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逃避行(短編集)

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逃避行(短編集)

1 - キリが無い迷いたちとポピュラーミュージック

♥

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2025年05月25日

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シリアス、多少のグロテスク描写注意

💙❤️







「あれ」

目が覚めると、目の前には真っ赤な液体と血に濡れた麻縄が近くに転がっていた。

「……?うーん……」

必死に記憶をかき集める。僕は昨日、何してたんだっけ。

「あー、思い出せない」

ふと手もとに目線を移すと、指先からぽたぽたと血が垂れていることに気づいた。

「あ、」

首を触ると、ガサガサとした感触がする。

この状況から察するに、また首を吊ろうとして……というか吊って、途中で苦しくなって……もがいてもがいて、縄から脱出したところで気を失ったのだろう。

たぶん、気を失ってからはそんなに時間はたっていないはずだ。まだ血液は固まっていない。

まあ、指先に付着している血はすこし固まっているものもあるから、気を失っているうちに身体中に傷をつけた可能性も否めないけど。

「……うっわ。ひど」

太ももと二の腕を見ると、案の定。惨い引っ掻き傷がたくさん。

だけど、これも僕の生きている証。

どんなに不安定だろうと、表向きに不安さえなければ平気なはずだから。

「え」

「!?」

中学生の頃からずっと一緒にいるからわかる。

よく聞き慣れた、この声。

「なん、……っ、若井……、?」

「玄関開いてたから……」

普段はそんなことは絶対にしないけど、それほどに昨日は疲弊していたのだろうか。

「……」

若井は部屋を一通り見回した後、僕のことをじろじろと舐めるように見てくる。

居心地が悪くなり、目を逸らした。

「元貴」

名前を呼ばれ、身体が恐怖に晒される。

「痛くないの?」

かけられた言葉はなんとも意外なものだった。

てっきり、なんでこんなことを?とか、悩みなら聞くよ。とか、そんなありふれた言葉だと思ったのに。

やっぱ、若井ってすごいんだな。

「痛くないよ」

「こんなに傷つけてさ」

「気づいたらこうなってたの」

若井は少しの間黙った後、自分の腕に爪を立てたかと思うと、ガリッ、と一思いに皮膚を裂いた。

「っ!」

見ていられなくて、目を瞑る。

「なんで目瞑るの」

「いっ、痛そうで……」

「痛くないよ。元貴とお揃いだから」

目、開けて?、と、言われるも、首をぶんぶんと横に振る。

痛いのはだいっきらいだ。

突然、生ぬるい感触が頬に伝わる。

思わず目を開けてしまった。これが良くなかったのかもしれない。

「かわいい」

今までにないほど、酷く優しい声で囁かれ、酷く優しい瞳をした若井と目が合う。

「……ぁ、」

目が、離せない。拘束されているわけではないのに。

僕の頬に添えられた手は、鮮血が付着していた。

僕の傷からは血が止まっていて、指先の血も固まり、黒くなっている。

「ぇ、あっ」

若井が僕の手を引き寄せたかと思うと、ガリッ、とさっきみたいに皮膚を裂いてきた。

不思議と痛くない。むしろ心地が良かった。


ちゅ、と指先にキスをされた。


鮮血が床に流れ落ちる。


「手、ほら」


真っ赤な掌をこちらに向けてにこにこと微笑む若井。

遠慮がちに掌を合わせると、ぎゅ、と指を絡められ、強く握られた。

互いの鮮血が混ざり、重力に負けてゆく。

「これで俺たち、おんなじだね」

こんなにも美しい血液を見たことがあるだろうか。

きらきらと朝日に照らされて、宝石のようにきらめく。

「泣かないでよ」

悲しいわけでも、痛いわけでもない。

なら、この涙はなんだろう。


「元貴の傷は、俺の傷だから」


人生の酸いも甘いも、

互いの引っ掻き傷をも愛して。


血はなかなか止まらない。

そりゃあそうだ。こんだけ深い傷ならば。

……若井は、僕のことをこんなに深く想ってくれてたんだ。


嬉しい。


嬉しい。


嬉しい!


「幸せだね」

「そうだね」


軽いキスを何度も交わす。




醜く汚れた世の中を、今だけはふたりの色で彩って。











グロ耐性ないけど好きなので顰めっ面しながら書いてました。


テーマ:血濡れの指に口づけを

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