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「……待って、もう少しだけ」
ベルトを取り、前立てを開こうとするのを、「もう、いけない……」と、彼の手が止める。
「……キス、して。貴仁さん……」
実は自分からアプローチをしたようなことは一度もなくて、隠し切れない動揺をせめても呑み込もうと、唇を押し付けキスをねだった。
「……彩花、キスまでに、しといてくれないか」
口づけとともにこぼれる、低くせがむ声が艶っぽくも聴こえて、よけいに煽られているようにも感じる。
「……少し、触るだけ」
ウエストを締めるボタンを外し、開いた前立ての隙から手を挿し入れると、それは固く熱を持っているようだった。
「も、う……ダメ、だ」
制止させようとする、掠れ気味な声を、
「ねぇ、だってこんなに……」
押し切る思いで、直に手で触れた。
「……ふ、うっ……」
薄く開いた彼の唇から、堪えていたのだろう切なげな吐息がこぼれ出る。
「私の前では、我慢なんてしないで……」
手の中に握り込んで、緩く次第に速く摩ると、
「……んっ、ああ」
私までがたまらなくなるような声音が、耳をついた。
「……感じて、貴仁さん……」
動きをより強め、追い上げていくと、
「……っは、う」
程なくして、彼がひときわ極まった声を喉の奥から迸らせた。
「……。……ハァ、彩花……っ」
冷めやらない余熱に、普段の彼からは想像もつかないくらいに激情的なキスが責めつのる。
幾度となく互いをくり返し求め合い、辛うじて息をつくと、
「……感じさせてくれて、うれしい。それじゃあ、私の方もシャワーを浴びてくるから、そうしたら今夜はここに泊まろう」
彼がコツンと額をくっ付けて、鼻の頭にチュッと軽く唇で触れると、バスルームへ立って行った。
「……あんなこと、初めてしてみちゃった」
背中を見送り、小さく独り言を口に出す。
「……でも、まだあと少しだけ……」
感じさせられることはできたけれど、最後にまでは結局は至らなくて、こうなれば彼がシャワーから上がってきたら、次こそはきっとクライマックスまでだって……。
──と、意気込んでみたものの、やっぱりお弁当作りの早起きが尾を引いていて、私は彼を待つことなく、気づかないうちにまたすっかり寝入ってしまっていた……。