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私はテーカップでぽつぽつの雨を受けとめながら、角田とカジキマグロを引きずって話していた。
「そうだよ。気付いたらさっきの橋の上で、倒れていたんだ。その前はスーパーで仕事していたんだが、あんまり暑くて喉が渇いて……解るだろ」
「解ります。俺たちも考えていましたよ。角田さんお腹の調子は?」
私は角田の腹部に目を向けると、グルグルとなっていた。
「腹が減ったんだよ、きっと……」
角田は青い顔で力強く頷いて、自分に言い聞かせていた。
「それより、赤羽君。左肩は大丈夫だったか」
「ええ。元の世界では苦労しましたが、この世界へと来たら不思議と治りましたよ。今では痛みはまったくないです」
「それと、あんな恐ろしい場所から戻れて……本当に感謝しているよ。ありがとな」
角田は頭を私に下げてから、立派なカジキマグロを見て、
「この世界って、いったい何なのかな。こんな魚も生きているんだから、住んでいる人も探せばいるんじゃないのかな?」
「そうですね。人間は俺たちだけってこともないかも知れないですね」
「もし、ここが快適だったら、住んでみるのもいいかもな。税金もないし、水や食料に困らなければ、住めば都かも知れない」
「そうですね……」
角田は角田なりに考えがあるのだろうが、私の中ではこの世界が人が死ぬような邪悪な造りになっている感じがしていた。ただの呉林の影響かも知れないが……。それとも、意識と無意識の挟間のルーダーとカルダが関連しているのだろうか……。
私たちはやっと、雨が止んでしまった芝生の上を歩いて、東にある休憩所に辿り着いた。
休憩所は広大な池に囲まれ、中と外は円形な形になっている。中央の質素な木製の丸テーブルには、5・6人くらいの席があり、外と内を隔てるドアは一つだけ、地平線が見える大きい窓は四方にある。奥にはガスが出るキッチンがあった。その中に、渡部がいた。
渡部は丸テーブルに乗っかって、フライドチキンの骨とペットボトルのお茶を持って、涼しくなりそうな歌を歌っていた。
「……」
角田は渡部のフライドチキンの骨を目に入れ、決して放そうとしない。
「渡部……」
私は今までの人生で、一番くらいの苦労を思い出していた……。