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最初に動いたのは、教師だった。
「……全員、その場から動くな」
声は低く、強く抑えられている。
だが、わずかな震えは隠しきれていなかった。
倒れ伏す少女――
教師たちだけが知る怪物を前に、誰もが言葉を失っている。
「……本当に……止まっている……」
「意識反応、なし……」
教師の一人が慎重に近づき、距離を保ったまま確認する。
生徒たちは、机の陰や壁際からその様子を見守っていた。
「先生……あれ……」
「もう、動かないよな……?」
リンクは、マスターソードを鞘に収めていた。
背中を生徒たちに向けたまま、警戒だけは解かない。
「怪我人は?」
「い、いません……」
「椅子が倒れただけで……」
その報告に、教師たちの肩からわずかに力が抜けた。
「……避難訓練ではない。これは――」
言葉を探す教師の横で、別の教師がリンクを見る。
「君……名前は?」
リンクは一拍置いて答えた。
「リンクです」
教室が、静まる。
「……転入生の……?」
「噂の成績優秀な……」
教師同士が視線を交わす。
驚きと、理解不能が混じった目。
「……君が、これを……?」
床に倒れた存在を指し示す声は、掠れていた。
「守りました」
リンクの答えは短い。
「生徒がいた。だからです」
それ以上でも、それ以下でもない。
リンクはポツリと呟く。
「俺は無傷なので大丈夫です。大した相手ではありませんでしたので。」
沈黙。
教師の一人が、深く息を吐いた。
「……全員、今日はこれで解散だ」
「教室を出る前に、順番に確認をする。勝手に帰るな」
「は、はい……」
「……分かりました……」
生徒たちは、倒れた怪物を横目に、静かに立ち上がる。
「……あの剣……」
「……リンク……だよな……」
囁き声が、止まらない。
リンクは、最後まで教室に残った。
教師たちが装置を展開し、
倒れた存在を“回収”の準備に入る。
「……こんな例は、記録にない」
「アリスを、学生が制圧しただと……?」
「……報告は、上へだ」
リンクは、その会話を黙って聞いていた。
やがて、一人の教師が向き直る。
「リンク君。今日は……部屋に戻りなさい」
「外出は控えろ。こちらから呼ぶまで」
「分かりました」
抵抗も、疑問も口にしない。
リンクは一礼し、教室を出た。
廊下には、まだ戦闘の痕が残っている。
割れた床、倒れた机、
そして――空気に残る違和感。
リンクは歩きながら、確信を深めていた。
(……やはり)
これは、
教育の場ではない。
試験も、成績も、規則も。
それらは、何かを隠すための膜にすぎない。
リンクは寮へ戻る途中、
シーカーストーンをそっと起動した。
――まだ、誰にも見られていない。
画面に、ゼルダへの通信準備が表示される。
(……報告しよう)
今日起きたことを。
この世界が、どれほど歪んでいるかを。
そして――
自分が、もう後戻りできない位置に立ってしまったことを。