テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
夜の街は静かだった 。
昼間は人で溢れる繁華街も 、 この時間になるとネオンだけがやけに明るく見える 。
人間たちは家路を急ぎ 、 路地裏には誰も近づかない 。
そんな夜を 、 一人歩く影があった 。
黒いロングコート 。
月明かりを受けて揺れる銀色の髪 。
赤い瞳 。
誰にも気づかれず 、 誰にも見られず 。
夜だけを生きる吸血鬼 ―― 葛葉だった 。
「 …… 腹減った 。 」
小さく呟く 。
今日は少し遠回りをして帰ろう 。
そんな気まぐれだった 。
だから 。
その路地裏に入ったのも 、 本当に偶然だった 。
ガサッ
小さな物音 。
葛葉は足を止める 。
猫かと思った 。
視線を向けると 、 そこにいたのは一人の青年だった 。
壁にもたれ 、 膝を抱え込んで座っている 。
薄いパーカーは雨で濡れ 、 肩は小さく震えていた 。
顔色も良くない 。
「 …… 。 」
葛葉は少しだけ見つめる 。
人間 。
それ以上でも 、 それ以下でもない 。
関わる理由はない 。
そのまま通り過ぎようとした 。
「 …… っ 。 」
青年の身体がふらりと傾く 。
壁から滑り落ちるように座り込んだ 。
「 …… はぁ 。 」
葛葉は深くため息をつく 。
「 最悪 。 」
そう言いながら踵を返した 。
「 …… おい 。 」
返事はない 。
肩を軽く叩く 。
反応がない 。
「 、 寝てんのか ? 」
違う 。
呼吸は浅く 、 額は熱い 。
熱がある 。
それに 、 まともに食事もしていないような細い手足だった 。
葛葉は眉を寄せる 。
「 面倒だな …… 。 」
そう呟きながらも 、 青年を抱え起こす 。
軽い 。
思っていたよりずっと 。
「 ちゃんと食ってねぇのかよ 。 」
青年はうっすら目を開けた 。
青色の瞳が 、 ぼんやりと葛葉を映す 。
wn
「 …… 誰 。 」
「 知らなくていい 。 」
短く返す 。
wn
「 …… ごめん 。 」
「 何が 。 」
「 …… 重い 、 よね 。 」
その言葉に葛葉は思わず鼻で笑った 。
「 重かったら置いてく 。 」
そう言うと 、 青年は安心したように目を閉じた 。
完全に気を失った 。
「 寝んな 。 」
返事はない 。
葛葉はもう一度ため息をつく 。
「 ほんと面倒なの拾った 。 」
そう言いながらも 、 その足は自然と自分の屋敷へ向かっていた 。
街外れ 。
森の奥 。
人間は近寄らない古い洋館 。
大きな鉄門を開けると 、 静かな庭が月明かりに照らされる 。
「 久しぶりに客か 。 」
独り言を漏らしながら玄関を開けた 。
青年をソファへ寝かせる 。
額に触れる 。
「 熱いな 。 」
救急箱を持ってくる 。
慣れた手つきで擦り傷を消毒し 、 包帯を巻く 。
「 …… 。 」
吸血鬼になって何百年 。
人間を助けたことなんて 、 一度もなかった 。
なのに今日は 。
「 俺も歳か 。 」
誰に聞かせるでもなく呟く 。
その時だった 。
「 …… っ 、 」
ソファの青年が苦しそうに身じろぎをする 。
葛葉はコップに水を入れ 、 枕元へ置いた 。
「 起きたら飲め 。 」
聞こえるはずもない言葉 。
それだけ残し 、 部屋を出ようとする 。
「 …… ぁ 。 」
小さな声 。
葛葉は足を止める 。
青年は眠ったまま 、 誰かの名前を呼ぼうとしているようだった 。
けれど最後まで言葉にはならなかった 。
その表情は 、 とても寂しそうだった 。
葛葉は少しだけ目を細める 。
「 …… 帰る場所 、 なかったか 。 」
静かに毛布を掛ける 。
「 今日は寝ろ 。 」
その声は 、 自分でも驚くほど優しかった 。
暖炉の火が静かに揺れる 。
外ではまた雨が降り始めていた 。
青年はまだ知らない 。
自分を助けた相手が 、 人間ではないことを 。
そして葛葉もまだ知らない 。
この “ 気まぐれ ” が 、 自分の長い長い時間を少しずつ変えていくことを 。
336
#akg
ポレ
104
コメント
1件
うわあ、これは…冒頭から雰囲気がすごくいいですね。「夜だけを生きる吸血鬼」っていう導入が綺麗で、銀髪赤眼の葛葉が路地裏で倒れてる青年を見つけるまでが、まるで映画のワンシーンみたいでした。 何より好きなのは、葛葉が「面倒だな」って言いながらちゃんと助けるところ。何百年も人間に関わってこなかったのに、気まぐれで足を止めてしまう。そのギャップにグッときました。毛布をかけながら「今日は寝ろ」って言う声が優しいのも、彼自身驚いてるんじゃないかな。 あと、最後の「この“気まぐれ”が、自分の長い長い時間を少しずつ変えていく」っていう一文、すごく心に響きました。これから二人の間にどんな時間が流れるのか、すごく気になります!