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ある日の夜、仕事終わりに帰っていると、背後から何者かに後頭部を殴られ、そのまま気絶してしまった。その出来事を夢の中で思い出し、慌てて飛び起きる。知らない天井。辺りを見渡すと、隣にいた男が俺が目を覚ましたことに気づき、涙目になりながら駆け寄ってきた。
「大丈夫なの!?ほんと、心配したんだよ…いつもみたいに手、握ってもいい?」
男はそう言って、俺の手を握ってきた。その温もりに、なぜか安心した。
けれど、俺はその男にこう言った。
「貴方、誰ですか?」
俺はこの人のことを全く知らない。親しい関係だったのだろうか。
その言葉を聞いた男は一瞬驚いたが、すぐに柔らかく微笑み出した。
男「俺のこと忘れちゃったの?」
「ごめんなさい、誰だか全く…」
男「そっか…。俺の名前は輝樹だよ。君とは恋人なんだ。君は俺の大切な人で…君が忘れてても、俺は君のことを覚えてるし、君のことが大好きなんだ」
男「ほ、ほら! 見て。イルミネーションにデートしに行った時の写真。この時の君の笑顔も忘れられないんだ。…って、急に言われても戸惑うよね。ごめん」
「……」
男「ご、ごめんね! 俺、コーヒー作ってくるよ」
そう言って、男はキッチンへ向かった。
──この男の言っていることは本当なのだろうか。
俺が目を覚ました時、手を握ってくれた。その温かさは、どうしてか安心できた。
少しして、男はまるでカップルが買うみたいなお揃いのコップを二つ持って戻ってきた。
男「お待たせ! 熱いから気をつけてね。それで…俺の言ったこと、信じてくれる?」
俺は少し考えた後、口を開いた。
「ああ、信じるよ。輝樹が俺の手を握ってくれた時、とても安心したんだ。だから…輝樹は俺の恋人なんだって、思えた。ありがとう」
そう言うと、輝樹はぱっと笑顔になり、俺を抱きしめてくれた。
それから数日、俺と輝樹はたくさんデートをした。水族館、カフェ巡り、家デート。
色んなことをして、幸せな時間を輝樹と過ごした。
輝樹と遊園地に行った日の夜、夢を見た。
誰かが、俺に何かを伝えようとしている。耳をすませると、はっきりと聞こえた。
「その男は恋人じゃない」
「お前はその男なんて知らないんだ」
その瞬間、夢が途切れた。
はっと目を覚まし、着替えてリビングに向かうと、輝樹が朝食を作って待っていてくれた。
──俺は輝樹が好きだ。
だから、この夢の言葉を信じないようにしようと思っていた。ずっと、そうするつもりだった。
…なのに。
「お前、誰なの」
気づけば、俺はその言葉を口にしていた。
輝樹を見ると、穏やかだった笑顔が一瞬で消え、代わりに悪魔のような笑みを浮かべた。
「なんで、分かっちゃったの?」
その声に俺は困惑した。理解が追いつかない。
まさか、そう返ってくるとは思っていなかった。
けれど、震えながらももう一度聞いた。
「俺の恋人じゃないんだろ? なんなんだよ、お前」
輝樹はまるで楽しむように、ゆっくりと答えた。
「ああ、そうだよ。恋人じゃなかった。
君が俺を恋人にしてくれなかったから──
あの日、あの夜、背後からバットで君を襲った」
「…………は?」
「あの時、気絶した君に“俺たちは恋人だ”って思い込ませたんだよ。
なあ、俺こんなに頑張ったんだよ?
君を騙すために、君と俺のツーショットを偽造したりさ。
それなのに、なんで気づいちゃったの? 邪魔者でも入った? 誰? そいつ」
背筋が凍った。
俺は怖くなって家から逃げようとした。
けれど、玄関のドアは開かなかった。完全にやられていた。
俺を玄関まで追い詰めた輝樹は、また優しい声で話しかけてきた。
「ねえ、なんで逃げようとするの?
俺の恋人でしょ? なら、ずっといっしょに居てくれよ。
なあ、逃げられないだろ? 俺の恋人なんだからさぁ。
こっち来てよ。ギューってしようよ。俺の恋人くん♡」
ああ──誰か助けて。