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れもん
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その日、サーバーに入った瞬間から、ひろの様子は少しおかしかった。
「うり」
「なに」
「今日さ……ずっと一緒にいていい?」
「……は?」
うりは一瞬フリーズする。
いつもなら冗談で流すはずのひろが、今日はやけに真面目な声だった。
⸻
拠点に入っても、ひろはずっとうりの後ろにいる。
「ちょっと、邪魔なんだけど」
「邪魔じゃないよ、護衛」
「何から守るの」
「うりがいなくなる未来」
「……意味わかんない」
そう言いながらも、うりの声は少しだけ柔らかい。
⸻
作業中、うりがチェストを開いた瞬間。
ひろがぽつりと、
「うりってさ」
「ん?」
「いなくなるの、やだな」
うりの手が止まる。
いつもの軽いノリじゃない。冗談でもない。
⸻
「……急に何言ってるの」
「わかんない。でもさ」
ひろは少し笑って、
「うりといるの、普通に楽しくてさ。だから、終わるのやだなって思っただけ」
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一瞬、静かになる。
ゲームの音だけがやけに大きい。
うりは視線を少しそらしてから、
「……ばか」
って小さく言った。
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「え、なんで?」
「そういうの、ちゃんと言われると困る」
「困るの?」
「困る」
即答。
でもその声は、怒ってるわけじゃない。
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ひろは少し近づくように動いて、
「じゃあさ」
「なに」
「困るくらい、もっと言っていい?」
⸻
うりは固まる。
しばらくしてから、ため息みたいに一言。
「……勝手にすれば」
⸻
その瞬間、ひろの声が少しだけ明るくなる。
「じゃあ決定」
「何が」
「うりは俺とずっと一緒」
「は?」
「異論は?」
「あるけど」
「却下で」
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うりは画面の中で一歩だけ下がる。
でも本当は、距離を取ったんじゃなくて、隠しただけだった。
ちょっとだけ速くなった自分の心を。
⸻
夜になって、拠点のベッドに並ぶふたりのキャラ。
ひろがぽつりと言う。
「うり」
「なに」
「今日さ、ずっと一緒にいれてよかった」
うりは少し黙ってから、
「……俺も」
とだけ返す。
⸻
「ねえうり」
「まだあるの」
「明日も一緒?」
「……当たり前」
「その次は?」
「しつこい」
「でも答えて」
うりは少し間を置いて、
「……ずっと」
⸻
その一言で、ひろが動かなくなる。
「え、それ反則」
「うるさい」
⸻
でもその夜、どっちもログアウトしなかった。
ただ並んで、同じ場所にいて。
何も起きないのに、ずっと心があたたかいまま。
ひろは思う。
(これ、好きって言っていいやつだよな)
うりは思う。
(言わせたくないのに、言ってほしいのなんで)
⸻
そして結局ふたりは、何も言わずに朝までそこにいた。
でも画面の中では、ずっと手を繋いでるみたいに近かった。
夜のサーバーは静かで、拠点の明かりだけがふたりを照らしていた。