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🎡天神みねむ チャン
かもめ学園の旧校舎、三番目の女子トイレ。夕暮れ時の茜色が、窓ガラスを通じて床に長い影を落としています。
変わらない距離
「ねえ、花子くん」
八尋寧々が、床を掃く手を止めて呼びかけました。
「なーに、ヤシロ」
花子くんは窓枠に腰掛け、いつものようにニヤニヤと笑いながら振り返ります。
「私、最近思うんだけど……」
「うん」
「花子くんって、本当に私のこと好きなの?」
寧々は、大根足を少しモジモジさせながら、持っていたホウキを握りしめました。
いつもからかわれてばかりで、本心がどこにあるのか分からなくなる瞬間が、彼女にはよくありました。
突然の沈黙
花子くんの笑顔が、一瞬だけピタリと止まります。
怪異である彼にとって、生者である寧々への想いは、優しさであると同時に酷な現実でもありました。
彼は窓枠からふわりと飛び降りると、足音もなく寧々の目の前に着地します。
「……どうしてそんなこと聞くの?」
少しだけ低い声。
いつもの悪ふざけのトーンではありません。
寧々はドギマギして、思わず一歩後ろに下がろうとしました。
しかし、その前に花子くんの冷たい手が、寧々の手首を優しく、けれど拒めない強さで掴みます。
本音の温度
「ヤシロはさ、俺が他の女の子にもこんなことしてると思う?」
至近距離で見つめ合うふたり。
花子くんの琥珀色の瞳が、夕暮れの光を反射して怪しく、そして切なく輝いています。
「……分かんない。だって花子くん、いつも意地悪ばっかりするし」
寧々は顔を真っ赤にして、視線を逸らしました。
花子くんは小さくため息をつくと、掴んでいた手首から、そっと彼女の頬へと手を滑らせます。
怪異の肌はひんやりとしていて、寧々の熱い体温とは対照的でした。
「意地悪したくなるのは、ヤシロの反応が可愛いからだよ」
花子くんは顔を近づけ、寧々の耳元で囁きます。
「俺が好きなのは、世界中でヤシロだけ。……これで信じてくれる?」
生と死の境界線
寧々の心臓が、トントンと激しく鐘を鳴らします。
嬉しさと、怪異を好きになってしまったというちょっぴり切ない気持ちが、胸いっぱいに広がっていきました。
驚いた寧々を見て、花子くんは満足したように、またいつもの少年のような悪戯っぽい笑顔に戻ります。
「ほら、赤い顔して。やっぱりヤシロは可愛いね!」
「もうっ! すぐそうやってからかうんだから!」
寧々はホウキを構えて怒ったフリをします。
ふたりの笑い声が、放課後の静かなトイレに響き渡りました。
生者と怪異、決して交わらないはずのふたりの、けれど確かに繋がっている、甘くて少し切ない放課後のひとときでした。
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