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「優樹、離して。俺、行かないと」
「やだ…だって、行ったらもう、帰ってこないかもしれないでしょ?」
優樹は悲しそうな顔でそう言った。
確かにそうかもしれない。もし、俺のやった事を偉二さんが許してくれるのなら、図々しくも俺は偉二さんとやり直したいと思ってしまったから。
「…そうかもね。でも俺、謝らないと気が済まないんだ」
「そっか。なら仕方ないね。」
そう言って優樹は手を離した。俺がまたドアの方へ向かおうとすると、俺の耳へ優樹の口が近づいたのがわかった。その時、俺は嫌な予感がして、優樹からスっと離れた。ドルの力を使われる気がしたから。
「奏人、なんで避けるの?」
「だって今、ドルの力使おうとしたでしょ?」
俺がそう聞くと、優樹はニコッと笑った。
「うん、そうだよ。別にいいでしょ?」
「よくないよ。俺がドルの力で心コントロールされるのが嫌なの知ってるでしょ?」
「うん。知ってる。でも大丈夫だよ。だって奏人はいつも俺のドルの力でコントロールされてるから。高校の時も、今もね」
「…今も?」
「そう。俺は最初からあいつが奏人を騙した訳じゃないって知ってたよ。本人から直接聞いたから。でも、逆に利用してやろうと思ってさ。奏人がドルの力であいつのこと疑うように仕向けたんだ、俺」
「えっ…」
「高校の時だってそうだよ。奏人をいじめてた奴ら。あれも俺がやったの。」
「なんで…」
あまりの衝撃に俺は立ち尽くした。そんな俺をみて、優樹は冷たい目つきで言った。
「だって、邪魔だったから。」
言葉が出ない俺をおいて、優樹は話を続ける。
「俺が奏人と話したいのに、いつもあいつらがいて邪魔だったんだよ。まぁ、別に″奏人と関わるな″とかでも良かったと思うんだけど…どうせなら俺の好感度が上がるようなことしたいなって思って」
何言ってんだこいつ。全然理解が追いつかない。もう何も分からない。でも、とにかく今は優樹が怖い。
「だから、″奏人をいじめろ″って命令したんだよ?効果切れちゃうから毎日言ってたんだけど、俺が言わなくてもいじめ出した時はびっくりしたけどね」
優樹はそう言ってハハッと笑った。驚いて何も言えないままの俺に優樹は1歩近づく。
「だからさ、奏人。これからも俺の言うこと聞いてくれるよね?」
そう言った後、優樹は嬉しそうな顔で言った。
「…あ、そうだ!今度はあの人のこと忘れさせてみようかな!そしたら奏人ももう辛くないし、俺の事しか見えなくなるよね!一石二鳥だね〜!奏人〜」
嫌だ。怖い。狂ってる。俺の頭の中は恐怖で包まれた。
怖くて体が動かない。早く偉二さんのところに行きたいのに。怯える俺を見て、優樹はハハッと笑う。
「いいね、その顔。俺が怖いのかな?俺に怖がってる奏人も可愛いな〜。もっと見せてよ。ほら、あの人のこと、忘れさせてあげるよ?」
そう言って優樹は俺のすぐ側に寄る。まずい。ドルの力を使われる。偉二さんが記憶から消されてしまう。そんなのは絶対に嫌だ。
「やだ!」
俺は優樹の体を押し出そうとした。しかし、その手を掴まれてしまった。
「離して!いやだ!」
「もう、抵抗しないでよ奏人。大丈夫だよ。何も怖くないよ。大人しくして?」
嫌だ嫌だ嫌だ。お願いだからもうやめてくれ。
そう思った時、ある偉二さんの言葉を思い出した。
″今から奏人くんにドルの力を分けるね″
″使えるのは1回だけ。だから、どうしてもって時に使って″
…ドルの力。そういえば偉二さんが俺に分けてくれたと言っていた。あまり実感はなかったけど。
偉二さんの力を借りたら、優樹から逃げられるかもしれない。まだ使えたらだけど。
「奏人、大人しくなったね?諦めてくれたの?」
優樹はそう言って嬉しそうに微笑む。
でも、どうやって使うんだっけ。そうだ、あの時偉二さんが言った通りにやればいいんだ。
″ 使いたい時は相手の目を見て″
相手の目を見る。俺は優樹の目を真っ直ぐ見つめた。
「なに?奏人。俺の目、見てくれてるの?」
″頭の中で俺の言うことを聞け!って思いながら″
頭の中で…。俺の言うことを聞け。
「奏人、どうしたの?そんなに俺の目見つめて」
″言葉を発してね″
言葉を発する。俺は、少し力を込めて言葉を発した。
『俺に近づくな!』
そういった瞬間、俺の腕から優樹の手が離れる。
「奏人…なんで…」
ちゃんとドルの力が発動したようで、優樹は俺のそばには寄れないままでいる。俺は急いで玄関に向かった。
後ろから優樹が叫ぶ。
「行かないでよ奏人!」
俺はそれを無視して部屋を飛び出した。
早く偉二さんのところに行かないと。早く偉二さんに会いたい。
そう思いながらしばらく走っていると、急に眠気が襲ってきた。そっか。ドルの力の副作用が来たのか。でも、こんな所で寝てる場合じゃない。そう思いながら走った。眠気が尋常じゃないくらい来ていた。ドルの副作用はこんなにも強いのか。偉二さん、いつも大変だな。
強い眠気に襲われながらも、何とか偉二さんの家に着いた。家のチャイムを鳴らすと、少しして勢いよくドアが開いた。
「奏人くん!」
偉二さんだ。久しぶりに見る偉二さんはあの時から変わらず、とてもかっこよかった。また、偉二さんに会えた。嬉しいな。そうだ、それより早く謝らないと。
「偉二さん…ごめ…」
そこで俺は眠りについてしまった。眠りについて倒れそうになった俺を偉二さんが支えてくれたようで、その場で倒れることは無かった。
目が覚めると、俺はベッドで眠っていた。目の前に座っていた偉二さんと目が合う。
「奏人くん、大丈夫?ドルの力使ったんだよね、頭とか、痛くない?」
「…ん…大丈夫…」
そうだ、謝らないと。俺はそう思ってベットから出た。
「立たなくていいよ。水持ってくるから、座ってて?」
そう言って偉二さんはキッチンに向かった。
偉二さんは凄いな。あんな酷いこと言った俺にこんなに優しくしてくれるなんて。
俺は立ち上がってキッチンにいる偉二さんを後ろから抱きしめた。
「ごめんなさい…疑って」
俺が謝ると偉二さんはクルッと体の向きをこっちに変えた。
「それはもう、いいんだよ」
そう言って偉二さんはニコッと笑った。
「よくないよ。だって俺、偉二さんに酷いこと言ったでしょ?」
「確かに傷ついたけど、あれは優樹くんのドルの力のせいでしょ?奏人くんは何も悪くないよ」
そう言って偉二さんは俺の頭を撫でた。
「でも、酷いこと言ったのには変わりないし、偉二さん沢山傷つけた。本当にごめんなさい」
「ううん、僕もごめんね。優樹くんのしわざって知ってたのに、僕何も出来なくて…僕のドルの力で優樹くんのドルの力打ち消すことだってできたのに…何回かカフェの前まで行ったんだけど、奏人くんにまた拒絶されたらどうしようって、どうしても中に入れなくて」
そう言って偉二さんは俯いた。何気なく偉二さんさんの手元を見ると、手が震えているのが見えた。
俺は本当に最低だ。こんなに繊細な偉二さんの心を傷つけるなんて。
俺は震える偉二さんの手をとった。
「もう絶対、拒絶なんてしない。だって俺、偉二さんのこと大好きだもん。偉二さんに大嫌いって言ったあの日も、偉二さんと離れてた今までもずっと、偉二さんのこと好きだったよ」
「今は?」
偉二さんは不安そうな顔でそう聞く。
「大好き。超超超超大好きだよ」
俺がそう言うと、偉二さんは安心したような笑顔で言った。
「僕も大好き」
「虫のいい話だけど、俺の事、許してくれる?」
俺がそう言うと、偉二さんは少し考える素振りを見せた後、悲しそうな顔で言った。
「許さないよ?僕、凄い傷ついたもん」
「…だよね」
「嘘だよ。許すけどその代わり、ずっと僕と一緒にいてくれる?」
そう言って偉二さんはニコッと笑った。
「もちろんだよ」
そう言って俺は偉二さんの口にキスをした。
「もう、奏人。いきなりのキスは反則だよ?」
そう言って偉二さんはニコッと笑った。俺はなんだか恥ずかしくてつい目を逸らしてしまった。
「奏人、好きだよ」
「俺も大好き」
俺がそう言うと、唇に偉二さんの唇が触れた。
俺と偉二さんは顔を見合せて微笑んだ。
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