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「あっ」
「あ?」
不意に横から聞こえて来た間抜けな声に、蓮は反射的に振り向く。すると、物陰から雪之丞が怯えた様子で顔を覗かせていた。
しまった。おかしなところを見られてしまった。
「ご、ごめんね。別に覗くつもりは無かったんだ……たまたま通りかかったら、凛さんとあまりいい雰囲気じゃなかったし、怒ってるみたいだから出るタイミング失っちゃって」
「いや、こっちこそすまない。変なとこ見せちゃったね」
苦笑いを浮かべながら謝罪すれば、雪之丞はブンブンと勢いよく首を左右に振る。
「だ、大丈夫! 子供みたいに壁を蹴って八つ当たりしてたことは誰にも言わないから!」
「あ、あーうん……。お願い、内緒にしておいてもらえると助かる」
子供みたいだと言われてしまって、流石に恥ずかしい。穴があったら入りたいとはこのことだ。
「ナギ君の配信、すっごい話題になってるね……。僕も見てたけど、びっくりしちゃったよ」
まだ自分は観てないから何とも言えないが、そこまで話題になっているのだとすると流石に笑えない。
「雪之丞も見てたのか……」
「……二人で飲んでたんでしょ? いいなぁ……。僕も混ざりたかったな」
「へっ?」
「あっ!? や、そ、そういう意味じゃないからね!? えっと、一緒に飲みたかったって意味だからっ!」
まだ何も言っていないのに、顔を赤らめながら一人でワタワタと言い訳をし始める雪之丞を見て、思わず笑ってしまいそうになるのを何とか堪えた。
「そういう意味って、どんな意味? 何を想像してたの?」
「あっ、や……、えっと……違くて……そのっ」
意地悪くそう尋ねると、彼は更に顔を赤く染めて俯き、モジモジと指先を擦り合わせ始める。
その仕草がなんだか可笑しく思えて、それどころではないのにもっと虐めてやりたいと思ってしまえばもう止められなくて、蓮はニヤリと口角を上げた。
「雪之丞はあの動画を見て何を妄想してたのかな? 気になるなぁ……」
「そ、そんなの言えないよぉ……」
泣きそうな声で呟いて縮こまってしまった彼に近づき顔を覗き込む。目が合うなりサッと逸らすものだから益々面白くなってしまって、つい調子に乗ってしまいそうだ。
「言えないような事? 何を考えてるか当ててやろうか? そんな事には興味ありませんって顔してんのに、いやらしいなぁ雪之丞は」
「……ッ」
耳元で囁けば、ビクッと肩が跳ね上がる。
そのまま耳に息を吹きかけてみれば、面白い位に身体が震えて、ぎゅっと服の裾を掴まれた。
「あ、あのっ、蓮くんっ……ちょっと、近いよ……」
「んー? そうか?」
「そうかって……あの、本当に……っ」
「……何二人してじゃれ合ってるの?」
「……っ!?」
突然背後から声を掛けられてハッとする。振り返ると、そこには呆れた表情のナギがいた。
「あ、ナギ君……おはよう」
「おはよ雪之丞。もうすぐ撮影始まるよ。早く支度しなよ」
「あっ、うん! すぐ行く」
何時になく硬い声でそう言って、自分には冷たい視線が突き刺さる。
「???」
何か気に障るような事をしたのだろうか? 不思議に思って首を傾げているとナギが蓮の服の袖をグッと引っ張って、耳打ちしてきた。
「心配してたのに……油断すると直ぐ浮気して……」
「は? 浮気?」
「あんな可愛い子に迫られたら、誰だってコロッといっちゃうよね」
ナギは何故か不機嫌なようで、唇を尖らせてぶつくさと文句を言っている。どうしてそんなに怒っているのだろう?
蓮には全く理解できなかった。
「え、いや……ちょ、待ってくれよ。僕がいつそんなこと……」
「今してたじゃん」
「してないって……」
「自覚なしなの? タチ悪いなぁ」
どうやら、無意識のうちに彼を怒らせてしまっていたようだ。
一体何が原因なのかはわからないが、とりあえず謝っておいた方がいいのだろうか。
だが、それよりも先に確認しなければならない事がある。
蓮はゴホンと咳払いをして、気まずさを誤魔化しながらナギに尋ねた。
「ごめん、悪かった。えっと、浮気してるつもりは無かったんだ。一つ聞きたいんだけど、友人をからかうのも浮気に入るのか?」
「~~~ッ! ばかっ!」
「いたっ」
ポカポカと背中を叩かれて思わずよろける。ナギはキッと鋭い目つきで睨みつけてくると、逃げるようにその場を離れていった。
(なんなんだ……?)
蓮はポカンと口を開け、その後ろ姿を見送っていたが、やがて大きなため息をついた。
「ねぇ。……二人は、付き合ってるの?」
「え? あ、ぁあうん。一応。流れ的にそうだね」
「……そか。ーーたんだ……」
雪之丞がボソリと何かを言った気がしたが、上手く聞き取れなかった。
「どうかしたのか?」
「ううん。なんでもない」
雪之丞はふるりと首を振ると、何処か寂しげに笑った。
「それより、僕らも急いで準備しないと。遅れると凛さんにドヤされるよ」
「あ、あぁうん。そうだね」
どこか寂しげに微笑む彼に疑問を抱きながらも、促されるまま足早にスタジオへと向かう。その間、雪之丞がこちらを振り返ることは無かった。
#せっ