「君の心臓の音が、伝わってくる」
強く抱きしめられ、早まる鼓動を隠すこともできない。
「……恥ずかしいから、離して……」
真っ赤になって口にすると、
「……離してもいいのか?」
うつむいた私の顔を、彼が覗き込んだ。
「やっぱりずるい……そんなこと訊くなんて」
ささやかな抗議に上げた顔の、その顎の先が、彼の手に捕らえられる。
「……ベッドまで、我慢できそうにない。こんな私は、やはりずるいか?」
返事をすることも忘れて、ただただ見つめる私を、じっと見つめ返すと、顎が引き寄せられ、
やおら唇が重なった──。
ピュアだと思えば、急に情熱的にもなる彼に、胸の高ぶりは増すばかりだった。
込み上げる想いに衝き動かされるように、彼の着ているスーツの隙間に手を差し入れ、肩口から脱ぎ落とさせた。
上着がパサッと床に投げ出されると、
「さっきまでは恥ずかしがっていたのに、君はふいに積極的にもなるんだな……」
ネクタイに手を掛け解きながら、彼が口にする。
「それは、あなたも同じで……」
「私も?」
ネクタイを解いていた手を止め、彼が尋ねてくる。
「あなたがふいに情熱的になるんだもの……」
「……それは、君が魅力的だからだろう」
解き切ったネクタイをワイシャツの襟元に掛けたままで、彼が私を再び見つめた。
その、揺らめく炎が見え隠れするような、一意な眼差しに、
捕らえられて逃れられない、誘惑の虜になったようにも感じた──。
「もう寝るところだったのか?」
電気が点いているのが寝室だけなこともあって、彼から気づかわしげに尋ねられた。
「うん、だって、今夜もあなたは、早く帰らないだろうと思ってたから…‥」
「そうか、独り寝の寂しい思いをさせたな」
腰まわりを抱く彼の手に、ぎゅっと力が籠もる。
「ううん、いいの」
確かに独り寝の寂しさから、先ほどまで些細なことにジェラシーを感じていたりもしたけれど、彼が来てくれた今となっては、そんなことは全て吹き飛んでしまっていた。
「あなたがいてくれれば、もうそれでいいの」
「私にとっても、君は、」
彼はそこまで口にして、微かに息を呑むと、
「こうも離れがたく……愛しい」
もう一度、口吻けて、けれど今度は告げられた一語の通りに離れがたく、口吻けは甘く熱く深まった。
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