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次の日の朝、みんなで朝食を済ませた後、獅子合は三人を学校まで送り届けた。「じゃあ、行ってくる!」

「いってらっしゃい、気をつけてね。」

玄関先で見送ると、三人は少し緊張した様子で学校へと向かっていった。獅子合の車が見えなくなるまで見送ってから、私はゆっくりと家の中に戻る。

彼らが帰ってくるまでに、やるべきことを片付けておかなければ。

布団を干して、食器を片付けて、掃除をして――やることは山ほどある。でも、それらを淡々とこなしていけば、余計なことを考えなくて済む。

「……よし」

気合を入れ直して、まずは食器を片付けようとキッチンへ向かう。だが、その瞬間。

――ズキンッ……

鋭い痛みが走り、胃の奥がひっくり返るような感覚がした。思わず口を押さえ、足元がふらつく。

(やば……)

次の瞬間、込み上げる吐き気に耐えきれず、私は洗面所へ駆け込んだ。

「っ……うっ……!」

込み上げるものをすべて吐き出す。洗面台の中に広がるのは、きらきらと光る星屑――いつものことだ。

しかし、今日は……

(……多い……)

吐き出した星屑の量が、今までよりも明らかに多い。手を震わせながらそれを見つめる。

――二十五歳の誕生日まで、あと九か月。

「……もう長くはないか……」

絞り出すようにそう呟いた。

私は、自分の運命を知っている。

星屑を吐くたびに、少しずつ命が削られていく。昔はこんなに頻繁じゃなかった。でも、ここ最近は回数も量も増えている。あとどれくらい持つのか……それは、もう考えるまでもない。

(死ぬ前に、やることは全部終わらせなきゃ……)

そう思いながら、洗面台の中の星屑を静かにかき集め、袋の中へ詰める。袋はもうすぐ満タンになりそうだ。そろそろ優香に頼んで売り払ってもらわないと。

その時、ポケットの中の携帯が震えた。

(春川組……)

画面に表示された発信者名を確認し、ため息をつく。こんな時間に電話をかけてくるなんて、きっと何かあったのだろう。覚悟を決め、通話ボタンを押す。

「はい、玲子です。」

「玲子か。」

低く落ち着いた声が耳に届く。春川組の首領、春川直也。

「どうしたんですか?」

「明日の予定は?」

「子供たちを見送った後は暇ですけど。」

「そりゃあちょうどいい。」

春川は一拍置き、重々しい口調で続けた。

「夏海組の首領、夏海文雄殿が病死した。」

「……そうですか。」

驚きはしなかった。夏海文雄はすでに八十代後半。いつ亡くなってもおかしくない年齢だった。だが、それでも一つの時代が終わったのだという感慨が胸をよぎる。

「それで、葬儀と次の首領を決める襲名式が行われる。優香と共に参加してくれないか。」

夏海組は歴史ある組織だ。首領が変わるということは、組の体制が大きく変わる可能性がある。その場に呼ばれるということは、私たちにも関わる話が出てくるということだろう。

「……わかりました。参加します。」

「頼んだぞ。明日の十一時からだ。」

「了解しました。」

通話が切れた後、私は静かに携帯を置いた。

(夏海組の次の首領……誰になるんだろう。)

新しい首領がどんな人物かによって、これからの情勢は大きく変わる。私は、ふと吐き気の余韻が残る胃を押さえながら、遠くを見つめた。

私が夏海組の葬儀に参加する理由は単純だ。夏海組と雨宮家には深いつながりがある。そして、実のところ、この都市に存在するすべての極道と雨宮家は密接な関係を持っている。

この都市は、四つの街から構成されている。それぞれ異なる特色を持ち、独自の文化と歴史を育んできた。

◉ 凪街(なぎまち)

この街は職人街として知られ、刀鍛冶や武具職人が多く住む地域だ。古い建物が立ち並び、戦後の面影を色濃く残している。かつては無法者がはびこる荒れた街だったが、雨宮家の手を借りて春川組が結成され、治安が改善された。現在は春川組が夜の巡回を行い、道場を運営することで街の秩序を守っている。

統括する組:春川組(武闘派、剣術に長けた者が多い)

組織の特徴:地元の道場と連携し、自警団を育成。都市の防衛を担う剣士集団

主な施設:春川道場、雨宮邸、春川組の本拠地

◉ 燐街(りんまち)

京都のような町並みが広がる風情ある街。歴史ある神社仏閣が点在し、古い茶屋や料亭が軒を連ねている。伝統を重んじる夏海組がこの街を統括し、厳格な秩序を保っている。夏海流と呼ばれる独自の体術を持つ者も多く、戦闘力では春川組に次ぐ強さを誇る。

統括する組:夏海組(武闘派、剣術と体術の両方を駆使する)

組織の特徴:地元の名士や神社関係者と密接に関わり、影の権力争いを制している

主な施設:夏海神社、燐街闘技場

◉ 阿奈街(あなまち)

この街は近未来的なエリアと古い工業地帯が混在する異質な空間だ。表向きはIT企業や研究施設が集まる先進的な地区だが、裏では極道が暗躍する危険な地域でもある。ここを統括するのは頭脳派の秋葉組。ハッキング、諜報、スパイ活動に長け、情報戦を得意とする。

統括する組:秋葉組(情報戦・ハッキング・スパイ活動に特化)

組織の特徴:都市全体の監視を担い、警察以上の情報収集能力を持つ

主な施設:阿奈タワー(秋葉組の本拠地)、ナイトマーケット(闇市場)

◉ 香里街(こうりまち)

繁華街が広がる華やかなエリア。歓楽街としても有名で、キャバクラ、クラブ、劇場などが立ち並び、多くの観光客が訪れる。表向きは賑やかな街だが、裏では常に派閥争いや敵対勢力の暗躍がある。この街を守るのは冬木組。彼らは春川組や夏海組に次ぐ武闘派で、組織内には個性派の猛者が揃っている。

統括する組:冬木組(武闘派、戦闘スタイルが読めない者が多い)

組織の特徴:歓楽街の管理を行い、風俗店やクラブを巡回し無法者を排除

主な施設:香里劇場、地下闘技場


この都市は警察の存在だけでは秩序を維持できない。特に夜の世界はあまりにも混沌としており、警察の力では手に負えない領域が広がっている。そこで、各組は「守代」と呼ばれる資金を夜の店から受け取り、街の巡回を行うことで安全を確保している。

各組の主な構成は以下の通りだ:

首領(組のトップ)

若頭(首領の右腕、組の実質的な指揮官)

幹部(組の中核メンバー)

舎弟頭(舎弟たちをまとめる役)

鉄砲玉(命令を受け、戦闘や暗殺を遂行する者)

この都市の秩序を守るため、かつて敵対していた組同士も一つにまとまり、共存する道を選んだ。それを実現させたのが、先代の雨宮家当主だ。彼は各組の首領たちを説得し、一つの都市として協力し合う体制を築いた。まるで薩長同盟のような歴史的和解を成し遂げたのだ。だからこそ、私は夏海文雄殿の葬儀に参列しなければならない。雨宮家の一員として、この都市を支える者の責務として。

ヒーローは夜空に散る

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