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「シリアルキラーの“愛言葉”」
第2話「おはよう」
目が覚めて、起き上がる。
見慣れない景色。30秒程経ち、やっと何処だか理解した。
隣にはやはりmenがすやすやと寝ている。
「…おはよう」
誰かと迎える朝は、初めてかもしれない。
少し、変な気分がした。
menは、日中もゴロゴロしている。
「ねぇ、仕事とかないの?」
「あー、俺村八分にされてるから仕事はないんだわ」
村八分?
まぁ、喜んで連続殺人犯を匿う変人なら、慣習を破るのは有り得なくはないだろう。
「じゃあ、昨日食べた野菜は…?」
「近くの爺さんの畑から盗んだ」
村八分にされた原因がわかった気がする。
こいつ、倫理観を捨ててしまっているんだ。
「この村、きまりが多くてやってらんねぇんだよな」
面倒くさがっている様子。
周りの型に嵌まらない人生は、それはそれで羨ましく思えた。
「いや、それにしても他人が頑張って育てた野菜を勝手に取るのはおかしいだろ‼︎」
そう反抗すると、menは吹き出して笑った。
「何がおかしいんだよ‼︎」
「いやー、人を殺す事に躊躇しない癖に、野菜を盗む事には怒るんだなって思ってさ。」
ひー、と目に涙を溜めて笑い転げるmen。
やっぱりこの人と居るとペースが狂う。
「まぁ、もういいだろ?」
「うっ…よくない…1ミリも…」
menは急に黙った。
俺も黙ってしまう。
「おんりーは、どうして人を殺めたんだ?」
「それは言えない。」
直ぐにそう返した。
これだけは絶対に言えない。
だって、きっとmenが悲しむから。
「…そうか。まぁ、いつでもいいから、いつか必ず教えてくれよ。」
「まあ、考えておくね。」
歯切れの悪い返事をした。
はっと、目が覚めた。
横を見ると、おんりーが居ない。
居間からカリカリ、とよくわからない音が聞こえる。
すっ飛んでいくと、おんりーはナイフの手入れをしていた。
「…men、起きちゃった?」
砥石の上で、ナイフを前後に動かして研いでいる。
「なんか可哀想だから研いでる。」
「へぇ。そうなんか。」
ずっと俯いてナイフを見つめているおんりーを、俺はただ見つめていた。
「奴がこの村にいるらしいですよ。」
「へぇ、そうか。それは危険だな。」
「どうしますか?所長」
「うむ、捕まえて処刑じゃよ。絞首刑かな、斬首刑かな、薬物でも良いぞ。」
ウキウキで奴の処刑方法を考えている所長。
「おんりー」とかいう奴を、早く捕まえたい。
「おんりー、おはよう。」
「おはよう。」
朝の挨拶はいつもの生活に組み込まれた。
俺も、menも、これまで一人暮らしだったから、少しだけやはり慣れない。
「あー、眠い…」
目をゴシゴシと擦ると、menが手を掴んだ。
「擦ると目が傷ついちゃうからだーめ。」
この人は案外優しい。
今まで優しくされた事があまりないから、不思議な感覚に襲われる。
貴方が手の包帯を取ると、まだ傷は痛々しいものだった。
これまで、生か死の、極端な2つしか俺の中にはなかった。
でも、その間の「大怪我」とか、「意識不明だけど生きている」とかを知った。
俺は最低だよね。
次回「おやすみ」