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【第1話:静寂の日常(プロローグ)】
「なんで生きてんのかって?……そんなの、俺にもわかんねぇよ。」
春の午後。
窓から差し込む柔らかな光と、教室に響くクラスメイトの何気ない会話。
高校2年生の黒岩竜一は、どこにでもいる普通の男子生徒――の、はずだった。
いや、どこか少し違った。
放課後になっても居残るわけでもなく、何かに打ち込むわけでもない。
何もせず、ただ日々を“やり過ごして”いるような青年だった。
「おーい、竜一~!帰んぞ!」
クラスメイトの近藤翔太が、教室の後ろから声をかけてくる。
竜一は軽く手を上げて答える。
「悪い、先帰っててくれ。ちょっと保健室寄る。」
「また腹でも痛ぇのか? ま、気をつけろよ。」
翔太が去ったあと、竜一は静かな教室に1人取り残される。
窓の外では桜が風に舞い、街の喧騒すら遠ざかっていた。
彼の机の端には、1枚の古い写真が挟まれていた。
5人の笑顔が並ぶ――中学生の頃の集合写真。
その中の1人、黒髪ロングで穏やかな笑顔を浮かべた少女に、竜一の視線が吸い寄せられる。
星野ミク。
2年前、突然この世を去った元クラスメイト。
「もう、忘れろってのかよ……。」
竜一は目をそらすように写真をしまい、教室を後にした。
⸻
――夜
「……あれ?」
気づけば、竜一は知らない“部屋”に立っていた。
四方を囲む石造りの壁。
暖房もなく、薄暗く、かすかにカビ臭い空気が漂っている。
中央には、一台のベッド。
窓もない。扉も見当たらない。
まるでこの空間だけ、何もかもを拒絶しているかのような感覚。
竜一は自分の体を見下ろした。
(夢……なのか?)
すると――。
「ゴォオォォォォ……」
遠くから、獣のような唸り声が響いてくる。
心臓が早鐘を打つ。
なぜか分からない。でも、“あれ”に見つかってはいけないと、本能が叫んでいた。
部屋の壁の一部が、ゆっくりと変形を始める。
まるで“向こう側”から誰かが這い出してくるかのように。
竜一は逃げ出した。
何がなんだか分からないまま、手探りで見つけた扉を開け、石の廊下へと走り出す。
天井から雫が落ちる音。
遠くで響く金属音。
足音ではない、“何かの這う音”。
(なんだよここ……!)
息を切らせながら走り抜け、やがて――
目の前に、ひときわ異質な扉が現れる。
白く輝く扉。
まるで出口のような、聖域のような……あるいは、死への入り口のような。
竜一はためらいながらも、その扉に手を伸ばす。
⸻
――バチン。
目を覚ました時、竜一はベッドの上にいた。
額には汗。全身は冷え切っていた。
(……夢、か……?)
だが、胸の奥に残る異常なほどの恐怖感は、ただの夢ではないと告げていた。
そして――このとき彼はまだ知らなかった。
明日の夜、彼と共に“あの館”へと引きずり込まれる2人目が現れることを。