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三人を連れて家に戻り、優香に会わせた。彼らのことを説明するとあっさり了承され雨宮家の管理する一軒家があるから好きに使えと言われた。その一軒家に向かう途中、私と三兄弟は改めて自己紹介をしあった。三兄弟の名前は上からヒロト、アキラ、コウタ。ヒロトとアキラはすぐになついてくれたがコウタはそうもいかなかった。きっと散々痛い目にあったからだろう。大人は危険なのだと、その身と心に刻まれたのかもしれない。しかし、今度は大丈夫だろう。なぜなら新しい家は凪街から電車で三十分程かかる田舎街。そう簡単にほいほい行けるような場所ではないからである。それに三人を守れるよう警備システムも張り巡らせた。
「見えてきたぜ。」
「わあ……っ!」
新しい家はなんとも大きく立派な二階建てだった。住宅街の中でもひときわ目立っている。
「これは……目立つのでは。」
「大丈夫だろ、警備システムもあるし、交番も近いし。」
歩いて十分くらいのところに交番があるのを確認し、車から荷物を取り出した。
「広い広ーい!」
三兄弟のうち二人はまだ幼いからかはしゃいでいる。コウタはそれに入っていないが。三兄弟の中でもそれが大きな差だった。
「コウタ君の精神年齢は大人だねぇ。」
「ふん。」
いやただ単にクールなだけでは。
「ほら、荷物入れるから手伝って。」
「はーい!!」
二人は元気のいい判事をすると車から荷物を取り出すべく走っていった。
「おい、ここは本当に安全なんだろうな?」
コウタは私にそう聞いてきた。
「そうだけど、どうして?」
「別に…あの二人が危害にあわないかそれだけだ。」
なんだ、二人を守りたかっただけなのか。そう思い知らされた私はコウタの頭をなで、もう一度ここなら大丈夫と言い聞かせた。彼は「それならいい」と一言残し車に戻っていった。そしてすべての荷物を運び終わり優香たちと別れると、近くのホームセンターで必要なものを買い、スーパーで夕食の買い物を済ませて家に帰った。
夕食後、私は大事な話を伝えることにした。
「ねぇ、三人共。私ね、あと一年もしないうちに死ぬんだ。」
「えっ。」
「そういう病気でね。」
ヒロトとアキラは動揺していたがコウタは冷静に聞いていた。
「じゃあなんで俺たちを引き取ったんだよ。いくらなんでも無責任すぎるだろ。」
「うん、ごもっともだね。でもね、三人に私のすべてをささげたいって思ったんだ。」
これは私のエゴだ。まったくなんて自分勝手なんだろうと自分でも思ったがそれでも三人を守りたいと思ったのは事実だ。
「私は死ぬと星屑になって散る。その星屑は高く売れるからそのお金で今後も生活していけるし、君たちを大学まで行かせることもできる。」
「そんな……っ。」
「私が死んだあとは優香に任せてあるから安心して。」
「それならいいけどよ……」
するとヒロトがすっと立ち上がる。
「じゃあ、それまでいっぱい思い出作らなきゃ!」
「そうそう!新しい遊園地とか水族館とか行こうよ!」
「ふふ、そうだね。」
この子たちには私のエゴに付きあわせるお詫びにたくさんの思い出を作ってあげないと、と思っていた。しかしコウタは私たちが楽しく話している間こちらをじっと見つめ、まるで品定めをするかのような目をしていた。
次の日曜日、浜浦駅の近くにできたというテーマパークにやってきていた。春川組の親父さんが気を利かせ護衛として獅子合をつかせてくれた。佐山さんが荷物持ちでもなんでもやらせてやってと言ってくれたので、ここはご好意に甘えることにした。
「三人共、よろしくな。」
「よろしく、兄ちゃん!」
ヒロトとアキラはすぐに打ち解けたようだ。だが問題はコウタのほうで……。
「コウタ、このお兄さんは大丈夫だよ。」
「……あぁ。」
コウタの警戒心は最大だろう。仕方ない。彼は獅子合のことをじっとにらみつけている。
「ほう、俺をにらみつけてくるとはな。なかなか肝の座ったガキじゃねぇか。」
獅子合はコウタの頭をわしゃっと撫でてやった。
「なでんなっ」
そう抵抗するコウタもかわいく見える。
「どこから行く?」
「俺ジェットコースターに乗りたい!」
ということでジェットコースターから順に乗っていくことにした。コウタは乗りたくないそうなので獅子合と共にいてもらい、私とヒロトとアキラで乗ることに。
「俺たちこれ乗ったことないんだよー!」
「そうなの?」
ジェットコースターは比較的すいていてすぐ乗ることができた。まぁ、平日のテーマパークなんてこんなもので。
「いってらっしゃい!」
ゆっくりと上昇していく。二人は平気そうな顔をしていた。
「お姉ちゃん手を上げて!」
「え?うん。」
ジェットコースターではこれが二人にとって定石らしい。まぁほかに人もいないし思いっきり手を上げてみる。そして一気に降下する。
「わぁーっ!!」
本当に楽しそうだ。連れてきてよかった。と心からそう思う。
その後帰ってきた私は青い顔をしていた。
「死ぬかと思った……」
「どうやら玲子にも怖いものはあるらしい」とつぶやいた獅子合をにらみつける気力なんて残っていなかった。一方、ヒロトとアキラはコウタを連れてもう一度乗る気満々だ。
「今度は三人でいってこい。俺たちはここで待っているからよ。」
「はーい!!」
そう返事をすると三人はジェットコースターのほうへ行ってしまった。
「ねぇ、獅子合。」
「んー?」
「コウタとなに話していたの?」
「別に大した話はしてねぇよ。」
私は「ふーん」と、獅子合のことを見つめていた。なにも話していない……それにしては顔が赤い。
「何照れているのよ。」
「ばっ、俺が照れるわけねぇだろ!」
「にしては顔が赤いよ?」
獅子合はそっぽ向いて煙草をふかし始めた。
「……なぁ玲子。」
「なぁに?」
「お前はさ……その……俺のことどう思っているんだ。」
「危なっかしくてよく怪我してくるやつ。」
そう答えると獅子合はずっこけた。
「でもねー。かっこよくて強くて優しい人だなって思っているよ。」
そう言うと獅子合は照れくさそうにまたそっぽを向いた。
「また照れた。」
「だから照れてねーって!」
そんなことを話している間に三人が帰ってきた。
「玲子さん、大丈夫?」
「大丈夫。もう平気だよ。」
「あんたは何やってんだ?」
「なんでもねぇよ!」
獅子合は顔を真っ赤にしながらそう叫んだ。真っ赤になっていた理由は私にはさっぱりだった。
そしてまたほかのアトラクションにも乗るべく私たちは動き始めた。お化け屋敷やコーヒーカップ、メリーゴーランドを周り、最後に観覧車へ乗った。
「よかったね、買ってもらって。」
「うん!」
ヒロトとアキラとコウタの手には獅子合に買ってもらったぬいぐるみが大事そうに握られていた。外を見ると日はもう落ちそうで夕焼けがきれいに見える。
「きれいだね。」
「あぁ……」
獅子合と二人で見つめているとその様子をじっと見つめていたヒロトたちも夕焼けのほうを見る。しばらくして、ヒロトとアキラがこちらの顔を見てきた。
「なんだか玲子お姉さんがきれいに見える!」
「えーそう?」
「見えるって!な、獅子合お兄さん!」
「ん?あぁ、そうだな。」
獅子合もヒロトとアキラの言葉に同意した。私は照れくさそうにヒロトの頬をぐりぐりする。
「もーやめてよ、三人とも!」
コウタは獅子合の顔が赤く染まっていることに気が付いた。ほかの人なら夕焼けと間違えるほどほんのりとした赤色だ。
(あとでからかってやろう)
後部座席では、三人がぐったりと体を預けるようにして眠っている。長い一日だったのだから、当然だろう。
「そういえば、こいつらの学校っていつからなんだ?」
運転席から獅子合がぼそりと尋ねた。
「予定では、明日からだね。」
「……本当に大丈夫なのか、養育費。」
信号で車を止めると、獅子合はちらりと助手席の私を見た。
「大丈夫! 私の星屑が高値で売れるってことは知ってるでしょ。」
優香が今まで私から集めた星屑を、日本だけでなく海外のバイヤーにも売っていた。それが想像以上の値をつけ、合計で一千万円ほどになったと聞いたときは驚いたものだ。
「それならいいが……」
獅子合はまだ納得しきれていない様子だったが、私は続けた。
「それに、私のお給料もあるしね。」
今まで優香の事務所で働いていた分の給料。ほとんど使わずに貯めていたおかげで、生活には十分な額がある。
獅子合は黙ったまま、ハンドルをぎゅっと握りしめる。
「いいか、お前の星屑は、この三人のためだけに使えよ。」
「ん? そのつもりだけど……どうして?」
「……お前の星屑の金が、汚いことに使われるのが嫌なんだよ。」
その言葉とともに、彼の顔が険しくなる。まるで鬼のような形相に、一瞬息が詰まった。
「う、うん……」
私は思わずたじろいだ。でも、それだけ私のことを思ってくれているのだと気づき、胸が少し温かくなった。
「りょうが。」
「あ?」
彼の名前を呼ぶと、ぶっきらぼうな声が返ってくる。私は躊躇なく彼の頬をつねった。
「そんな怖い顔しないでよ。」
「あ、あぁ……悪い。」
彼の顔つきは、昔よりずっと鋭くなった。極道になったせいだろうか。もう、昔のような優しい笑顔を見せてくれることはないのかな……。
「りょうが、これからの予定は?」
「あぁ……これから兄貴たちのところに戻って報告する予定だが。」
「そっか。じゃあ明日、この子たちを学校まで送っていってよ。初日だしさ。」
彼は一瞬考えたあと、ふっと微笑んだ。
「あぁ、わかった。」
その笑顔を見て、少しだけほっとした。