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「……ああ、そうだな、彩花」
名前を呼ばれ、彼の胸の中に体ごと抱き寄せられる。
「ずっと、君不足だった……」
「あっ……」と、小さく声が漏れる。
私と同じことを、貴仁さんも想っていてくれた……。
「私も、同じように感じていて……。あなたに会いたくてしょうがなくて……」
スーツの背中にギュッと腕を回す。
「それは、とてもうれしいな……」
本当に嬉しそうなトーンで囁くから、耳がチリチリと熱くなってくる。
その熱を帯びた耳に、チュッと唇が寄せられる。
「……彩花」
唇を付けたまま再び名前を呼ばれると、耳の奥をくすぐるように彼の吐息が淡く吹きかかった。
「ここにも、して?」
と、唇を小さく突き出す。
画面の中でしか会えなかった彼が、直に私と向き合ってくれていることがまだ夢みたいで、もっと甘えたくて、普段はあんまりしないキスのおねだりをした。
すると、唇ではなく、彼の指先がふっと触れた。
「そこは、ベッドまで、おあずけだ」
不意の甘い囁やきに、棒立ちになっていると、
「だから、今は、ここにしといてくれるか」
首筋に食むようなキスをされて、今度はのぼせ上りそうにもなった。
「……心臓に悪いです……」
ドキドキと高鳴る左胸の辺りを、手の平でつと押さえて言うと、
「どうして……唇ではないのに?」
彼から至って真剣な風で問い返されて、
「貴仁さんのそういうちょっとピュアなところも、だいぶ心臓に良くなくて……」
小さな声でぼそぼそと答えた。
「聞こえない、何と言っていた?」
「いいの、聞こえなくて。どちらにしたって、あなたに翻弄されてるってことだから……」
彼の頬にふっと手を当てがう。
「翻弄されているのは、私の方だ……」
その手が取られ、引き寄せられたかと思うと、
手の平に唇が熱く押し当てられて、一瞬で全身が粟立つようにも感じた。
「貴仁さんの、いじわる……」
「いじわる? なぜ」
「だってこんな……、こんなのって……」
堪らない想いに駆られ、涙目に潤んだ瞼に、宥めるような口づけが落ちる。
「……わかっている。もう何も言わないでいいから」
開いていたドアを、彼が後ろ手にカチャリと閉めると、胸がドクンと高鳴った。