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押し返した反動で持っていた鍵が落ちたが、そんなのもう、どうでもいい。俺の行動と言動に驚いた偉二さんは、冷静に聞く。
「なんで?僕、なんかしちゃったかな?ごめんね。僕の嫌なところがあるなら直すから。お願いだからそんな事言わないで」
悲しそうにそう言う偉二さんに俺は目も合わせずに言う。
「うるさい。俺は偉二さんなんて好きじゃない」
「…僕のこと、もう好きじゃなくなっちゃったの?」
「別に俺は最初から偉二さんのことなんて好きじゃない。だって、偉二さんがドルの力で好きにさせたから。だから俺は偉二さんのこと、本気で好きな訳じゃない」
「ちょっと待ってよ奏人くん。僕はドルの力で奏人くんのこと好きにさせたわけじゃない。絶対に」
「嘘だ。だって偉二さん、″僕のこと好きになってくれたら嬉しい″って言った後、寝てたでしょ?あの時ドルの力を使ったから」
「違う。それは違うよ奏人くん。奏人くんも覚えてるでしょ?あの時…」
そこで偉二さんの声が聞こえなくなった。口は動いているのに。あぁ、そっか。言い訳だから聞こえないんだ。全部全部嘘だから。俺には偉二さんの声なんて聞こえない。なにも。
「言い訳しないでよ。俺もう、偉二さんといられない」
「ちょっと待ってよ、まだ話は…」
「うるさい!もう俺に関わらないで。この嘘つき。偉二さんなんて、大っ嫌い」
俺は泣きながらそう言って家を飛びだした。泣きながら家に帰っていると、カフェの前に優樹がいた。俺は涙を拭って優樹に近づく。
「奏人、大丈夫?」
「優樹、まだいたの?」
「うん。奏人のことが心配でさ」
優樹は、俺の傍により、俺を抱きしめる。そして、頭を撫でながら言う。
「可哀想に。いっぱい泣いたんだね。大丈夫だよ。奏人には俺がいるから」
なんか、撫でられたら余計に泣きそうになった。それに、なんだかすごく寂しい。今は誰でもいいから縋りたい。そう思って俺は優樹の名前を呼ぶ。俺に呼ばれた優樹は抱きしめるのをやめて俺の顔を見た。
「なに?」
「…寂しい」
俺が俯いてそう言うと、優樹は俺の頭を撫でた。俺は自然と顔を上げる。
「俺の家においで。あいつのことなんて忘れさせてあげるから」
そう言って優樹は俺の手を取って歩き出した。優樹の家に着くと、優樹は俺の手をとったまま、すぐにベットに向かった。俺はベットに寝転がり、優樹が上から覆い被さる。そして俺と優樹の唇が触れた。
「奏人、好きだよ」
そう言ってニコッと笑った優樹は、再び俺にキスをした。
そして、全ての行為が終わった後、優樹は言った。
「これでまた俺の奏人になったね」
優樹は嬉しそうに微笑んだ。俺も微笑み返したけど、まだ、ドルの力が残っているのか、偉二さんのことで頭がいっぱいだった。
「ごめん、もう寝るね。なんか疲れちゃったのかも」
優樹はそう言って、俺の横に寝転がった。
「奏人も一緒に寝る?」
そんなに眠くは無いけど、もう今は何もしたくない。明日は定休日だし、別にいいか。
「…うん」
俺がそう返事すると、優樹は微笑んだ。
「おやすみ。奏人」
「おやすみ。優樹」
俺は目をつぶった。偉二さんともこうやってよく寝てたな。初めて一緒に寝た時はドキドキして一睡も出来なかったんだっけ。俺の頭にその時の光景が流れる。
何してんだ、俺。もう偉二さんのことは考えたくないのに。
次の日目が覚めると、隣に優樹が寝ていた。
そうか。昨日偉二さんと…。ちゃんと忘れないと。偉二さんのこと。
そう思っていたけど、どれだけ日が経っても俺の頭の中から偉二さんが消えることはなかった。カフェに偉二さんは来なくなったのに。ずっと偉二さんが好きなままだった。
優樹は俺が偉二さんのことを好きじゃなくなるまで交際は待ってくれると言ってくれた。今は昔みたいに変な関係だ。それでも優樹はいいって言ってくれた。俺の気持ちが変わるのをずっと待ってると。
それから長い月日がながれ、夏が来た。
俺は優樹の家で優樹と最近の暑さの話をしながら晩御飯を食べていた。
「ほんと、最近暑いよね〜」
「暑すぎ。昼間とか暑すぎてやばい」
「ほんとそれ。夜は昼よりマシだけど、やっぱまだ暑いよね」
「暑いよね〜…あっ、そうだ」
「なに?」
「夜で思い出したんだけど…」
優樹はそう言ってスマホを取り出す。少し待つと、とある写真を見せてくる。
それは掲示板に貼ったチラシの写真だった。
「…夏祭り?」
「そう!夏祭り!奏人と行きたくてさ、ほら、高校の時は行ったことなかったでしょ?」
「あぁ、そうだったね」
「どう?行く?」
「行こっか」
俺がそう答えると優樹は嬉しそうに笑った。
「やった〜!夏祭りなんて久しぶりだから楽しみ」
夏祭りか。久しぶり…って思ったけど、去年、偉二さんと行ったんだっけ。あの日、偉二さんは俺に告白してくれた。夏祭りはいじめっ子達のせいで台無しになっちゃったけど。
…夏祭り。いじめっ子。告白。
そこで俺はハッとする。そういえばいじめっ子を助けるために偉二さんはドルの力を使っていた。それの副作用であの時、″僕を好きになってくれたら嬉しい″って言った後に眠ったんだ。なんで俺、そんな大事なこと忘れてたんだろう。偉二さんは嘘なんてついてない。俺が勝手に勘違いしただけで、偉二さんは何も悪くないのに。俺は偉二さんになんてことを言ってしまったんだろう。
罪悪感で胸がいっぱいになる。
…謝らなきゃ。偉二さんに。
「奏人、どうかした?」
色々考えすぎて箸が止まっていたようで、優樹が心配そうに聞いてきた。
「あ…あの、それが、俺、勘違いしてたみたいで」
「勘違い?何が?」
「偉二さんのこと。あの日のこと」
俺がそう言うと、優樹は怪訝そうな顔をする。
「何言ってるの?勘違いなんかじゃないよ。あの人は悪い人なんだよ?もうあの人の話なんてしないで」
怒ってしまった。でも、ちゃんと説明しないと。偉二さんは悪くないって。
「あのね優樹、偉二さんはね、俺に告白する前に他のことに力を使ってたんだよ。だから、俺が偉二さんを好きなのは力のせいじゃなかったんだ」
「…そんなの、もうどうでもいいでしょ?今はもう俺と一緒なんだから」
ダメだ。どうでもよくなんかない。だって、全部俺が悪いから。なのに、偉二さんを傷つけた。ちゃんと謝らなきゃいけないんだ。俺は。
「ごめん、優樹にとってはどうでもいいのかもしれないけど、俺にとっては大事なことなんだ。だから俺、偉二さんに謝ってこなきゃ」
今すぐ。
そう思って俺は立ち上がった。そんな俺を見て優樹も立ち上がる。
「待ってよ、どこ行くの?」
「どこって、偉二さんの所に」
そう言って玄関に向かおうとすると、後ろから腕をギュッと掴まれた。
「行かないでよ」