないようにしなきゃと……」
資料を見るにつけ、立ち込める不安と緊張感に、ついつい弱腰になりがちな私を、
「大丈夫だって」
アミが、もう一度そう励ましてくれる。
「それにチーフは、美都が足手まといになるなんて少しも考えてないだろうし、むしろ率先してやってほしいって、そう思ってるんじゃない?」
にっこりと笑って話す、彼女のはつらつとした笑顔に、さっきのチーフの真っ直ぐな眼差しが、重なって映るようにも感じられると、もやもやとくすぶっていた不安がにわかに晴れていくようにも思えた──。
「ありがとうね、アミ。頑張るね、私」
「うん、その意気だって!」
アミは片手を拳に握って見せると、
「きっとチーフは、美都にはもっと上に行ってほしいと思ってるんだよ」
もう一方の手で、私の肩をポンと叩いた。
「上に……?」
「そう、チーフはプライベートではもちろんだけど、仕事でも美都を買ってるんでしょ?」
彼女の問いかけに、以前に元彼に言い寄られた際に、
『僕は、彼女の仕事ぶりを評価している──』と、面と向かって告げた彼の一言が思い出された。
「うん……」その後に続けられた、『そんな言い方しかできないのでは、彼女のことを何も理解していないとしか思えないな』という言葉も付随して浮かぶと、顔がほんのり赤らむのと同時に、改めて彼から寄せられる信頼が、深く胸に沁み入るようだった。
「ね、美都。チーフはきっともっと昇進するだろうし、その時には美都に右腕になってもらいたいとも考えてるんじゃない。それこそ、次のチーフは、君でって感じで。よっ、川嶋チーフ!」
もう一度、肩が叩かれる。
「そんな、まだまだだってば……」
「そう、まだまだだから、頑張るんでしょ」
どうして、いつも彼女は私の胸の内を汲んでくれて……。
「ありがとうね、アミ」ちょっと涙が滲みそうになりながら、再びそう告げると、霞のように覆われていたネガティブな気持ちがすっかり消し飛んで、頑張ろうという前向きな思いだけがみなぎっていた。
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